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第五話 服屋さんへGO

短いです。

あと濃い新キャラが出てきます。

 お昼時を過ぎてしばらくすると、街はお腹いっぱいで活力を取り戻した方々で溢れかえります。

 商人の皆さんは持ってきた荷物を下ろしたり、買い付けた物を積み込んだりと忙しなくて。

 団員の方々も仕事場に戻るためだったり、必要な道具の修理や買い物のために出歩いていますし。

 主婦の皆さんは一仕事終えて井戸端会議していたり、子供たちは友達を誘って遊び場に駆けていきます。

 そんな活気あるメインストリートにて、ミティアーネさんは元気よく宣言しました。


「さぁ、お腹いっぱいになったところでお楽しみの買い物だー!」


 昼食後、特に私の予定がないと聞いた皆さんに買い物に誘っていただきました。

 私は今のところ、仕事という仕事は任されておりません。

 朝、エルトさんを起こすのと朝食の支度をするのは……いわば恩返しの一環ですし、その時にエルトさんの一日の予定を聞いて副長さんにお知らせするくらいで。

 ただ、副長さんたちには有り難がられ、多少のお給料をいただいています。

 最初はこのくらいでお金を貰うなんて、とお断りしたのですが……エルトさんはお寝坊さんなので、朝の朝礼に欠席しがちで、さらには勝手に出歩いて連絡がつかないなんてことが多々あるとのこと。

 私が朝起こすことで朝礼が速やかに始まり、エルトさんの予定を聞き出すことで副長さんたちが先手をうって行動できるので、大層喜ばれました。

 ただ、私自身もっと本格的なお仕事をいただきたいのですが。

 お父様は元財務大臣ということもあって傭兵団の財務関係の部署で働きはじめています。即戦力で、部署の方には大好評だと言ってました。

 お母様は高位貴族として社交界のノウハウを持っていますから、団員の方々にそれを教える講師役として過ごしています。

 お兄様たちも見習い団員として一から頑張っています。

 皆、貴族だった時より生き生きとしています。

 そんな中、私だけ無職というのは……。

 家族は今まで頑張り過ぎたのだから、長期休暇だと思えって言われましたがどうにもソワソワしてしまいます。


「今日はつれ回すよ~。いっぱいつれ回すよ~」

「あ、あの、そこまで張り切らなくても~」

「なぁに言ってるのさ! オススメのお店はたくさんあるし、知ってて損はないよ~」


 ミティアーネさん、すごく張り切ってますね。


「あの、キャナルさん?」

「ふふ、今日は付き合ってね。ああなるとミティは止まらないし、実際、他国でもお目にかかれないものが一杯あるから。損はしないわ」

「だいじょうぶ。きっときにいる」


 キャナルさんとエムリンさんが苦笑しています。


「んじゃあ、まずはどこ行こっか? 小物? 服? あ、家具もあるよ~?」


 ほ、本当に色々揃っているんですね。

 私たち一家は団員ということで家を一軒、お借りしています。元貴族の方のために何軒かそういった家が建てられていまして、そこをありがたく使わせていただいています。

 手入れが行き届いていて、さらに家財道具一式も揃っていて、かなり恐縮しました。だって、いくら依頼とはいえ救っていただいたのに、ここまで良くしてもらうのは、どう考えても不相応な待遇ですから。


「いやい~んじゃね? どうせ使ってねぇし。その分、頑張ってくれればいいし」


 と、エルトさんは仰ってくれました。

 そのご恩に報いるために、家族は今も仕事に励んでいるのに。

 いいのでしょうか。


「マリアルイーゼさん、今、こんな風に遊んでいていいのかって悩んでいるでしょう?」

「え? あ、はい。そうです。家族は頑張っているのに、私は……」

「いいんですよ」

「は?」


 いいって……どういうことでしょうか?


「あなた、自覚がないでしょうけど、疲れきっているの。体は回復しているけれど、心がね」


 こころ?


「マリアルイーゼさん、今は何も考えず、買い物を楽しみましょう!」

「え?」

「だいじょうぶ。すぐになにもかんがえられなくなる」

「ええ?」

「さぁ行くよー!」

「ええ~!」


 引っ張らないで~! 押さないでぇ~!


「さぁさ、まずは服だー!」

「せっかくのランチなのに制服姿とは……その挑戦、受けて立ちましょう!」

「きせかえにんぎょう」


 キャナルさん? 私は特に挑戦した覚えはありませんよ!?

