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第九話 魔獣迎撃戦① エルトリート

マリアルイーゼが拠点観光している一方で、エルトリートが何をしているか、という話。



 天を仰げば、雲一つない青空。

 太陽は中天に位置していて、その熱は容赦なく大地へと降り注いでいる。

 視線を空から下げていけば、地平線の彼方に山の影が見え、さらに下げれば深緑の海が広がっている。

 快晴の割に空気は少々湿っていて、粘つくような暑さだ。

 ここは南国。というより熱帯地方だ。

 さて、なぜ俺がここにいるのかといえば。


「ししょ~! そろそろ降りてきてくださ~い!」


 おお、もう頃合いか。

 さて、と。

 飛行魔法解除! フリーフォールひゃっほう!


 ◇◇◇◇◇


 広大な熱帯雨林地帯にある、オーペグ首長国。

 国とは言っても、実際は様々な部族が住みやすい土地に一斉に集まってきて、とりあえず一緒にやっていこうか的な流れで出来上がった寄り合い所帯が始まりで、住み心地を追求してたらいつのまにか国が作れる規模になっていたという。

 国の気風はおおらかで、少々の事は気にしない。気にしなさすぎてこっちが心配になるレベルだ。


「師匠、呑気に空を飛んでる場合じゃないんですよ!」


 ちょっとした空き時間にプカプカ空中浮遊を楽しんでいただけじゃんか。


「いや、そんな気軽に超高等魔法を使わないで下さいよ」


 フリーフォールからの鉄男スタイルの着地を決め込んだ俺に、先程から文句を言ってくるのは【獅子の咆哮(レオス・ロア)】の団員で俺の部下で弟子だ。

 フェデリア・オリュンタートという、一言でいえば委員長。長いアッシュブロンドを一本の三つ編みに纏め、ただでさえキツめなつり目を更に細めている。

 暑い場所なのに長袖にズボン、さらに愛用のバトルローブを羽織っているので見てるだけで暑苦しい。

 俺なんか半袖にハーフパンツだぜ?


「冷風の魔道具がありますから暑くはありません。それにこれは私の戦闘装束ですから、装備するのは当然です。というよりもあなたが軽装すぎるんです! 何なんですか、その街に出る時の格好は!」


 キーキーとうるさい委員長のお小言を聞き流しつつ、熱帯雨林の反対側へと視線を移す。

 俺らのすぐ後ろは五メートルほどの崖になっていて、そこからはだだっ広い白い砂浜。さらに向こうには海が広がっている。

 透明度が高くて、俺にとっては画面の向こう側でしか見たことがない、南国の海。

 この場所は足首くらいの浅瀬が結構な距離続いていて、小魚くらいしか泳いでこれないので絶好の水遊びスポットにしか見えない。

 けど今は、戦場になりつつある。

 説教される俺の周囲には【獅子の咆哮】の団員たちが十数名いる。その他にも砂浜にはオーペグ首長国所属の魔法使いや戦士団が整列して待機している。

 そして、海の向こうからやって来るのは、海産物の化け物ども。


「エビ、イカ、タコ、あれはエビ?

 じゃねぇなシャコか」


 海から浅瀬へ上陸してきた巨大な海産物は、全て魔獣だ。

 いや、獣じゃなくね? と俺も最初は思ったが、魔法を使う化け物はみんな魔獣という種別だ。学者たちはなんぞ細かい区分や学名を付けているらしいが、一般人にとってみれば危険な存在に変わりはないし。

 日本だって昔は人以外の訳の分からないものを鬼と一括りにしていたはずだしな。


「リア、そこまでにしときな。大将、そろそろ向こうさんと合流しといたほうがいいんじゃないかい?」

「そだなー。んじゃ行くかー」

「もう! もっと真面目に仕事してください! ベラさんからも言ってやってくださいよ!」


 今回の遠征組のサブリーダー、アマゾネス然とした屈強な女戦士ベラの声に、これ幸いと説教から逃亡!

