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第四十九話 追憶② バレン

 エルトもいつまでも根無し草じゃなぁって考えてはいたらしい。

 俺らもエルトについていきたいが、いつまでもあっちこっち動き回るのにうんざりしていた訳だ。

 そこでマレアの嬢ちゃんが決め手の一言。


 すっごいの、自分らでつくろう。


 馬鹿っぽい?

 嬢ちゃんはいっつもこんな話し方だったな。


 とはいえ俺らみたいな平民やら追い出された連中が拠点なんて作ろうにも場所がない。

 それに、きちんとした知識もない。

 結構な人数が居たわけだし、そこそこどころじゃない規模が必要な訳だ。

 言っといてなんだが、ないない尽くしの状態だった。

 それが、あの馬鹿がいきなりいなくなったと思ったら、土地貰ってきたとか言って帰ってきてな。


 そう。ここだ。


 ここの土地一帯をエルトの領土にするって結構な国の同意書やら移譲書やら持ってな。


 どうやって?

 知るか!


 ともかく。

 ここの土地がエルトの土地になったことで、俺たちはここに腰を落ち着けることになったんだな。

 最初は森だけだった。

 すぐ近場に木を切り倒して丸太小屋を建てて、そこで寝泊まりしながら開拓して……十年とか二十年とかの長い目で見てたわけよ。

 そしたらおめー、この森はとんでもない場所だったてのが分かってな?

 魔獣の巣窟よ。

 猿や熊、猪、鹿とやべぇやつらがタンマリいたわけだ。

 さてどうするか、ってところでエルトが戦える奴を率いて、大討伐よ。

 いやぁ最初は魔獣が多いって聞いた時には終わったかと思ったが、エルトが間引いてくれたおかげで何とかなったしな。

 そこから、魔法使い連中が大まかに整地して、手分けして木を運んで加工して……と連日大騒ぎだ。

 あとはエルトがどっかから必要なもんを調達してきたり、新しい奴らが合流したりとさらに賑わってなぁ。


 んで、だ。

 あらかた整地したらな。

 マレアの嬢ちゃんが皆を集めて大きな紙を見せてきた訳よ。

 そこにな? 拠点の絵が描かれていたんだよ!

 上から見た絵でな。

 さらには分厚い紙の束も持ってきてな。

 これまた細かくどこをどうすりゃいい。これはこうやって作るって書かれていてな。

 いやすごいのなんのって。

 天才ってのはこういう奴を言うのかって感心したわ。

 中には職人もいてな。そいつらと顔を突き合わせて毎日毎日喧嘩みてぇに言い合って、細かい指示出して、ほんとにガキかよってな。

 あん時はほんと、皆生きてるって顔してたぜ。

 なんてったって、自分たちのための街を自分たちで造るってんだからよ。

 エルトもはしゃいでよ? あのすげぇ魔法を大盤振る舞いする訳だ。したらおめぇ、十個も二十個も計画前倒ししやがってな! あん時の嬢ちゃんの顔ったらよ!

 半泣きになりながらエルトを追いかけまわして、あのエルトが頭下げて必死に謝ってたんだぜ?


 俺らはそういった光景を見て、笑って、はしゃいで、楽しんで……。

 いつまでも、こんな風に、やっていけると思ったんだ。

 思ってたんだがなぁ……。


 ある日の夜、俺らが寝てたらな?

 いきなり爆発が起こったんだ。

 何事かと思って急いで外に出たら、俺が寝ていた場所の近辺は無事だったが、ちょいと遠くの場所が盛大に燃えててな。

 そこにゃ資材やら置く倉庫と、炊事場なんかがある場所で、まさか火の不始末かと疑った訳だが、さらに爆発して、悲鳴が聞こえてきた。

 魔法で、暴れていたんだ。

 慌てて駆け付ければ、そこに立っていたのは……エザレム。

 エザレムってのはな、途中で一団に加わった奴でな。一目で戦士だって分かるくらい鍛えていた奴でな。十人くらいの仲間と一緒に放浪していてそろそろ腰を落ち着けたいなんて言っていた。

 いっつも自信満々な態度で、俺みたいな小汚い下っ端からすりゃ他の所でもやっていけそうな奴だった。

 ただ、奴の目は最初からいけ好かなかった。

 目の前を見ているようで、どこか遠くを見ているような……どうにも気味の悪い目をしていた。

 でもまぁ、色々な奴がいたからな。そういった奴も中にはいるだろって思ってあんまり関わらなかったんだが……。


 エザレムが何をしたかって?

 虐殺だよ。

 エルトにくっ付いてきて、一緒に拠点を造っていた連中を殺しまわっていたのさ。


 戦える奴も、そうでない奴も。

 女だろうが、子供だろうが、老人だろうが関係なし。

 奴らは強かった。

 強すぎた。

 仲間の中でも一線級に強い奴らがまるで新人相手にでもしてるかのようにあしらわれて、殺された。


 あ? エルトはどうしてたって?

