3.同居決定
ハーイシュ王国は、アルメシア大陸の広大な草原地帯を領地とする国家である。
特色としては、戦地に圧倒的な速度でおもむき奇襲、物資援助、救助などを担当とする騎兵隊を持つ。
この騎馬隊、他国の騎馬隊よりも練度が高く、オロティンドウ(草原の風)と呼ばれ恐れられている。
オロティンドウのなかでも、もっとも精鋭が集められた第一部隊。
ヌスランはその第一部隊をまとめ上げるリーダーなのだ。
ヌスランがハンに顛末を語りに行った間、サリフはモンゴルで見た移動式テント―ゲルを思い出していた。
(モンゴル旅行では何度もゲルを見に行ったなー…。 草原を馬で渡り歩いて遊牧民の人の村に行ったんだよな。)
今サリフの眼前に広がるテントは見た目はゲルと酷似している。
だが彼が過去見てきた村とはその量、その規模が遥かに違う。まさに゛国゛というイメージがわく。
中央には、直径30m程のひときわ大きなゲルもどきが。
円を描くようにして2周、3周、4周…と、大バージョンの半分ほどの大きさのゲルもどきが、大ゲルもどきを囲んで層となっている。
一番外の6層目では30を超えるゲルもどきが連なっていた。
ヌスランが戻ってくる。
「すまなかったな、長い間坊主を預かってもらって。ハンにしばしの休息を頂いたから後はこちらで面倒を見るよ。」
大きな手がサリフを抱きかかえようと迫ってくる。
(ここで連れてかれると、おっさんと二人で同居生活。 ……阻止せねば!)
ヌスランから翻るように、サリフはナミアの胸に顔をうずくめる。
首を何度も振って、離れたくないアピールだ。
「あら、懐かれてしまいましたね。」
クスッと笑うナミア。
「こいつ…。離れずに戦場に連れて行くべきだったな。 ナミア、すまないが俺と一緒にこの子の面倒を見てくれんか。 礼に首飾りを渡す。」
困り顔のヌスラン。
「私はあなたに恩義がありますしお安い御用ですよ。 一人で広いテントに住むのも寂しいですからね。
あ、首飾りはくださいね。」
ちゃっかりしてる子だなと思いつつ、ほくそ笑むサリフ。
「かなわないな、しかし助かるよ、ありがとう。 もう日が暮れる、家に向かうか。 バティもお隣にあずけたままだったな。途中で寄っていこう。」
ヌスランの割と気になる発言は、ナミアとともに過ごせることで浮かれているサリフには聞こえなかった。