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第四十四話 女子会にて

「おー、こりゃまた豪勢さね」

「いっぱいあるのです。マヨもたっぷり!」

「ドレッシングも美味しいのだから使いなさい?」

「は~い、お肉お待たせしました~」

「「やっふー!」」


 ワイワイ、ガヤガヤ。

 夕刻よりも少し後、大体午後七時くらいの頃、私はリリアーデカフェにやって来ました。

 昼間、キャナルが『女子会』を開くと言って颯爽と去っていってから、一体どのようにすればこの短時間で色々と手配ができるのでしょうか? 電話やメールもないのに。

 これが『出来る女』というものなのでしょうか。

 ……はぁ、それに比べて私は。


「マリアの服、かわいー!」

「え?」


 ミティの声に我に帰りました。

 エルトさんの家から逃げ出した私は、一目散に家へと帰りました。

 実際は頭が真っ白で、気がついたら家に駆け込んで、自分の部屋に飛び込んだというのが正解ですが。

 そのままベッドでう~う~と唸っていたら、いつの間にか夕方になっていて、私を迎えに来たキャナルが部屋へとやって来て、「もう、しょうがないわね」と強制的に起こしてくれました。

 そうでもしなかったら、今もベッドで唸っていたことでしょう。

 それで、手を繋いでキャナルとここに来た訳ですが。

 今日着ているのはジェシカさんの経営する服屋『ワンダークローゼット』の新作です。

 トップスにボトムス、アウター、さらには帽子や靴にバッグなどまで一揃えでコーディネートしていただいて。

 ジェシカさん曰く、


「新作を考えていたら、マリアちゃんに似合うのがビビッと来ちゃってねぇ。徹夜で仕上げちゃったのよぉ。うんうん、思った通りの出来映えで、アタシ大満足よぉ」


 ご満悦なジェシカさん。

 彼女は服のデザインを考えるときは拠点の女性陣をモデルにしているとの事で、たまに個人個人に似合う服を衝動的に仕上げて着せてくれる事があります。その場合、その服を着て街を歩いて、いわゆる宣伝広告塔として動けばその報酬として提供して下さるのです。

 最初は遠慮したのですが、折角作っていただいたのですし、職人さんの確かな目と技術でとても着心地がよくて大変素晴らしいお洋服な事もあり、今では有り難く思っております。

 そのため、服飾関係はジェシカさんのお店一択です。

 ちなみに、今着ているお洋服はアウターを脱げば春先まで使えるデザインらしく、とても素晴らしいものです。

 ところで、いつから上に羽織るものはアウターなどと呼ばれるようになったのでしょうか? トップスやボトムス? もですが。


「それじゃあ……まだ来てない人もいるけれど、始めちゃいましょうか! はい、皆グラスを持って。ほらマリアも!」


 あ、はい。

 いつの間にか配膳が終わっておりました。

 促されるままにグラスを持てば、皆さんテンション高く、


「かんぱ~い!」


 グラスを打ち付け合いました

 私も小さくかんぱ~いしましたら、皆さん争うようにグラスを打ち付けて来ました。危うく落としそうになってしまいました。

 乾杯が終われば、あとはもうお祭り騒ぎです。

 テーブルに隙間なく並べられた色とりどりの料理を、皆思い思いに小皿取って……いえ大皿に移し変えていってますね。皆さん健啖のようで、小皿では足りないようです。

 本日の女子会の参加者は結構な人数です。

 キャナルにミティ、アトルシャン、フェデリアといったお馴染みの面々を始め、ベラさんという筋肉がすごい女性を筆頭に傭兵団【獅子の咆哮(レオス・ロア)】で活躍されていらっしゃる女性陣が多数おいでです。

 この世界の女性の社会進出率は極めて低い状態です。私の生きていた前世日本でも始まったばかりでしたし、生まれる前の時代では男尊女卑として当たり前の状態だったので、私がとやかく言える立場ではありません。

