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第十一話 魔獣迎撃戦③ エルトリート 

迎撃戦終了。

 夕焼けが世界を赤く染めていく。

 遮るもののない海の彼方、水平線に太陽がゆっくりと沈んでいくのを横目に、オーペグ首長国の戦士団と俺たち【獅子の咆哮(レオス・ロア)】は今、キャンプファイヤーを囲んで宴の真っ最中だったりする。

 あ? カニはどうしたって? んなもんとっくに殲滅済だ。でかくて硬いが重心が上で下がスカスカなんだから、どついて倒して、起き上がる前にフルボッコよ。

 んである程度砂浜に散乱する魔獣の破片などを片して、この大イベントを締め括る最後の仕事をこなしつつ、打ち上げもやっているのさ。

 その最後の仕事というのは、砂浜の端にできた小山の監視だ。


 そもそもの話、なぜ魔獣がこの砂浜に来るのか? しかも年一回なんて定期的に。しかも毎回参加する──攻めてくる魔獣の数も種類も異なるときた。

 それは何故か、と聞かれれば、答えは実に単純だ。

 あれだけの数の魔獣は逃げていたのだ。自分たちよりも格が上の強者から。ではその強者とは一体何なのか。それが先ほどちらっと言った小山の正体。

 それはデカイ海亀。城塞甲亀(キャッスルタートル)なんて呼ばれている魔獣だ。

 こいつはその名の通りもはや城としか言い様のないゴツゴツとした甲羅を持っている。ただせさえ魔獣は巨体で、しかもそれを維持するために“身体強化”を使っていて、さらにこいつの場合甲羅にまで適用されてるから硬いことこの上ない。そんな甲羅に長い年月をかけて様々なものが堆積した結果、動く城が出来上がった訳だ。

 亀は万年というが、どれだけ生きてんだか。

 で、だ。

 迎撃戦の終盤、カニが襲来したその後に亀はやって来た。カニ食いながら。いやホントに。ゴリゴリと食ってた。

 あの亀が毎年この砂浜に来るのは産卵のためだ。交尾してんの? それとも単為生殖? 気にはなったが知った所でどうにかなる訳でもないし、そういうのは教授に丸投げだ。

 亀はこの時期に産卵のためにこの砂浜へと移動する。その進路上の魔獣たちは格上の接近に気付いて逃げる。それが海の中で繰り返されることで結果的にこの砂浜へ多数の魔獣が押し寄せることになる。

 それが迎撃戦の起こる理由だった。

 毎年数も種類も異なるのは完全にその時、たまたま進路上にいた魔獣が向かってくるからランダムなだけ。

 まったく迷惑極まりない。

 かと言ってあの亀を討伐する意志は、今のところオーペグ側には存在しない。何故ならあの亀はオーペグ首長国にとって信仰の対象だから。

 古来より人間というのは大きなものを崇める習性がある。地球もそうだし、この世界でもそれは同じで、山がそのいい例だな。自然信仰とか言ったか? 

 俺らの拠点がある内陸部じゃ女神信仰なんつークソッタレが幅を利かせているが、所々でこうした魔獣やら山やら祖先の霊やら、色んな信仰が今も息づいている。

 このため、オーペグ首長国はこの迎撃戦を受け入れている。例え死者が出ようが、重い後遺症に悩まされようが、この国に生きる人々はその結果を受け入れる。受け入れ続けて生きてきたし、これからもそうしていくだろう。

 さて、カニを殲滅してようやくすっきりした浜辺で亀はマイペースに、俺らの存在を気にした様子もなくちょうど良さげな場所に居座って、今に至るまで絶賛産卵中である。

 迎撃戦に参加したオーペグ戦士団は傷ついた体を魔獣の肉を食らって癒しつつ、生き残った事や成果を誇りながら亀がきちんと産卵を終えて海に帰るのを確認する、というのが恒例になっている。

