天使
昼過ぎの、とある書店。店内は静寂が漂う。
大通りから離れ、人目につきにくい場所であるにもかかわらず、立ち寄る人はそこそこ多い。
整然とした本棚を眺めながら、気の赴くままに徘徊する者もいれば、じっと突っ立って、立ち読みに専念する者もいる。
レジにも本を読むものがいた。
彼の読んでいるのは、どうやら漫画らしい。
時々、堪えるようにして笑う。
ここのバイトがあまりにも退屈なので、手を出してしまったらしい。
ああ、もちろん、その本は自分で買ったようだが。
「おい、棚垣!何やってんだ!」
店長からお声がかかる。
慌てて本を閉じるが、彼ーー棚垣ハルマーーは読んでいる途中で止められることを、執拗に嫌う。
ーーーまあ、相手は店長であるからそんな感情を表に出せるわけはないーーー
「す、すいません。でもこれ、自分で金出したやつですから」
「バカ野郎。バイト中に本を読むやつがあるか」
店長は、体育会系といったような、ずっしりした体型で、書店には・・・・少しイメージが合わない。
「そうだ、棚垣。お前に言っとかないとな」
「?・・・何ですか」
「今日から新しい子が入る」
「バイトですか」
「それ以外あるか。6時からだ。お前が教えてやれ」
「・・・わかりました」
店長はまたどこかへ行った。
新人か・・・。ハルマは若干の憂鬱を覚えながら、また本のページを開く。
そうやって、たまにレジ打ちをしながら、6時になった。
「・・・う、浦箕クレナです。よろ、よろしくお願いします」
全くの予想外に、ハルマは目を見張った。
「あ、ああ、よろしく・・。俺は棚垣ハルマ。今は大学1回生・・・。浦箕さんは高校生?」
「あ、はい・・。2年です」
制服姿に短いポニーテール。
「・・・・その・・」
「どうしたの?」
「め、迷惑かけたら、その、ごめんなさい・・・」
この小さな書店にやって来たのは、天使のような少女であった。