 ただ、やはり外で男が働いて活躍し、女は家の事で男をサポートするのが当たり前の世界ですが、【獅子の咆哮(ここ)】では女性がどんどん活躍できる環境が整っています。

 正確には、能力があってやる気があるならどんどん活躍していけるらしいのです。

 私は運動神経が悪いのと、荒事が苦手なのでそういった選択肢を選びませんが、ベラさんたちは傭兵として第一線で活躍されているそうです。

 今まで交流がなかったのですが、今回の女子会を期に皆さん私の顔を見てみたいと参加を表明してくださったようです。


「団長にセクハラされたら言いな。ぶっ飛ばしてやるさね」


 そう笑顔で言われましたが、どう返していいか分からずに曖昧に微笑んで誤魔化しました。


「へぇ~、君が団長さんのお気に入りの娘? 可愛い~」


 そう言いつつ私の顔を覗き込んできたのは、女性傭兵の中でも【獅子の咆哮】に所属していない、独立した傭兵団【蜂の羽(ビーウイング)】の方々です。

 彼女たちは世にも珍しい女性のみで構成された傭兵団で、主に商人さんたちの奥さんや娘さんなどの護衛や護身術などの教師、さらには虐げられた女性の保護活動などを生業にしているそうです。

 何故別の傭兵団の方々が拠点にいるのかと言いますと、同じく女性傭兵が活躍している【獅子の咆哮】の噂を聞き付けて接触して、そこから同盟と言いますか協力関係を築いているそうです。

 活動拠点も【獅子の咆哮】の拠点内に間借りしていて、冬の間は拠点内で過ごしているとのこと。


「まぁ一番の理由はここって居心地サイコーなんだよね!」

「料理美味しいし!」

「可愛い娘いっぱいいるし!」

「甘いものいっぱいあるし!」

『それな!』


 ち、力強く言いきりました。

 確かにそうですが。


「んでぇ? マリアはなぁ~んで暗い顔をしているのかしらぁ~?」

「ひゃ」


 皆さんの勢いに対応しきれないでいる私に、今度は間延びした口調のキャナルが後ろから抱き着いてきました。

 肩に顎をのせて、頬がピタリと触れあいます。

 とても熱いのですが、まさか酔っています?


「ねぇ~みんな聞いてぇ~? マリアったらひどいのよ~。悩みを抱えてるのに相談してくれないのよぉ~」


 え、ここでその話題ですか?


「も~、水くさいよ~」

「私たちにも言えないことです?」

「酔った勢いで言っちゃってもいいのよ? 経典にも女神様はお酒の力を借りてもいいってあるんだから」

「え。本当に?」

「この女子会って結構ぶっちゃけ話多いよね」

「そうよぉ~。例えば某国の貴族婦人の不倫遍歴とか~」

「某国王族のスキャンダル百連発とか」

「各地の美味しいお肉が食べられる場所とか」

「貴族子息の筆下ろし専門家の話とか」

「とある夫婦が実は……! みたいなのもあるよね」


 ……なんでしょう。ゴシップ記事で盛り上がっているようにしか見えないのですが。


「まぁ外で言うと危ないから言わないけどね」

「そうそう。機密情報ってやつ」

「乙女は秘密が多いほど魅力的なのよ?」

「乙女……?」

「しゃおらぁ!」

「ちょっ、暴れるな!」


 皆さん元気ですねぇ。


「ねぇ~マリア~」


 ずっと後ろから抱き着いているキャナルが耳元で囁きます。

 ちょっとくすぐったい。


「ささ、ぐっと一杯」


 いつの間に用意したのか、私の目の前には桃色の飲み物が用意されていて、キャナルはピコピコとそれを指差して勧めてきます。


「美味しいわよ~飲むのよ~」

「キャナル、くすぐったいです」

「なら飲むのよ~」

「わ、分かりましたよ~」


 耳を吐息でくすぐられて、私がこの飲み物を飲むまでやめそうになかったので大人しく飲むことにしました。

 ガラスのコップに氷とともに注がれた桃色の飲み物は、よく冷えていて水滴で覆われていました。よくみたら、コースターは珪藻土のようなもので作られているみたいで、垂れた水分を吸いとっていました。

