再来
ここは、小さな書店。大通りに沿って並ぶ、華やかな建物の隙間を抜けていくと辿り着く。
「ありがとうございましたー」
本を2冊買い、店を出る客に頭を下げる店員。
ハルマである。
彼は、客が駐輪スペースまで行ったのを確認し、カウンターの下に置いておいた本に手を伸ばす。
昼過ぎの書店。聞こえるのは、ページをめくる音だけ。
「亜人か・・・・」
禍々しい形姿をした漫画の主人公。
それを見て、ぽつりと呟いた。
「こいつらはどう思ってんだろうな。自分たちの世界のこと」
「またか・・・・」
「あ、店長」
「何が、あ、店長、だ。白々しいな。今は俺とお前しかいねえだろうが」
ここはかなり人が少なく、2人なんてのもよくある。
ちなみに、クレナは6時からのシフトだ。
「あ、そういえば」
「なんだ」
「店長、オールバックのお客さんって、いましたっけ?」
「はあ?いきなり何の話だ」
「いや、浦箕に聞かれて。知り合いかなんからしいんですけど」
「オールバックね・・・・」
「年は30くらいって言ってました」
「オールバックっていっても、髪型なんか変わるもんだろ」
「俺もそう思ったんですけど。浦箕が、オールバックだ、としか言わないんですよ」
店長が考え込むようなポーズをとる。
「オールバックのお客さん・・・・なんかいたような気がするんですけど」
「ああ、思い出した。いたいた。確か西野研条のファンじゃなかったか」
「そうでしたっけ・・・。よくそんな細かいことまで」
自分は思い出したので納得したのだろうか、唐突に、
「そうか、浦箕とはうまくいってるんだな」
「!?どうしたんですか、急に」
「見てるぞ、俺は。段々と距離が近づいていく様子を・・・」
店長は、やけににやけた顔で言う。
「店長・・・意外とそういうの好きなんですね」
「俺のことはどうでもいいんだ。どうなんだ、おい。あいつのことどう思ってんだ?」
「やめて下さいよ。別に何も・・・・」
「おいおい、嘘なんてつまんねえぞ。お前、最近やたら楽しそうじゃねえか?」
「別にそんな、んな・・・ない、ないですってば・・・・・」
店長の尋問に近い質問に、ハルマが言葉を詰まらせている。と、
ガタン
店の扉が開く。
「いらっしゃいませー」
店長は、後で聞かせろよ、といって店の奥の仕事に戻った。
新しい客が入ってきた。
その客を見て、ハルマははっとした。
(・・・そうだ、この人だ・・・・・)
まさしく、年は30代ほど。背も高い。そして、何よりも印象づいたのは、ビシッと整ったオールバック。
店の中まで入ってくる。そして、じっくりと店内を見回した後、また、店の奥に向かっていった。