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第三話 平穏な朝

日常パートです。

 心地よい風が吹く草原に、子供たちの楽しそうな声が響いています。

 ここは傭兵団【獅子の咆哮(レオス・ロア)】の拠点にある、畜産区画と呼ばれる場所です。

 私は今まで、傭兵の方々は戦ってお金をもらい、必要なものは外から手に入れるものだとばかり思っていました。

 でも、ここに来てからは自分がいかに常識知らずだったかを思いしるばかりです。

 ここ、【ネグラ】と呼称される拠点は一つの街です。

 私が今までいた王都よりも規模は小さいのですが、活気という点では比べ物にならないほどの元気が溢れた場所です。

 商店街には雑貨から新鮮なお野菜や果物が並び、美味しそうな食べ物を売る屋台、さらには落ち着いたカフェがあってとても驚きました。

 イメージ的には、身体の大きな人たちがお酒を豪快に飲む居酒屋しかないかと思ってましたので。

 いえ、そういったお店もあります。他には戦う人のための武器や鎧を造る鍛治屋さん、傷薬を作って売っている薬局、怪我や病気を直す病院も。

 あとは銭湯があったのは嬉しい限りです。

 何故ここまで充実しているのかお聞きした所、【獅子の咆哮(レオス・ロア)】は戦える人よりも何かを作ったり売ったりする人の方が多いのだというのです。

 それだけの人数がいるのに、全ての物を外からの輸入に頼っていては維持ができないのだと副長さんが仰られ、拠点でも農業を営む地区、牛や豚、鳥などを育てる畜産区画など、人が住む場所以外の部分があります。

