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第三十七話 家族皆で。

 楽しい時間というものはどうしてこうも早く過ぎ去ってしまうのでしょうか?


「もうマリアったら。離してくれないと、起きられないじゃない」

「もうちょっとだけ……」

「ふふ」


 私の我が儘に、お姉さまが笑って髪を撫でてくれます。

 カーテンの隙間から漏れる朝日によってうっすらと明るくなった室内。

 もう朝ですか……。

 まだまだ一緒にいたいのに。

 でも、そもそもがこちらに滞在する期限が二泊三日ですから仕方がないと言えばそれまでです。

 お姉さまはもう帝国の貴族で、歴とした子爵婦人なのです。

 今は一時的な休暇でしかなく、それが終わってしまえば本来の生活に戻らなくてはなりません。

 分かっています。分かっていますが、それでも、もう少しだけ、お姉さまとこうしていたいです。


 ◇◇◇◇◇


 お姉さまとお義兄さまがお帰りになるのはお昼ちょっと前の予定です。

 朝食が済み、本日の午前の業務はお休みをいただいておりますから、お母さまとお姉さまと私の三人でお茶会です。


「早いわねぇ」

「そうですねぇ」

「……まったくこの子達は。何を老人のようなことを」


 お茶を飲んでしみじみと呟いたお姉さまに同意しましたら、お母さまが呆れてしまいました。


「だって、あっという間でしたし」

「ええ。過ぎてしまうと、もう少し長くてもと思ってしまって……」


 ね、とお姉さまと目を合わせて頷きます。


「さすがに帝国からこちらに来るのは……陸路では大変ですし、かといってエルトさんに何度も頼るのは申し訳なく」

「隣国まででも道中の計画を綿密にたてないといけないから、それよりも長い距離だと……ね」

「……そう、ね」


 今まででしたら、きっちり計画を立ててお金もかけて、馬車でやってこれる距離でした。

 でも【獅子の咆哮(レオス・ロア)】の拠点はより北方で、距離もかけ離れてしまっています。

 今まで以上に会うのが困難なのです。

 街道が整備されて車でも走っているのならば話は別なのでしょうけど。あ、でも魔獣が出たら危ないのでどちらにしても護衛は必要になりますね。


「こればかりは、どうしようもないわ」

「そうなんですけれど……」


 やっぱり、せっかく会えたのですから、もっと気軽に会いたいと思ってしまいます。


「そんなに言うなら、団長さんにでもお願いしてみたら?」

「そうよ。一度言ってみたらどうかしら?」


 お母さまもお姉さまも気軽に仰いますが、そこまでの我が儘はいけないと思うのです。

 何せ、命を救っていただいた上に家族全員がお世話になっているのです。これだけでも格別なご配慮だというのに、遠く離れた家族と会いたいからとさらに負担を強いるのは間違っています。

 確かにエルトさんならば転移門を使えば簡単でしょう。今回だって転移門で簡単に来られたのですから。

 でもそれはあくまでも、お義兄さまが以前からこちらにご招待されていて今回休暇がとれたのと、お姉さまが私たちの家族で会いたいと思っていた、その二つがタイミングよく重なったからです。

 さらに、完全にエルトさんの御好意に頼っているものです。

 これでさらにお願いをして簡単に行き来したいなどと言うのは傲慢で、エルトさんに対して失礼です。


「あれだけ規格外なら、何か手段がありそうだけれどね」


 お姉さまがそんな事を言いますが、それならそれで対価が必要です。

 現状、エルトさんに対価を支払っていない状況で甘えてしまっているのです。

 何か対価はないのか、どう報いればいいのかと聞いても、


「ケッケッケ、きちんとウチで仕事に励んでくれりゃいいのさ」


 そう言って笑うだけなのです。


「そんな深刻に考える必要はないでしょう? 今までだって少し離れていましたが、頻度は、それは少ないけれど会えたのです。これからだって……」


 お母さまの言いたいことは分かります。

 もう私たちはこうして普通に生活できていますから、きちんと準備さえすれば会えるのです。

 今までは隣国で、距離的には近いということと、私も色々と侯爵家の娘としてやることがあったので、会いたいと思う気持ちはありましたが日々の忙しさによって誤魔化されていました

 ただ、私が捕まって、家族にも迷惑をかけたあの一件。

 もう会えないと絶望した後、また会えた時の嬉しさ。

 家族が元気な姿で再び揃ったのですから、もうちょっと一緒にいたいのです。


「マリアったら甘えん坊ねぇ。可愛い!」


 お姉さまに抱き締められ、私も抱きしめ返します。


「ずるいわ!」


 お母さまも慌てて私の隣にやってきましたら、私ごとお姉さまを抱きしめます。

 親子のサンドイッチです。


「大丈夫よマリア」

「そう。私たちは家族なんだから、やりようはいくらでもあるのよ? 旦那様だっているんだし」

「お金を貯めて、依頼すれば【獅子の咆哮(レオス・ロア)】の方々を護衛にだってできるのだし」

「会うのが大変なら、それを見越して準備するの」

「私たちにはそれが出来るの」

「「これからなんだって出来るのよ」」


 ぎゅうぎゅうと左右から押して押されて。

 二人とも笑っていて。

 私もつられて笑ってしまって。


「みんなで一緒に考えましょう!」

「これから、何度だって!」

「はい!」


「「「家族皆で!」」」


家族みんなと言いつつ、男どもはハブられる模様。

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