0.プロローグ
草原を駆ける音が聞こえる。
蹄が打ち付けられる音が轟く。
味方の歩兵部隊が敵部隊の進行を阻む。騎馬隊の風が通り過ぎる。
敵部隊を撃破した―――。
「よし!ステージ7-8クリア!」
飛行機で草門風馬はアジア大陸を舞台としたシュミレーションゲームをプレイしている。
【モンゴルの覇者】というゲームだ。
マイナーな題材なので、このゲームに手を伸ばす人はそういないだろう。
風馬は率直に言うと、モンゴルマニアである。高校時代、彼は社会科の選択授業で世界史を選択した。
ユーラシア大陸の広大な草原の平定、中国への侵攻、ワールシュタットにおいてのポーランド・ハンガリー軍への大打撃。
やることなすこと、なんてスケールが大きいんだ、と当時二年生―17歳の風馬にモンゴルという存在はとても魅力的に感じられた。
その出会いは、風馬の進路さえ揺らがせる。
風馬18歳、駿馬学園に進学!モンゴルの象徴ともいえる騎兵に憧れて…が志望動機。
風馬関係者各位に大きな衝撃が走った。
そしてその場所で何故か風馬は頭角を現す。
今ではジョッキー。彼の人生のコンパスは狂っていたのか。
馬を操るセンスがあるらしく、ジョッキーとしても中々の成績を収めている。
そんな風馬ただいま、モンゴルへの旅の真っ只中。
「モンゴルと私、どっちが大切なの!」と彼女に振られた傷心旅行だ。
モンゴルと答えてしまったらしい。
風馬はそのことを思い出してしまったらしく、座椅子に深くもたれ思考を停止させようとする。
だが、思いもよらぬ出来事でその行為の必要はなくなった。
響き渡る銃声、怒号。
ハイジャック。
風馬は目の前で起こる非現実じみた光景に理解が追い付かない。
機体が大きく揺れ、スピードが増す。
向かうは、モンゴル首都ウランバートル。
――墜落した。
風馬が目を開け辺りを見回すと、そこは草原であった。