 大体が酔っぱらってグースカ寝ている間に勝手に亀が帰っていくのも恒例だけどな。


「おう、エルトリート殿。楽しんでるか?」


 夕陽が完全に沈んでいく光景を見ながら酒を飲んでいた俺に声をかけてきたのはオーペグ戦士団総長のグェンリーだった。

 木の杯を掲げて答えると、グェンリーはニカッと笑って俺と対面する形で地べたに座る。


「どうしたんだ? 部下と一緒に楽しく飲んでたんだろ。こんな端の方に総長が来ていいのかい?」

「心配御無用。むしろワシが来なくてどうする? 我らのために遠くより駆けつけてくれた獅子の長よ」

「気にしなくていいってのに」


 迎撃戦に参戦したのは、最初は砂糖や塩を売ってくれるオーペグが無くなると俺が困るからってのと、久々に海の幸を堪能したいからだった。

 それから味をしめて毎年個人で勝手にやっていたんだけど、海の幸を独り占めしてたのがバレていつの間にか同行者が増えちまった。んで今じゃ正式に国からの依頼で傭兵団として参加している。ちなみに依頼料はかなり安い。つーてもその分、オーペグで生産されている砂糖や塩、香辛料その他諸々を融通してくれてるので、損はない。

 いやースパイスってホント貴重だわ。


「そうも言ってられんさ。いつも助けられているこちらとしては、な。首長たちからは国賓待遇でもてなしたいと話は行っているだろう? それだけの恩がある」

「だーかーら、俺らは塩とかが欲しい。そっちは戦力が欲しい。利害の一致で共闘する。そういう契約をしたんだから恩とか感じなくていいんだよ。それに、倒した魔獣の肉とかも貰えてるんだ。それだけでも有難いんだから」


 魔獣の肉は旨い。ただ焼くだけでも旨い。べらぼうに旨い。海産物に至っては茹でると身に染み込んだ塩も相まってまじ旨い。

 今も今日仕留めた海産物どもがキャンプファイヤーの方で茹でたり焼いたり揚げたり、色々調理されている。

 もう少ししたら料理が配られて、本格的な宴が始まる。


「相変わらずだな」

「堅苦しいのは嫌いでね。それに、俺らはただの傭兵団だ。国賓とかガラじゃねぇよ」

「クックック、ただの、か?」

「そう。ただの、だ」


 お互いに笑いながら、杯を軽くぶつける。

 魔獣の驚異はどこの国でも頭を悩ませる問題だ。それを解決するのは難しい。

 何せいつ、どこで起こるか分からないのだ。オーペグのように定期的に発生するのならそれを踏まえた対応策はあるが、他の国はそうじゃない。起こるときは起こるが、起こらない時はホント何も起きない。

