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第一話 再会

連載、始めてみました


 麗らかな日差しが差し込む庭園で、私、マリアルイーゼは落ち着くことができずにいました。

 目の前にはお菓子が広げられた丸テーブルがあり、私の家族が優雅にお茶を楽しんでおります。


「もう、マリアったら。もう少しの辛抱なのだから我慢なさい?」

「仕方がないさアルジェンナ、久しぶりにあえるのだから」


 お母様に苦笑しながら窘められ、お父様が優しくフォローしてくれました。

 落ち着こう、落ち着こうといくら思っても、全然ダメなんです。


「マリア、お前の大好きなケーキがあるぞ。食べれば落ち着くぞ?」

「それよりもこのハーブティーを飲むか? すっきりするぞ?」

「待ちくたびれているならあっちの花壇を見に行こうか。気が紛れるぞ?」


 お兄様たちにもご心配をおかけして、本当に申し訳ない気持ちです。

 でも、でも。


「マリアルイーゼ!」


 その声に、私は俯いていた顔を上げ、この庭園の入り口へ向けました。

 そこには、私の、姉の姿が。


「お姉さま!」

「マリアルイーゼ!」


 淑女教育では走るのははしたないと言われ続けて来ましたが、そんなことも気にならず、私はお姉さまに駆け寄ります。

 お姉さまも走って来て、私たちはぶつかるように抱き合います。


「ああ、良かった。こうしてまた会えて……」

「私も、嬉しい限りです、お姉さま」

「顔を良く見せて? 可愛いマリア」


 お姉さまとしっかりと目を合わせますが、ダメです、涙で滲んでお姉さまのお顔がよく見えません。


「嬉しくても、涙が出るのね……あなたのお顔が良く見えないわ」

「私もです、お姉さま」


 私たちはもう一度、ぎゅっと抱き締め合います。

 もう二度と会えないと思っていた家族と、再会できた嬉しさを実感したくて。


 ◇◇◇◇◇


 改めまして、私の名はマリアルイーゼと申します。

 少し前まではオルソフォスという家名の貴族でしたが、とある事件を経て一般人、いえ、平民になりました。

 その事件によって私はもう二度と家族と会うことができない場所に連れていかれそうになりましたが、とある方に救われる幸運に恵まれました。

 私のせいで何もかも失ったのに、再会した家族は私を優しく抱き締めてくれました。

 嬉しくて、胸が一杯で、私はマリアルイーゼとして生まれて本当に良かった。

 今なら、胸を張って言えます。

 だから、私は、私たちを救っていただいた方にお願いをしました。


「どうか、どうか私たち家族がまた一緒に住めるように、お力添えをお願い致します。何でもしますので」

「ん? 何でも?」

「はいはい仕事しましょうね~」

「ちょおま!」


 私のお願いの仕方がおかしかったのか分かりませんが、そのようなやりとりを経て私たち家族は一緒に住めるようになりました。

 私たちを救ってくださったのは、高名な傭兵団【獅子の咆哮(レオス・ロア)】リーダー、エルトリートさんでした。

 あの方は驚くことに私と同い年で、立派に自立した男性です。屈強な大人たちにテキパキと指示を出すその姿はまさに人の上に立つに相応しい貫禄がありました。

 でも、プライベートではちょっとだらしない部分もあります。

 家族が仕事を見つけて行動する中、わたしはエルトリートさんの秘書的なお仕事をいただきました。秘書と言っても本格的なものではなく、あの方の大まかなスケジュールを把握するだけでしたが。

 お仕事をし始めてからはエルトと呼んでいいと言われて少し困りました。私は以前は婚約者がおりまして、あまり家族以外の男性と親しくする経験が前世含めてありませんでしたので、呼び捨て(?)なんて。

 今はさん付けでなら慣れましたが、最初はさんを付けても顔が熱くなりました。

 そんな私を見て微笑むエルトさんはとても意地悪で。

 だから、お返しで私は朝は容赦しません。エルトさんは朝起きるのが遅く、いつも副長さんが困っていたのでお布団を勢い良く剥ぎ取ってあげています。

 そうすると小さな子供みたいに「もうちょっと~」って言うのが可愛らしくて、とても傭兵団のリーダーとは思えない人です。

 あ、とても大事なことを忘れていました。

 これはつい先日分かった事なんですが、私とエルトさんはとても大きな共通点がありました。

 それは、前世の記憶を持っているということ。

 王国や帝国といった国が乱立し、魔法という神秘や魔獣といった生きた災害が存在するこの世界ではない、地球と呼ばれる青い星の、日本という島国で生きていた記憶。それもほぼ同じくらいの年代という共通点。

 切っ掛けは、エルトさんがお味噌汁を作っていたこと。

 彼はお出汁を使わずにお湯にお味噌を溶かしていただけで、思わず口を出してしまいました。

 失礼だったかなと思いましたが、エルトさんは私が作り方を知っていると分かるととても喜んでくれました。

 前世で自炊をしていたのが役に立ちました。

 それ以来、エルトさんには良くしていただいて、なんと隣国に嫁いでいったお姉さまに会えるよう手配してくださったんです。

 私たち元オルソフォス家は公式にはお姉さまを除いて全員死亡扱いにされたそうです。でも、こうして私たちは生きています。

 エルトさんは各国に伝があると言って、話を纏めてくれたのです。

 そして、私たち家族は再び会えたのです。

 フリニスク帝国の帝城、皇族が私的に使う庭園で。


次回はエルトリート視点。

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