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第十七話 心の中で

超鬱回

 今日もまた、朝日が昇ります。

 いつもなら起きて、身支度をして、子供たちと卵を取りにいったりして、それから……エルトさんにご飯を作ってあげなきゃ。

 でも……体が、重い。

 起きなきゃ。起きなきゃ。しっかりしないと。きちんとしなきゃいけないのに。

 なのに、起き上がれない。

 起きたく、ない。


 お父様お兄様たちが出勤する前に声をかけて下さっても、返事ができません。声を出すのも億劫で。

 きちんとお返事しなければダメなのに。


 お母様が部屋に来てくれても、体が動いてくれません。

 家族にこれ以上心配をかけてはいけないのに。私は大丈夫だと笑顔を見せなきゃ。

 しっかりしなきゃ。しっかりしなきゃ。しっかりしなきゃ。しっかりしなきゃ。

 ……そうじゃなきゃ、私はいけないもの。



 いつの間にか寝てしまっていたようで、気がつけば窓の外が暗くなりはじめていました。

 ああ、一日が終わってしまう。ダメ。こんなことをしていては。きちんとしなきゃ。家族に心配をかけてはダメなのに。しっかりしなきゃ。もう大人なんだから仕事を休むなんてしてはダメ。甘えてはダメ。逃げてはダメ。


 しっかりとした大人にならなきゃ。


 ならなきゃ、いけないのに。


 ◇◇◇◇◇


 幼い頃に前世を思いだしてから、私は、いえ、マリアルイーゼは正に『別人』に『変貌』してしまったのです。

 無邪気で、感情を素直に出せて、家族を愛し、愛される少女だったマリアルイーゼ。その精神が別の世界で二十数年生きた全く縁も所縁もない人間に切り替わってしまったのです。


 こんなこと、あってはならないのです。


『私』は、一度死んだ人間です。


 人の一生は、本来なら一度きり。

 良くても、悪くても、たった一回。

 それを、何の因果か『私』はこの世で前世の記憶を思い出し、二度目の人生を送れることを喜びました。


 喜んでしまったのです。


 死んだ人間が、生きている人間と入れ替わる。それがどれほど歪で、不自然なことか、知りもせず、考えもせずに。


『私』のせいで、本来のマリアルイーゼは消えてしまいました。『私』が、殺してしまったのです。


『私』がいたから、オルソフォス家の人たちを不幸にしてしまいました。 

『私』がもっとしっかりしていれば、あんなことにはならなかったのに。


『私』がいたから。

『私』なんかが、欲を出したから。

『私』みたいな欠陥品が、真人間になりたいと願ったから。


 皆を不幸にしてしまった。


 平穏な時間を、生活を、奪ってしまった。


 許されることのない、罪です。

 罪には、罰を。

 だから、『私』は、罰を受けないと。

 怖いことも、苦しいことも、全て受け止めないと。

 しっかりと自分の足で立って、きちんとして、罰を受けないと。


 そうでなければ、いけないのに。


 怖いよ。苦しいよ。イヤ。なんで? どうして? 嫌われたくないのにどうして嫌うの? 私の何がいけないの? 私のどこが嫌なの? そんなに嫌なら断れば良かったのに。他の娘が好きならそう言えば良かったのに。私は何のために頑張ってきたの? やりたくもないことをやってきたのは意味が無かったの? その間に他の娘と遊んでいるのは良いことなの? それならその娘と結婚すればいいだけなのに。自分は悪くないの? 私は気がついたらあそこいたのに、私だけ悪者? 私をそこまで嫌っているならもっと別の方法があったでしょう。私を騙すくらいなら別のやり方があったでしょう。私が決めた訳じゃない。権力があるなら使ってしまえばいいのに。私のことなんてゴミとしか思ってないの? 男って皆そうなの? 子供相手にも殺すなんてどうして平気で言えるの? 自分以外はどうでもいいの?


 なんで私がこんな目に合わなければならないの?


 誰か、教えて。

 私は、どうすればいいの?


 ◇◇◇◇◇


「……という報告が入っています。どうします?」

「あ~、溜め込み過ぎてんなぁ。そっか、うまくガス抜けなかったかぁ」

「?」

「こっちの話だ。そっか、ちと手ぬるかったか。ならここで荒療治だな」

「ちょっと、何をする気ですか?」

「決まってんだろ」


「見舞いと俺式カウンセリング(ピクニック)さ」

一時間後に次話投稿予定。

エルトリート視点。

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