 むしろ人間同士の問題が多過ぎてそっちに係りきりっていう現実があるしな。

 そんな中で魔獣相手に普通に戦える俺たちは、はっきり言えば異常だ。常に訓練して実力を高めているとはいえ、明らかに国家所属の戦力よりも上の実力を持っている。

 これは予想でも何でもない。結果が証明された純然たる事実だ。圧勝よ圧勝。

 そんな集団がどこの国にも所属していないなんて為政者からしてみれば悪夢でしかない。だから、俺たちには年がら年中勧誘されている。

 はっきり言って鬱陶しい。

 団員には国を追われた者が多数いる。つーかそんな境遇の連中を俺が引っ張りこんだんだけど。

 追い出しておいて、今さら何言っているんだ。それが全員共通の見解。

 俺だってそうだ。国の最高最大戦力(笑)だからって大量虐殺まで黙認しておいて、「愛国心があれば~」なんて寝言ヌかす奴等の下につくなんてやだね。

 討伐なんかの依頼は受ける。個人的に親しくしたりもする。けど、国に帰属したりはしない。

 俺たちの主権は俺たちのものだ。それを奪おうとするなら、俺は容赦しない。平和な生活なんて暴力で勝ち取らなきゃいけない世界ならいくらでも暴れてやる。

 キャンプファイヤーを囲んで酒を飲んで、肩を組んで歌う団員やオーペグ戦士団たち。

 そういった俺が好ましいと思う光景を守るためなら、俺は悪鬼羅刹にでもなる。


「こんなトコでナニしてんのさ大将、もうすぐ肉が配られるさね」

「そうですよ師匠、いっぱい用意してくれてますから沢山食べましょう」


 グェンリーと酒を飲んでいたらベラとフェデリアがこっちに来た。

 二人とも杯片手にいい笑顔だ。オーペグの戦士団に女性はいないため、チヤホヤされてご満悦なんだろうな。


「ハッハッハ、こんな綺麗なお嬢さんがたにお誘いされるとは、エルトリート殿も隅に置けないな」

「いや、こいつらは……」

「早くショウユをだしな」

「マヨ、マヨを出してください」


 グェンリーがからかってくるが、そんなんじゃねぇんだよなぁ。

 俺が必死こいて探したり作ったりした調味料なんだが、これを使えば料理がより旨くなるのが分かってからハマる奴等が続出。

 基本、醤油とか味噌なんかは遥か東方にまで行かないと手に入らない。俺が転移魔法で買ってくるしかないのだ。

 焼いた魚介に醤油は必須! 

 あ、ちなみにマヨは拠点でも作ってるからいいんだけど……マヨラーが大量発生してしまった。フェデリアもその一人だ。恐るべし、マヨネーズ。

 でも何でか味噌は不人気なんだよなぁ。フォートレスなんか見るのも嫌そうだし。


「ほら、一応主役の一人なんだからさっさと来な」

「さぁさぁ、料理が待ってますよ!」

「おいこら、引っ張んな押すな!」


 物を収納しておける亜空間収納から調味料を取り出そうとしたら無理矢理ベラに引っ張り起こされ、背中をフェデリアに押されて宴会場にまで連れていかれた。

 そんなに急がなくてもいっぱいあるんだから食いっぱぐれないってのに。でかい分肉の量は多いし、数もそれなりだし。何より俺らの分は冷凍してあるんだ。

 帰ったら俺、一人で味噌鍋するんだ。


「みんなショウユとかマヨを待ってんだ。早くしな」

「調味料かよ!」


 クッソ! どいつもこいつもねだるように手を出すな! 唐辛子ペーストだすぞこら!


「ご褒美だな!」

「うるせぇよ辛党!」


 ぎゃいぎゃい喚いていると、長テーブルにはオーペグの料理人たちが作ってくれた料理が大皿に載せて並べられていく。宴会はバイキング形式だ。好きな物を好きなように取って好きなだけ食う。

 命を賭けて戦った戦士たちには最初に食べる権利がある。俺らも含めて。

 ま、この宴会で消費されるのなんて一割にも満たない。余裕で国内に流通する数は確保されてるからいいんだろうけど。


「おら、調味料だぞ! ありがたく使え!」

「あざーす」

「軽!?」


 亜空間収納から取り出した調味料を並べると、皆好き勝手に皿に出したり持っていったり……ってか自分で持ってこいや!


「お、なんだなんだ」

「変なのつけてるな」

「いい匂いさせてるな」


 ああホレ見てみろ! オーペグの連中まで寄って来たでねぇか! そんなに大量にはねぇぞマヨ以外!


「んじゃ買ってきな」

「三十秒で」

「余裕っしょ?」


 天に黒雲、地に泥湖、我呼び覚ますは──。


「団長がキレたぞー!」

「それまずいって! 広範囲のやつじゃん!?」

「詠唱ガチじゃねぇか!」

「皆逃げろー!」


 一目散に逃げていく団員たち。

 だが逃がさん!


「灰塵となれぇいっ!」


 夜の海岸なら花火だよな。

 しかも特大のやつな!


エルトリートが詠唱したのは大規模殲滅魔法の呪文ですが、ただ言ってるだけ。発動したのはただビカッ! と光るだけの魔法。

普通の魔法使いは出来ませんが、エルトリートや高位の魔法使いは呪文と発動する魔法が一致しない、という芸当も可能。


ビカッ!

亀「なにあいつらうるさい。あとまぶしい」

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