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第五十一話 惨劇の夜①

過去編。暗い話。六日間連続更新。

 その日、エルトリートは拠点建設のために必要な物資を手に入れるために、拠点建設地点よりかなり離れた場所へと足を運んでいた。

 そこは旅をしていた時に立ち寄った鍛冶職人たちが多くいる鉱山の街だ。

 そこで騒動が起こり、エルトにまで火の粉が降りかかってきたために全力で振り払った結果、職人たちに気に入られ、何かあったら優先的に仕事を請け負ってやる、と言われたことを思い出して発注に来たのだ。

 発注するのは斧やハンマー、シャベルといった道具類だ。

 流石に魔法があるとは言えそこまで万能ではない。細かな部分は手作業でやらなければならない。


「しっかしまぁ、こんなに大量の道具類を必要とはなぁ。なにやんだ?」

「ああ、俺らでいっちょ、街を造ろうと思ってよ」

「正気かよ!?」


 マレアから渡されたメモ片手に買える物は買って亜空間収納へとしまい、足りないものを職人たちに注文してから久々の再会を祝しての宴会に参加したエルト。

 お互いの近況を教えあってガハハと笑いながら酒と食い物をどんどん消費していく。


(……んん?)


 しかし、楽しい宴会の最中にエルトは胸騒ぎを覚える。

 それは最初、出かけてから家の戸締りをしたか不安になったレベルだったためにエルトも特に深刻に考えなかった。

 けれど段々その胸騒ぎは大きくなっていき、ついには焦燥感にまで至ってしまった。


「どうしたぁ?」


 すっかり出来上がった職人がエルトに問いかけるが、エルトはそれを無視して立ち上がる。

 酒ではなくジュースを飲んでいたエルトはしっかりとした足取りで宴会をしていた酒場を出ようとする。


「お~い、ぼうず~?」

「悪い、ちょっと用事思い出した! 後は楽しんでくれ!」


 そう言って硬貨の入った袋をじゃらりと取り出し、テーブルの上に放る。

 口から零れた金貨たちを見て店主含め喝采を上げる。


「んじゃ!」


 そのままエルトは飛翔魔法で夜空へと飛び立つ。

 本当はこの街で一晩宿泊して朝になったら帰還する予定であったが、ひどく焦りを覚える現状、ひとまず帰還することを優先した。


(俺が心配になるってのは、やっぱ拠点の所だよな。虫の知らせってやつか? けど、あそこには戦える奴もいるし、寝泊まりする所には結界を張ってる訳だし……魔獣か? 強そうな奴は狩ったし、森林狼たちがいるからそうそうピンチにならないはずだ)


 冷たい夜空を全速力で飛翔しながら焦燥感の原因を考える。

 一応だが、拠点建設予定地にいる一団には自衛能力もあるし、危険な魔獣はすでに討伐済み。さらには森林狼という魔獣の群れを配下にしている。

 それでも何かあるとすれば、それらでも何ともならないほどの強敵でも現れたのか?


(どっかの国が軍隊でも持ってきた? いや、そこまで機動力のある軍隊はないはずだ。決戦存在が単騎で来たか? どっちにしろ俺が張った結界を外からぶっ壊すなんて……中にいたか!?)


 魔獣でないなら人でしかない。

 どこぞの軍隊か。それとも決戦存在と呼ばれるリアル無双ゲーキャラか。

 旅をしている間に軍隊とも決戦存在とも戦ったが、エルトが全力で張った結界を壊せるほどの者はついぞ現れなかった。

 まさか結界内に──エルトについてきた一団に潜り込んでいたのかと疑ったが、それも即座に否定する。

 決戦存在というのはいわば国の看板だ。

 俺の所にはこんなにツエー奴がいるんだぞ! と積極的に宣伝し、抑止力であり戦争になったらイの一番で投入される鉄砲玉だ。

 顔やどういった人間かなど、商人を介して広く周知されている。

 そんな人材が一団に紛れればすぐに分かるほど有名だ。


(まぁいい。さっさと帰れば分かることだ)


 悩むことが苦手なエルトは思考することを放棄して飛行することに集中する。

 障壁を展開し、空気の抵抗を少なくした上でさらに速く。

 月に照らされた大地を飛んでいく。

 すると、遠くの方に灯りが見えた。


(ん?)


 その灯りを、エルトは拠点建設地点のものかと思っていた。

 しかし、すぐに否定する。

 そもそも拠点建設地点は周囲に街などがなく、さらに言えばいくら夜とは言え明るすぎた。

 電灯などないこの世界で照明と言えば松明や篝火だ。

 魔道具と呼ばれるものもあるが、それとて室内を照らせる程度で光量的には大したことはない。

 街の明かりですら、夜に遠くから見れば豆電球みたいなものだ。


 それなのに煌々と光って見える。

 しかもオレンジっぽく。

 それが意味するものとは──。


「襲撃されて、燃えてんのか!?」


 エルトは戦闘態勢に入り、戦場へと突入した。


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