 多くの人がいるということは、それだけ多くの食料がいるのは、私にも分かります。

 でも、実際にはどれだけの規模ならそれを賄えるのかは分かりませんでした。

 実際に、自分の目で見るまでは。


「おねーちゃーん! はやくはやくー!」

「もううんでるー!」

「はーい、今いきますよー!」


 子供たちの声に答えて、私は小走りにログハウス風の小屋へと急ぎます。

 畜産区画は拠点の正門から見て反対側、裏手にあります。その規模は市街地よりも大きく、とても広大です。

 周囲を見渡せば馬がいたり、牛がいたり、大きな鶏が自由気ままに放牧されています。

 私や子供たちが向かっているのは、鶏小屋です。

 ここで育てられている鶏は、すごく大きいのです。いくつかの種類がいるのですが、どれも日本で見たものとは別物です。

 一番小さいので大型犬くらいあります。一番大きいのだと八人乗りの車ほどです。

 初めて見た時はとても驚きました。

 大きさもそうですが、実は魔獣だというのですから。

 でも、とても大人しい種です。

 日がな一日、日向ぼっこをしていて、子供たちが勢い良く抱きついても微動だにせず、気にする素振りも見せません。


「わ、今日もいっぱいですね」

「いっぱい~」

「いっぱいいっぱい~」


 私たちが入った小屋には、バレーボールほどの大きな無精卵がいくつも藁の上にありました。

 この卵はとても濃厚で、とてもおいしいのです。これを使ったオムレツは私も大好きです。

 子供たちが背負った籠に卵を一個一個、丁寧に入れていきます。途中で割れたら大変ですからね。


「ホッホッ、今日もご苦労さんじゃな」

「あ、ウィンケリーさん。お早うございます」

「「「おはよーございまーす!」」」


 卵を回収した私たちに声をかけてくださったのは、ここ畜産区画の責任者の一人、ウィンケリーさんです。

 麦わら帽子に首もとのタオル、豊かな口元のお髭がよくお似合いです。

 彼は世にも珍しいとされる魔獣を使役できる力をもっている方です。その力でここの大きな鶏の管理をされています。


「ホッホッ、今日も気を付けてな。走って転ぶんじゃあないぞ?」

「「「はーい!」」」


 にこやかにウィンケリーさんは子供たちの頭を撫でて、小屋の中の清掃を始めます。

 私たちは邪魔にならないよう小屋を出て、行きよりもゆっくりと歩いて帰ります。


「さぁ、帰りますよー」

「「「はーい!」」」


 ◇◇◇◇◇


 傭兵団【獅子の咆哮(レオス・ロア)】。

 ここは夜明けとともに起きて、日没とともに家に帰るのが常識の世界では珍しい二十四時間営業(?)の街です。

 この世界にはいくつも傭兵団がありまして、どこも同じような勤務体系らしいのです。

 この世界は危険に満ちています。

 私は貴族の娘として生まれたお陰で実感がありませんでしたが、街の外は盗賊や人拐いなどがいて、野生の動物や魔獣が自由に歩き回っているのです。気軽に街から街へ移動できないのです。

 かといって国に仕える騎士や兵士たちが全てに対応できるかといえばそうでもありません。彼らは彼らで街の中からあまり出ません。

 そもそも、街の中も窃盗や誘拐が日常茶飯事であるという事実がありました。

 自分がいかに恵まれていたか、改めて実感しました。

 話はそれましたが、街から街へ移動する時や、騎士たちが対応できない出来事に対応するのに重宝されるのが傭兵の方々です。

 依頼があれば人を派遣してますが、事件は昼夜問わず起こります。緊急で助けを求める方が駆け込んで来ることも当たり前で、ローテーションで夜勤を勤めていらっしゃる方がおります。

 また、そういった方のために食堂や、鍛冶屋に薬局、あと急な病気のために病院も夜勤があるそうです。

 すごいですね。

 ただ、病院の夜勤が始まって最初の患者さんが食べ過ぎてお腹が痛くなったエルトさんだと聞いた時には反応に困ってしまいました。


「あ、そうでした」


 朝食を作る手を止めて、私はすぐに手を拭きながらキッチンを出ます。

 二階への階段を上がり、いくつかあるドアの内、一番奥の部屋へ向かいます。合鍵を差し込んでドアを開けて、窓際へ。

 カーテンを一気に開けます。

 すると日差しが部屋の中へ差し込んで、部屋の中を照らし出します。


「エルトさん、起きてください! 朝ですよ!」


 私の声に、ベッドの上の膨らみがモゾモゾと動きます。

 ここはエルトさんの自宅。大きさは前世でいう建て売りの二階建てのお家と同じです。

 副長さんはもっと団長らしく大きなお屋敷に住んでもらいたいと言っていましたが、エルトさんは落ち着かないと言って、最初は1Kのお部屋でいいとまで言ったそうです。

 なんとか妥協した結果がこの家だそうで。

 私も前世ではマンションに住んでいましたから、気持ちは分かります。突然大きなお屋敷に住むようになって、最初は落ち着きませんでしたから。


「アフッ」


 布団の端から出てきたのは、エルトさんのペットの子狼、フーちゃんです。

 フーちゃんは伸びをすると私の足下に来てダッコをねだるように後ろ足で立ち上がります。

 ふふ、かわいい。


「フーちゃん、おはよう」

「アフッ!」


 抱き上げて喉元をくすぐってあげると気持ちよさそうに目を閉じるフーちゃん。


「エルトさーん、起きてくださーい。フーちゃんはもう起きましたよー」

「……むぅ」


 ベッドの膨らみがまた動いて、こんどはうめき声まで。

 もう。エルトさんはいつも夜更かしをして、こうでもしないとお昼過ぎまで寝ていることも多いのです。


「うぅ~、もう朝かぁ」

「お早うございます、エルトさん。今日もいい天気ですよ」

「……あぁ、おはよう、マリアルイーゼ」


 目を擦りながらようやく起き出したエルトさん。


「朝ごはん、もうすぐ用意できますから、顔を洗ってきてくださいね」

「うぁ~~い」


 さ、早く料理を仕上げなくては。








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