 まだフェデリアは言い足りないらしくベラも巻き込もうとする。やめてくれ、ベラのは説教(物理)なんだから。

 ベラは苦笑しつつさっさと来いと手を振る。


「全員揃ってる?」

「もうとっくさね」


 今回の遠征組は俺やベラを始め、大柄なハンマー使いのガド、大剣使いのハーケンなの近距離組八名。

 フェデリアを筆頭に弓兵のクペン、コペン兄弟などの遠距離組八名。

 後は外交担当の文官二名に魔獣の生態を研究している教授の計十九名だ。

 目的は至って単純。年一回、この浜辺から陸地にやってくる魔獣の殲滅だ。


「団長君、出来れば一体か二体、生け捕りにしてくれないかね?」

「無茶言うなよ教授。さすがに拠点じゃ飼育できねぇから」


 同行した団員であり生物学者のペレグリの言葉に即答する。

 こいつは二十前半と若くして世界最高学府の教員になったエリートだったけど、魔獣の生態を研究したいと言い出して、世界で最も魔獣と戦う俺たちの仲間になった男だ。あだ名は教授。


「ぬう、海の魔獣の研究は未だに進んでいないのに……」

「最小の傷で仕留めて、氷漬けにしてやっからそれで我慢しろよ」

「まぁいいか。解剖して内部構造の把握が……」


 などと会話しながら、俺たちは揃って浜辺を歩いていき、展開しているオーペグ戦士団の前線指令部まで移動する。格好よく言っているが、四本の支柱に日除けの布を結んだただのテントだけど。


