第三十話 家族の揃った朝
女神様。
この世界では唯一の神様で、地球の神話で語られるような神様たちのような名前はなく、ただ女神様と呼ばれています。
空と大地と海を創り、植物の種を蒔いて自然を作り、そして生き物を産み出した世界の母。
人々は総じて女神様の子であり、日々の糧を得られるのは女神様のおかげ。
だからこそ我々人は常に女神様に感謝するのだと、そう教えを説くのは女神教の方々です。
女神教の歴史は古く、かつての人々が大規模な自然災害によって絶望した時、荒野で身を寄せあっていたある家族の下へ女神様が降臨したといいます。
女神様はその家族に多くの助言を与え、家族はそれを信じて行動しました。その途中で出会った多くの人々にも声をかけ、やがて人々は安定した暮らしを手に入れたと言います。
それから時は流れ、女神様が降り立った荒野には女神様を祀る最初の神殿が建てられ、そこに多くの人が集まり、女神教というものが生まれました。
その最初の神殿は今でも存在しています。
いつしか神殿の周囲に住むようになった人々が作った都市国家、教国の中心地に。
今では女神教の神殿は全て教国から派遣されてきた神官の方々によって運営されています。
……ここ、【獅子の咆哮】の神殿は、どうなんでしょう?
◇◇◇◇◇
お姉さまが帰ってきた事もあり、昨日の夕食は豪勢なものになりました。
お母様と私で作った料理もありましたけど、大半は拠点にある食堂でテイクアウトをしたものですが。
皆さん店内で食べることもあればテイクアウトして外で食べることも多いようで、色々なお店でそういったサービスをしていました。テイクアウトするお客さんの筆頭はエルトさんだとか。
家はお兄様たちが健啖家でして、エンドバルトお義兄さまもよくお食べになりますから、量を多く、お肉メインで揃えましたが、見事に完食されました。
それからは男性陣はお酒を楽しみつつ、私たち女性陣はお茶を飲みながら、話題の尽きないお喋りを夜遅くまでしてしまいました。
おかげで寝不足です。
日課の朝の卵とりでは危うく卵を落としてしまいそうになりました。
でもそのお陰で畜産区画の責任者であるウィンケリーさんから美味しいジュースをいただけました。程よい酸味が爽やかで眠気が一気に引いてくれて助かりました。ただ、何のジュースだったのかは教えてくれません。ウィンケリーさんの秘密のジュースだそうです。
ジュースのお陰で頭がハッキリしたので、張り切って自宅で朝食の準備です!
今日はエルトさんが出張で、夜のうちに出発すると言っていたので家族揃っての朝食です。
いつもはエルトさんと一緒にお米を炊いて和食なのですが、家族との朝食はパン中心の洋食になりますね。
「まぁ、マリアはいつも殿方と二人で朝食を?」
「そうなの。だからいつも朝食の時にはいないの」
「……だって、エルトさん、朝ごはんは食べないことが多いんですよ? 朝はしっかり食べないと」
本当の意味で家族が揃った本日は、朝から賑やかです。
「団長さんに、手料理をねぇ」
「な、なんですかお姉さま?」
「ふふ」
ニコニコと笑うだけで何も言わないお姉さま。
お願いですから何か言ってください。
「お父様やお兄様たちがよくお許しになったわね」
「いえ、旦那様も息子たちも、ほら」
「あ」
お姉さまの言葉に、お母さまが手で家の男性陣の方を指し示せば、拳を握りしめて、歯を食い縛っている家族の姿が。
「もうお父さま、お兄さま方。マリアは成人しているのですから、そこまで過保護にならなくても」
「しかしだな……愛しい娘が、あのような若造に……いや、分かっている。助けてもらった上に、このような厚待遇で迎え入れてくれたのだ。感謝以外にない。だが、だがなぁ……! 娘を思う父として……!」
『そう、これは妹を思う兄として!』
「そんな事を言っていますと、マリアに嫌われますよ?」
ああ、お父さまたちが崩れ落ちてしまいました。
お行儀が悪いですよ?
「マ、マリア……?」
「はい?」
「父のこと……嫌いか?」
「大好きですよ!」
お父さまがシャッキリしました。
『マリア、兄は? 兄はどうだい!?』
「もちろん 大好きです!」
お兄さまたちもシャッキリしました。
私は家族が大好きです。嫌いになったりなんかしませんよ?
「でも、マリアもいつかはお嫁に行くのよね」
お姉さまの言葉に、また男性陣が崩れ落ちました。
もうお姉さまったら!
……でも、お嫁さん。結婚。
……私は、出来るのでしょうか。
◇◇◇◇◇
朝食を終え、お父さまやお兄さまたちは出勤され、お母さまとお姉さまはご近所の奥さまたちとお茶会を開くそうです。
奥さまたちは新しい話題に飢えております。お姉さまならば、大丈夫でしょう。
私は学校へ出勤です。
「では、行ってきます」
「ええ、いってらっしゃいマリア。帰ってきたら、また街の案内をお願いね」
「ええ。もちろんです。そういえばお義兄さまは本日は?」
「うむ。しばらくしたら防衛戦士団の方へ顔を出す予定でござるな」
お義兄さまはどこか嬉しそうに仰います。
「では、気を付けてな」
「転ばないようにね」
「だ、大丈夫です!」
いつまでも子供ではないのですから。
「いってきます!」
『いってらっしゃい』