 季節はもうすぐ冬で、夜になると冷えてしまいますがお店のなかは暖房が効いていますし、何より大勢の人間と暖かいお料理がありますので暑いくらいです。

 コップをおしぼりで軽く拭いて一口飲めば、僅かにアルコール特有の苦味を感じましたが、何かのフルーツの爽やかな酸味が後味すっきりで、とても飲みやすいものでした。

 前世ではお酒は二十歳になってから、と決められていましたが、こちらではそこまで厳格に決められていません。さすがに小さい子に度数の高いお酒は飲ませないという暗黙の了解はあれど、度数が低いジュース感覚で飲めるものはある程度の年齢になれば皆飲んでいます。

 私も最初は驚きましたが、今では慣れました。

 郷に入っては郷に従え、とも言いますし。


「ふふ~おいしいでしょう~」

「はい。とっても飲みやすい」

「どんどん飲むのよ~」


 とっても上機嫌のキャナルに勧められて、料理を摘まみながら、私はどんどんお酒を飲んでいきます。


「それで、何を悩んでいたの?」


 騒がしい店内でも、すぐ横にいるキャナルの声は私によく届きます。

 彼女の方を見れば、穏やかに笑っていました。


「キャナルは、国家機密とか知っていますか? 他の人間に知られてはいけない事とか」


 お酒を飲んで、お腹も満たされ、あったかいお店で、私の緊はほどけてしまったのでしょう。

 あれほど悩んでいたのに、私は自然とそう口を開いていました。


「ふふん。これでも以前はやんごとない立場の人間だったからね。言ったらいけない事の十や百、ここに詰まっているわよ?」


 とんとん、と頭を指でつつくキャナル。


「もし、もしもですよ? 私が悩んでいる事を相談して、それが相手に知られてしまって、相手が怒って、【獅子の咆哮(レオス・ロア)】に対して……」


「ああ、そういうこと」


 私が、私を含めた皆の新しい居場所が害されてしまうのではないか? 最悪、失われてしまうのではないかと恐れているのに対し、キャナルはとても軽い口調で納得していました。


「そういえば、マリアは知らなかったかしら?」


 何がでしょうか?


「【獅子の咆哮(レオス・ロア)】って、結構な国から恨まれてるわよ? 今すぐに宣戦布告されてもおかしくないくらい」

「ふぁっ!?」


 いけません。変な声が。


「ど、どういうことですか?」

「……そりゃあねぇ。構成員の大半が国とか集団から追い出されたりした人間だし?」

「国やら何やらに喧嘩を売って賞金首になっている奴もいるさね」

「中には、厄介な出自のせいで身柄を付け狙われていたりもする人間がいるのです」

「あとはー、元いた場所の人たちに付き合いきれなくて勝手に離れたりー」

「目的のために御輿にしようと執着されたりもしているわね」


 ……なんでしょう。

 私って、大した事ないんでしょうか。


「まぁ、そんな風に厄介な因果を持つ人間が多いのが【獅子の咆哮(レオス・ロア)】で」

「一番多く恨まれてるのは団長さね」

「師匠は行く先々で暴れているのです」

「そんでー、みんな団長のせいで酷い目にあうよねー」

「自業自得なだけよ」


 あの、今更ながら【獅子の咆哮(レオス・ロア)】って……。

 なんだか、私の悩んでいた事って……。


「どうしたの?」

「いえ、なんだか私の悩みなんて、大したことでは」

「えー、なら教えてよー」

「そうです。どうせならお酒の席ってことで暴露してスッキリしてしまえばいいのです」


 ミティとフェデリアが料理とお酒を私の前に置きつつ、催促をしてきました。

 せっかくなので飲み物をいただきつつ、


「あの、そんなに大した事では……」

「ならいっちゃいなさいな」


 キャナルが微笑みながらそう言ってくれます。

 なら……。


「あの、こんなことが、ありました」


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