第五十三話 惨劇の夜③
「……なんだそりゃ?」
エルトは訝しむ。
エザレムとその仲間たちの背からいきなり目もくらむような光が放出されたかと思えば、それがまるで翼のように形をとって背後に滞空しているのだ。
光の翼は陽炎のように揺れ動き、まるでオーロラのように色を変えていく。
掴まれたまま苦悶の表情を浮かべていたマレアも、驚きのあまり抵抗を止めていた。
「ふふ、これこそ我が神からの祝福。配下の証。使徒たる我らの真実の姿」
エザレムは先ほどとは打って変わって恍惚とした表情で上機嫌に告げる。
「下等なる人間よ。跪き、頭を垂れよ。汝らは今、神の僕の前にある」
「……狂信者かよ」
減らず口を叩くエルトだったが、知らず冷や汗をかいていた。
エザレムたちが光の翼を出してからというもの、威圧感がまるで違う。
物理的な圧力でももったかのような圧迫感。そして、初めて凶悪な魔獣と対峙した時に感じた──恐怖。
「同志たちよ。頃合いだ。儀式を行う。邪魔が入らぬよう対応を」
エザレムの命令に、男たちは頷いて一斉に動き出した。
武器を構え、エルトへと。
光の翼は伊達ではないらしく、まるでエルトの飛翔魔法のように地面すれすれを滑るように接近してくる男たち。
手にする武器には、あの謎の光──光の翼と同質のものを纏わせている。
先ほどのものとは比べ物にならないほどの光量のそれ。
「ならよ!」
このままレーザーナイフを使っても無力化されてしまう。いや、逆にこちらがダメージを負うだろうと判断したエルトは身体強化を施した上で自身も前へと出た。
地面を一歩一歩抉りながら加速すれば、あっという間に距離がゼロになり、男たちはエルトを殺そうと武器を振りかぶり、
「ボム」
さらに加速したエルトが小さな体を生かして隙間を掻い潜っていく。
エルトの狙いはあくまでもエザレムに捕らわれたマレアの救出だ。
マレアを掴んだまま鍛えた太い腕を天に掲げ、何やら呟いているエザレム。その顔面を砕くために、仲間たちの相手をする時間はない。
だから鮮やかに、素早くディフェンスを抜けつつ置き土産に範囲は狭いが超高火力の設置型爆弾を発射。
背後で大爆発。
爆風を追い風にして一気にエザレムへと肉薄し、
真横からハンマーで打撃された。
「──っ!?」
衝撃。世界がぐるりと回転していく。右腕が熱い。煌めく白い線。真っ黒な塊。大きな何かが。
「がっ!」
受け身も取れないままエルトは太い幹を持つ木へと叩きつけられた。
全身を強打されたせいで息が出来ない。
それでもエルトは動いた。
木なのか、それとも自分の肉体なのか、ミシミシと軋む音が聞こえたがそれよりも早く飛翔魔法を展開し、強制的にその場を離脱。
同時に何かが破砕される。
エルトが叩きつけられた木へ、男たちが攻撃を加えたのだ。いや正確に言うならばエルトが避けたために木が破壊されたのだ。
「……っの」
自分へ回復魔法を使い、なんとか態勢を立て直そうとする。
が、そんなことを許してくれるほど甘い相手ではなかった。
夜空に飛び上がったエルトを、十人の男たち──使徒たちが取り囲む。
「空を飛べるのは、貴様だけではない」
強者と対峙した場合、一瞬でも気を逸らせばそれは致命的な隙となる。
未だダメージの抜けきらないエルトへ、十人の使徒たちは巧みな連携で攻め立てた。
斬撃が。刺突が。射撃が。打撃が。
肉を断ち。内臓を抉り。目を穿たれ。骨を砕かれる。
「────────」
チート能力を得て、各国を渡り歩きながら好き勝手に暴れ、『小さな悪鬼』と呼ばれ、多くの者から恐れられ、憎まれたエルトリートが。
もはや死に体ともいうべき無残な姿に成り果て、地面へと堕ちていった。