 エムリンさん、なんで疲れていらっしゃるの?

 私が制服姿なのは、就業中だからですよ? 特に仕事を与えられていないとはいえ、働くのであれば制服を着るのは当然だと思うのですが。

 前世では通勤時は私服で、会社のロッカーで制服に着替えていました。でもここは満員電車もなく、徒歩でもすぐ着きますし、何より今着ている制服は私の知っているものよりも伸縮性があって着心地もいいのです。


「それで、私服の方は?」

「……ありません」


 はい、制服は予備含めて数着いただきましたが、私服の方は以前見かけた服屋さんで合うサイズのものを数点、主に部屋着として購入したくらいで。


「だめよ! ドレスくらいしか選択肢のなかった以前の生活ならまだしも、今はただの平民。もっと色々なデザインの服を着て楽しむべきよ! あの拷問のように締め付けるコルセット、髪の毛を痛め付けるだけの結い方、小さいわりに重くて邪魔なアクセサリーから解放されたのだから、もっと自由に、気楽にお洒落しないと!」


 キャ、キャナルさんがすごく力説しています!

 確かに、コルセットの有無はとても大きくて、今はすごく楽ですけれども。

 そんな風にワイワイと、まるで前世で羨んでいた友人同士のやり取りをしている内に、一軒のお店の前に到着しました。


「というわけで、服だー!」

「こほん。このお店は私も贔屓にしているの。既製品の種類が豊富で、さらに質もいいのにお手頃価格。もちろんオーダーメイドにも対応してくれるわ」

「わたしのふくも、ここの」


 エムリンさんの服装は、長袖の薄い黄色のワンピースです。胸元にリボンがあって可愛らしいですね。


「ここならきっと気に入るデザインがあるわ」


 そう言われても、ちょっと困りました。

 何分、ファッションセンスなどというものとは無縁の生活をしてきましたから。

 でもそんなことは知らないお三方はドアを開けて入店してしまいます。

 私も慌てて店に入ると、


「いらっしゃいませぇ、ようこそワンダークローゼットへ」

「? ……!?」


 一瞬、何がなんだか分かりませんでした。

 お店に入れば、店員さんがお出迎えしてくれたり、いらっしゃいという声が聞こえてくるのは、何らおかしなことではありません。

 声が、私の想像していたものとは大きく異なったものでした。いえ、別にこれは侮辱だとか、そういったことではないんです。

 私はこういったお店の店員さんは女性だと思っていました。ですが、聞こえてきたのは……妙に裏声の男性のものだったのです。


「あら、可愛らしいお嬢さんね?」


 出迎えしていただいたのは、浅黒い肌の、男性でした。かなり身長のある方で百八十センチは確実にあるでしょう。体型は細身で、モデルさんのようです。

 ただ、ズボンもシャツも、かなりタイトで……ピチピチです。

 あと、一際目を引くのが、すごくフサフサしている髪の毛です。アフロヘアーというんでしたか。


「初めまして、お嬢さん。アタシ、この店のオーナーのレライエンジェシカっていうの。気軽にジェシカって呼んで?」


 笑顔で片目をパチリ、と。

 ど、どう、どうすればいいのでしょうか!? この方は所謂オネエと呼ばれる方ですよこういった場合はデリケートな問題でしょうから言葉を選ばなければなりませんがどのように対応するのが最善なのかああ今までにこういった方との交流がなかったのが悔やまれますテレビでも特に注視していたわけではなかったので情報は皆無でどのように挨拶をすれば普通ですか普通で良いんでしょうかでもつまらないと思われませんか思われますよねでは陽気な感じでできませんそれは無理です私がそのようなことをしても場が白けるだけで忘れもしませんあの中学二年の……。


「おーい! マリアー、帰っておいでー!」

「ひゃい! にゃ、なんでしょう!?」


 大きな声で我に返った私の目の前には、ミティアーネさんの顔がありました。


「ほら、いったじゃない。いきなりジェシカさんに会わせたらどう反応して良いか分からなくて固まってしまうって」

「えへへ~、ゴメンゴメン。マリア、大丈夫?」

「え? あ、はい?」


 ど、どういうことでしょうか?


