世界
「こんだけ、あっちの列に置いてきて」
「は、はい!」
「わかんなかったら聞いてね」
「大…丈夫…です………」
浦箕クレナは、バイトの制服に着替えた後、早速、棚垣ハルマの指導のもと、仕事に取り掛かった。
重たく積み重なった本を抱えて、たどたどしく歩いていく。
(・・・やっぱ天使だ・・・・・)
遠ざかる彼女の後ろ姿を見つめながら、ハルマはそんな風に思っていた。
が、すぐに首を横に振り、自分の仕事に戻る。
しばらくして、クレナが帰ってくる。
「せ、先輩・・・・」
「あ、もうできたの?」
「はい・・・その、次は」
「じゃあ、向こうの漫画コーナーんとこの整理してきて。新刊も出てるし。俺もこっち終わったら行くから」
「わかりました!」
そうして、クレナはハルマの指差した方に向かって、急ぎ足で歩いて行く。
(うわー、マンガがいっぱい・・・)
想像より多かった漫画の量に、少し気圧される。
早速、本の整理に取り掛かる。
しかし、種類が多くて、どれがどれだかちんぷんかんぷんである。
迷いながらも本を整えていく。少し疲れたので、その場で一息ついた。
そして、思い出したように、辺りをキョロキョロ見回す。
こっちの本棚と本棚のスペースを見たり、あっちの本棚と本棚のスペースを見たり・・・・。
結構、お客さんいるんだなー
「何見てるの?」
「はいっ!!!!」
背後からの声に体がびくつく。
「あ、いえ!何でもないんです!ただ、お客さん多いなー、って」
「そうなんだよな。こんな店、よく見つけるよな」
笑いながらハルマは言う。
うまく誤魔化せたことに、クレナは一安心した。
「できた?」
最初、何のことかな、と思ったが、
「あ、はい!あ、いえ、ちょっと…」
「まだ?」
「は、はい…ごめんなさい」
「何で謝るんだよ。いいよ。ちょっとわかりにくかったかな」
「・・・その、種類が多くて・・・」
「そうだよな。大丈夫、俺も一緒にやるから」
「・・・・・りがとご・・・」
「ん?なんて?」
「ああっ、気にしないでください・・・」
ハルマは不思議がりながらも、作業に集中するようにした。
「うわっ、"グルファロ"新刊出てんじゃん!忘れてた。後で買っとかねぇと」
「おおっ、"アマンド"か!懐かしいー。いや、あん時はハマったな」
その様子を横で見るクレナ。
「好きなんですね、マンガ」
「ん、ああ、大好き大好き。浦箕は読まないの?」
「私はあんまり・・・」
「そうなんだ。・・・漫画だけじゃないけどさ、虚構って、俺に新しい世界を教えてくれるんだ。現実とは違う、別の世界。それもたくさんある。・・・そんな世界に触れるのが楽しいんだ。色んな世界を、知ることができる」
「・・・そうなんですか・・・」
クレナは少し考え込む。
「先輩」
「何だ?」
「・・・ガクトって、知ってます?」