 あいつは、あの時は資材を調達しにいっててな。いなかったよ。

 その時を、エザレムは狙ってたんだろうな。

 俺は真正面から戦うなんて出来ないからな。

 逃げようとしたさ。

 でもな、その時、エザレムの仲間がガキを一人、無理矢理連れてきたのさ。

 マレアの嬢ちゃんだった。

 エザレムが何で虐殺やら嬢ちゃんを連れてきたのかはその時は分からなかったが、アイツ、わざわざ大声で説明してくれたよ。


 エザレムは邪教徒だった。

 皆知ってるだろ?

 女神とは別の、破壊と殺戮が正しいっていう頭のおかしい連中だよ。

 あの野郎、俺たちを邪教の神の生贄にするっていってな。

 供物になることを光栄に思えだとよ!

 んで、だ。

 マレアの嬢ちゃんは何かしら特別な力を持っていたらしくてな。

 エザレムは嬢ちゃんを狙っていたらしい。最初からな。

 俺だって怖かったさ。

 ただな。だからって嬢ちゃんが殺されるのをワザワザ見捨てる訳にはいかなかった。

 だってよ。

 こんな俺にすら、出来ることがあるって教えてくれたんだぜ?

 いい娘っ子だったんだ。

 なけなしの勇気を振り絞って、助けに行ったんだ。


 なのに、なのによ。

 あっさり吹っ飛ばされて、立てなかった。

 悔しかった。

 なんで俺はこんなに弱いんだって。

 俺の他にも飛び掛かった奴らがいたが、全員吹っ飛ばされた。

 エザレムは嗤っていた。


 けどさ、そんな時だ。

 エルトが空から降ってきた。

 あいつの強さは知っていたから、安心したんだ。

 ああ、これで助かるって。

 アイツが来てくれたら、嬢ちゃんは救えるし、エザレムたちもぶっ殺してくれるってな。

 まぁそれもすぐに消えた訳だが。


 なんでって?

 信じられねぇだろうが、エザレムたちに、エルトが押されていたんだよ。

 エルトが来たらな、エザレムたちの背中に、なんていうんだ? 色んな光が集まったような、波打ってるような、こう、そう、光ってる羽根みたいなのが出てきてな。

 それだけでも驚いたのに、エルトが、あのエルトがいいようにあしらわれて、殴られて、蹴られて、血みどろになっていたんだ。

 絶望ってのは、あの時みたいなことを言うんだろうな。


 エルトがやられたら、俺達にはどうすることもできない。

 俺たちはただ、マレアの嬢ちゃんが殺されるのを見ていることしかできなかった。

 出来なかったんだよ……。

 あの時のエルトの絶叫が、今でも聞こえてくるぜ。



 その後だ。

 エザレムの光る羽根が、でかくなった。

 あの野郎は満足してた。

 嬢ちゃんを生贄にしたことで、神から力を授かったってな。

 それで、どんな魔法かはわからねぇが、使われて、目の前が真っ白になって。

 気が付いた時には全部終わってた。


 テントの中に寝かされていた。

 他にも何人も、怪我だらけでな。

 這い出してみりゃ、一面焼け野原。

 せっかく造ってた拠点も壊されて、エザレムたちに襲われて、生き残ったのは半分以下だ。


 エザレムはどうしたかって?

 エルトがぶっ殺した。

 そう言ってたぜ。本人が。

 正確な話はあいつが喋らないから分からない。

 ただ、エルトはあの時から変わったな。

 俺の見た限りじゃ、以前のあいつと比べたら強さが段違いだった。

 それこそ、あの羽根の生えたエザレムなんかと同じような……いや、それ以上だな。

 それに、敵には容赦がなくなった。

 俺がエルトと出会った時、あいつには甘さがあった。俺が情報を提供したことで、アイツは俺を見逃した。

 ついてくることだって許容した。


 あの事件以降、あいつは、似たようなことをした奴を情報を得た後に、殺した。


 襲い掛かってきた賊は殲滅した。


 因縁つけてきたどこぞの騎士団も滅ぼした。


 一国を滅ぼすとも言われた魔獣なんか地形を変えてまで徹底的に駆除した。


 ただ、それでも、アイツは色んな奴を受け入れた。

 そう。俺も含めたお前らだ。

 どんな考えなのか、分からない。

 ただ、エルトは色んな奴を受け入れて、また集まった奴らと一緒にこの拠点を造った。

 そして、傭兵団なんてものを立ち上げて、今に至る訳だよ。


 *****


 話が終わったら、空気が重てぇなオイ。


「……これが、マレアの嬢ちゃんに関することだ。どうだ? 満足か?」


 自分でも意地が悪いとは思うが、知りたいって言ったのはこいつらだ。わざわざ脅してきやがったんだから、まぁいいだろ。


「……もし仮に、この話を軽々口にして、エルトが怒ったとしても、恨むなよ? むしろ、話した時点で俺がエルトに恨まれそうなんだから」


 あ~あ。

 墓まで持っていこうと思っていたことを喋らされちまった。

 エルト、怒るだろうなぁ。

 一人じゃなくて、大勢。しかも女衆にだもんなぁ。

 泥水嬢ちゃんなんか今にも死にそうな顔してるぜ。

 あ、絶対バレるな。

 今のうちに良い酒しこたま飲んでおくか。

 悔いのないように。

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