序章ー2
『お前の腎臓をくれ』
その言葉はあまりにも唐突だった。予想できない言葉だった。
その言葉の意味がしばらく理解できずにいた史郎だった。
『どうしたの?』
駅の階段を下りながらやっと口にできた言葉。
『実はな、腎臓の病気で前から透析をしてただろ?
もう透析ではダメらしいんだ。大学病院の先生から今日、移植はどうかと勧められたんだ。』
『うん。確かに透析はしていたね。どのくらいになるかな?2年?』
史郎は、(めんどくさいな。なんで仕事が大変な時にややこしそうな話をしてくるんだ?それに医者の話を鵜呑みにしてんじゃないのか?)
と正直、同居先に両親の体調や、病気のことを考えると、【相談】という時間が持てない状況を
伸郎のどう話すのかを考えていた。
父は軽い脳梗塞の上、認知症も出始めている。母は初めての介護に戸惑いを隠せず、不安な日々を過ごしている。老後と介護が一緒にやってきたために生活ががらりと変わり、太刀打ちできないことに不安な気持ちでつぶされそうだ。
そんな時に、移植となれば、一人で話を進めることはできない。
ましてや、父は一人に置いておけないし、どうしたものか。。。
伸郎は、
『2年位かな。もう大変なんだよ身体がな。仕事もしてるし。医者は移植の方が、今後の為にもいいといってるんだよ。検査はいろいろ必要だけどな。まずは、お前の同意をとらないといけないからさ、な』
『同意といってもね。移植のことは詳しく知らないしさ。俺も家のことで大変なんだよ。わかる?』
思わず、強い口調で話してしまう史郎。
たばこの火をつけながら、思い切り息を吸い込み、【ふ~】っと大きく息を吐きだす。そして、数回
煙草を小刻みに吸い込み【ふ~~】っと煙を吐き出した。
伸郎の気持ちが急いで結論を出して欲しいと電話を通してわかってきた。
何度も
『な!』『わかった?』
と繰り返して話しかけてくる。
【なんで俺なんだ?】