4.未来のパートナー
ヌスランの家はゲルもどきの3層目に位置する。
この世界でのゲルもどきはパンギアと呼ばれている。
サリフも、ナミアとヌスランが話している内容から、その事実を察したようだった。
オロティンドウに所属する者には、国から手縫いの小さな旗―二頭の馬が一本の槍を対称として前足を挙げている図柄―が与えられる。
彼らは国を表すこの図柄に誇りを抱いて、自らのパンギアに掲げるのだ。
ヌスラン率いる一行は、彼の家に着いたようだ。
「よーし、じゃあナミアは先に入っててくれ。俺はバティを引き取りに行ってくる。」
サリフが新しく聞く名前に首をかしげる。ようやくだ。
「バティはヌスラン様の遠征を何度も経験してるでしょうから、おとなしく待ってくれているんじゃないですか。」
「ならいいんだがな。 お前も一度預かったことがあるだろうに…。」
ヌスランが、分かっているようなナミアの言い方に、苦い顔をする。
(バティは今の俺と同じくらいの子なんだろうか。 話を聞く限りは手のかかる子みたいだな。)
しばらくして、ヌスランが帰ってきた。一頭の仔馬を連れて。
その仔馬の毛並みは輝くような黒鹿毛で、夕陽にその体が光っている。 全身真っ黒の中に凛々しい顔が浮かぶ。
風馬はジョッキー時代、アズラガーモンゴルを愛馬としていた。 この馬は風馬自らがモンゴルの競走馬生産者と交渉、購入をした馬なのだが、とても美しい黒の毛並みだった。
バティとアズラガーモンゴル。 同じ漆黒の馬同士。
サリフはすぐにこの馬を気に入った。 ド直球の好みである。
バティって馬だったのかよ!というツッコミは必死に我慢したようだ。
「サリフ! お前がもう少し大きくなったら、こいつに乗る練習をしようか!
こいつは俺のトゥーバの血を引いてる。立派な馬になるはずだぞ!」
ヌスランはサリフが、言ったことを理解しているとは思わなかっただろうが、サリフの表情は期待に満ち溢れたものになっていた。