「おおエルトリート殿、いらしたか」


 テントで俺たちを出迎えたのはオーペグ戦士団の総長、グェンリー・オム・ナントライ。浅黒い肌のマッチョメンで、頬に三本の傷跡のある歴戦の戦士だ。


「そろそろ迎撃戦が開始されるだろう。準備はよろしいか?」

「ああ。俺たちはオーペグ戦士団の援護を中心に、遊撃、あとはデカブツ相手に暴れる、と」

「よろしく頼む」

「あいよ」


 簡単に確認をして、テントから出る。作戦の打ち合わせは昨日までにみっちりしてあるから大丈夫。

 オーペグは昔からこの季節にこの浜辺で魔獣の迎撃戦を繰り広げてきた。そのために足場の悪い浜辺での戦闘は訓練に組み込まれていて、まるで平地のように軽快に動ける。


「んじゃ、打ち合わせ通りに前衛組は最初は援護な。後半になったら暴れてもらうから。後衛組は数を減らすことに専念。後半用に余力は残しておけよ」


 了解! だの応! だの好き勝手な返事とともに事前に決めた位置へと展開していく。


「さぁて、海産物祭りだ!」


 海産物たちは波しぶきを立てながら浅瀬を爆走(?)してくる。前列にはエビやシャコといった殻をもった小型種。その後ろにはタコ、イカ、ウツボといった中・大型種が続く。

 連中は別に意図してそんな陣形を組んでいるわけではない。ただ単に動きの軽快な小型種が先行してそうなっているだけだ。

 つーか海産物が意思を統一されてたりしたら怖いわ。


「魔法隊、弓士隊、準備!」


 オーペグ側の指揮官の号令によって遠距離攻撃が可能な者たちが一斉に攻撃態勢へ。

 やっぱ格好いいよな、こう、大人数が一斉にザッザッ! って動くの。


〈おーし、遠距離組も攻撃準備なー〉

〈〈〈了解!〉〉〉


 遠距離通話が可能な念話魔法で遠距離組へ指示を飛ばす。

 この魔法、相手を設定するのは面倒だけど、それさえ済んでしまえばこのように遠く離れた相手ともすぐに会話が出来てすげぇ重宝している。

 聞いた話じゃ遺失魔法とかいうのにカテゴリされてるみたいだけど。

 おっと、そうこうしている内に小型種が浅瀬の三分の二を踏破していた。


「放てー!」

〈こっちもブッ放せ!〉


 号令とともに大量の矢と、色とりどりの魔法が敵前列に突き刺さる。

 甲殻類に矢って効かないと思うだろうが、そこは長年の経験の賜物。弓矢と言っているがバカデカイ杭を飛ばすバリスタもあれば、特殊な形状の鏃で天高く打ち上げて落下するとともにドリルの如く回転して甲殻を削るもの、さらには甲殻類特効の特殊薬剤(水溶性)を詰めたものなど多種多様だ。

 魔法は岩や氷など固形物が中心だ。こちらも天高く打ち上げて質量でダメージを与えることが目的だ。

 轟音と、振動。

 着弾の衝撃で舞い上がる水飛沫。体の芯にまで響く衝撃が砂浜を揺らす。


「戦士隊、武器を取れ! 討ち漏らしが来るぞ!」


 水煙を吹き飛ばして甲殻類が姿を現す。

 先程の攻撃を食らって所々甲殻が剥げていたり、脚や触覚などが脱落している個体がいるが、運よく無傷なものも多い。

 ついに敵が砂浜へ上陸する。


「突撃ぃ!」


 オーペグ戦士隊の現在の装備はメイスを始めとした打撃武器だ。硬い殻は叩いて砕くに限る。

 巨大エビと人間が真っ正面から激突する。


「おんどりゃあぁっ!」

「く! だ! け! ろ!」

「ふんぬあぁ!」


 野太い雄叫びとともに下っ腹に響く打撃音。続いて小気味良い破砕音。

 大質量の生物が、人間の攻撃によって突進を止められる。そんなバカな光景が広がっていた。

 もちろん、中には失敗して撥ね飛ばされた者もいたが、きちんと受け身をとって砂浜を転がっていく。


「相変わらずパねぇなおい」


 突撃してきた甲殻類は小型とはいえ体高二メートルほどもある。

 そんな奴等を止めるには、少々小細工が必要だった。

 その小細工の内、最も大きな役割を果たすのが目の前にある浅瀬だ。

 実はこの浅瀬の部分、メイド・イン・俺。以前はこの部分がなくて直接上陸して来た海産物を延々と倒していくものだった。敵は海の中で、いくら澄んでいる海とはいえ陸地から遠くなれば目視などできなくなる。そんな状態で敵の種類も数も、いつ終わるかも分からない戦いを続ける。いくらなんでもそれはキツイなんてもんじゃない。

 数年前にサトウキビがないか探しに来た俺はちょうど迎撃戦をやってた戦士団に加勢し、無事撃退。

 ムリゲーすぎるので色々口を出して、許可も貰って土砂や石を転移魔法で運んでここを埋め立てた。

 目的はもうすでに実践しているが、海産物の可視化と先手をとること。

 まず終わりの見えない戦うなんて御免だ。俺なら自然破壊と引き換えに大火力で一掃できるが、いつまでもアテにされても面倒くさい。

 だから許可を貰って埋め立てて、連中を強制的に海上に引き上げた。敵の全容が見えれば対策は容易だ。

 ただ一つ気がかりだったのは、敵の物量を見て戦意喪失しないかだったが、杞憂だった。

 海産物を放っておくと国が蹂躙される。それ即ち自分の大切な者たちが危険に晒される。それを許す男はオーペグにはいない。

 今もオーペグの戦士たちは戦意を滾らせて戦場に立つ。


〈さぁ、俺らもいくぞ! 狩りの時間だ!〉

〈〈〈よっしゃあ!〉〉〉


 前衛組とともに、砂浜を駆け出す。


エルトリートは結構頻繁にあっちゃこっちゃ出歩いて色んなフラグを立てているので、顔の広さは世界有数とかいう設定がいきなり生えました。

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