「ごめんなさいねぇ。ミティったら、マリアちゃんがアタシのことを見てどういう反応するか見たいって言って。大体、アタシと始めて会う人ってぇ、後退るか、おもしろがるか、気持ち悪がるか、どうしていいのか分からずに固まるかなのよねぇ」

「ちなみに、アタシはおもしろくて笑った!」

「私は後退りして、エムリンは無言で逃げたのよね」

「びっくりした」


 は、はぁ。

 あの、私はどうしたらいいんでしょうか?


「ごめんなさいねぇ。こんなことする悪い娘は、あとでおしおきしておくからぁ」

「え~、あたしだけ~?」

「あたりまえでしょう? 大丈夫よぉ、また新作の宣伝も兼ねて街中を歩いてくれれば良いから」

「またあーゆーの着るの~? レースとかいっぱいついてて動きにくくてやだよ~」

「んもう、可愛らしく着飾りなさいな、せっかく女の子になったんだから」


 話をお聞きする限りだと、どうやらジェシカさん? はミティアーネさんに可愛い服をきせたいみたいですね。

 確かにミティアーネさんは可愛らしい方で、なおかつスリムな体型なのでモデルさんとして活躍していてもおかしくはありません。

 けれど、彼女はスカートよりもズボンなど動きやすい格好を好む方なので、話に出てきたようなレースの付いた服装は嫌なのでしょう。

 でも、どんな服なのでしょうね?


「マリアルイーゼさん、これこれ」

「え?」


 キャナルさんが指し示した方へ目を向けましたら、なんでしょう、前世でも見たようなドレスがハンガーにかかっていました。

 薄い桃色や黄色などの明るい生地に白いレースがふんだんに使われているタイプと、紺や濃い赤など暗い生地に黒のレースが使われているタイプがあります。

 なんというんでしたか……ゴシック……?


「これはジェシカさんが腕によりをかけて作成した、ゴシックドレスというものです。ゴシック、というのがどういう意味かは知りませんが、見ての通り生地が何層にも重なっています。でも見た目よりは軽く、通気性もいいの」


 なんでしょうか、この技術の差は。

 私も元とはいえ貴族令嬢でしたので、何かにつけてドレスを着ていました。

 ドレスは端から見れば華やかですが、中身は結構大変なのです。前世で着ていた服と違って、肌触りはいいのですが生地自体が厚く、通気性はあまりよくありません。また淑女は肌を見せないのがよしとされていましたから暑くても長袖で、スカートも地面につくほどの長さで……真冬でも脱いだら汗だくでした。

 あせもができないようケアも大変でしたし。

 一般的な令嬢でしたらそれが当たり前で、教育もあって文句を言いつつも耐えていくのでしょうが、私は正直な所、辟易していました。

 もっと軽くて、着やすいデザインはないのかと常々愚痴ってしまって。


「令嬢の着るようなドレスと違って一人で着られるようになっているのよ」

「ここのふくはだいたいそうなってる」

「そうなんですね……」


 ああ、夢にまでみた着やすい服がここにあるなんて。夢では実際よりも硬くて大きいコルセットに捕まって、まるでダッフルコートのようなドレスが覆い被さってきて、起きたら嫌な汗をかいていたことがあります。


「まぁ、ここではお祭りの時くらいしかこういうのは着ないし、普段着るようなものは奥にあるわ」


 私たちが今いるのは店の入り口でした。いきなりの出来事に固まってしまったせいで長い間道を塞いでいます。

 慌てて周囲を見渡しますが、他のお客さんの姿が見えませんね。


「あの、他のお客さんは……?」

「んふ、大丈夫よぉ。今日はお店、ちょっとお休みだから」

「貸しきりだー!」

「え?」


 まさかの休店日にお邪魔していたとは。


「そろそろ季節の変わり目でしょう? だから配置をちょっと変えるの。でも半日くらいでおわっちゃうのよねぇ。そこで、キャナルちゃんたちがアナタを連れてきたいって言ってたから、こうして待ってたのよ」


 ジェシカさんは少々奇抜(?)な方ですが、話してみるととてもいい人のようです。


 ズキリ、と胸が痛みました。


「さぁマリア、お着替えしましょうね~」

「マリアルイーゼさんは素材がいいから、色々似合いそうね」

「うふふ、血が騒ぐわぁ。まずはどれからいこうかしら?」


 え?


「がんばって」


 ええ!?


 その後、私は数時間もの間、色々な服を着せられました。

 着せ替え人形とはよくいったものです。


真面目なマリアルイーゼが振り回される、の図。

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