真姿
禍々しく曲がった一角。口元から見える鋭い牙。そして、肩からは白い槍のような…
「なんだ・・・あれ・・・」
並守の肩から生えていたのは、腕ではなく、先の鋭く尖った鎧のような形状のものだった。
どれも白い光沢を放っている。
「・・・お、お前・・・・・ガクトだったのか・・・?」
並守は笑うだけだった。
「先輩」
クレナは後悔していた。最悪の状況になってしまったことに。
「逃げてください。ガクトは本当に危険です。できればお客さんたちも連れて」
ガクトの存在を知るものは少ない。ただ、客も店員も、事態の深刻さだけは把握したのか、その場に立ちすくんでいた。
「何言ってんだ!危険なんだったらなおさら・・・」
「違うんです!お願いします!」
その時、並守は、"槍"となった右腕を振りかぶり、そばにあった本棚をぶった切った。
ガアァァァァァァァァァンッ!!!
「・・・・・っ!!」
「さて、ここに集まった不運な諸君。お前らは全員、今から俺に1人ずつ殺されることになる。復讐の血のもとに。残念だったな」
その拍子に、1人の客が、ガラスが割れてできたもう1つの出入り口に向かい、走り出した。
しかし、一瞬間で並守は彼の前に立ちはだかり、
「逃すわけねぇよ」
"槍"を振りかぶりーーーーーーーー
「おらっっっっつ!!!!」
誰かが勢いよく並守に突撃し、そのまま2人とも後方に吹っ飛ぶ。
店長だった。
「誰か!!警察を呼ーーーー」
「ジャマんだよ、ゔらァァァァァアアア!!!」
店長は店の奥まで吹き飛ばされ、壁に激突する。辺りの本が吹き飛び、その中に店長の影は埋もれる。
「店長!!!!!」
すかさず飛び出ようとするが、
「まって!!」
クレナに腕を掴まれる。
「お願い、逃げてください・・・」
「嫌だっつってんだろ!!!」
その時、
「狭っ苦しいんだよな、ハハハ」
そうして、逃げようとした客の元に戻りながら、そこら中の本棚を斬って斬って斬った。
黒色を帯びた白い紙切れが、雪のように舞っていた。
彼は腰を抜かし、ただ、迫ってくる並守を絶望に染まった顔で見つめるだけだった。そして、目の前まで来た時、
「じゃあ、お前が第1号な。死ね」
ダンッ
並守は自分の腰あたりを見た。ハルマがしがみついていた。
「・・・や・・め・ろ・・・・!!!」
ビクともしない。それでも、ハルマは"ガクト"の身体を、押して押して押した。
「てめぇに何もかも奪われてたまるか!!・・始まったばっかなんだ。まだこれからなんだよ!!!!」
「うっせぇんだ青ガァ!!」
ハルマを蹴り飛ばす。
「さてと、第1号。早速死ーーー」
ダン
「・・・・てんめぇ!!!!!」
蹴る蹴る蹴るーーーーー。それでもしがみつく。蹴る蹴る蹴る蹴るーーーーーーーー。
クレナは見ていた。彼の果敢な姿を。そして、思い出していた。ここでの楽しかったこと。先輩が優しくしてくれたこと。先輩と約束をしたことーーーーーー。
そして、全て、捨てる覚悟をした。
「やっぱ変更だ!!!お前を第1号にしてやる!!!自らを悔いて死ねぇえ!!!!!!」
光る閃光。それは電光石火のごとく駆け抜けた、"鎧"の輝き。
ドォォォォォォォォオオオンッ!!!!!
並守の身体は、ガラスの穴から外へ吹き飛ばされる。
そして、ハルマの前に現れる一人のーーーーーーーーーーー
「ガク・・ト・・・・・・?」
「無茶苦茶やってくれたじゃねぇか、なぁ?今からその借り全部、てめぇに返してやる」