レミリアの年越し2016
私は蕎麦はあまり好きでは無いです。
厨房から蕎麦を切る音が聞こえる。
何と言っても今日は、今年最後の日。
この紅魔館でも大晦日はあるのだ。
「咲夜、出来た?」
「ええ、あとは盛り付けだけです」
「そう、あ、皆を呼んできて」
「わかりました」
テーブルの椅子に腰掛け、それが運ばれてくるまで暫し待つ。
すると、それは箸、お茶、汁とともに一斉に並べられた。
咲夜は仕事が速い。
「ええと、今日はザル6杯分作りました。早い者勝ちですので、お早めにどうぞ」
「じゃ、遠慮なく」
美鈴が一足先に箸を延ばす。
その灰色がかった麺は、箸に絡み汁へ落とされる。
二、三回汁に漬けられると、それは箸によって口へと運ばれる。
汁の程よい塩気と蕎麦の素朴な味が、今年は終わりなのかと実感させられる。
つるりと喉を通り、それは確実に胃へと向かう。
「ん~、おいし~」
「美鈴ずるいわ、私も食べるのに」
「早い者勝ちだって、咲夜さん言ってたじゃないですか」
「ねぇ、美鈴、蕎麦取ってよ。ここからじゃ届かないんだよね」
「ああ、妹様、ちょっと待っていて下さいね」
「…やっと私の番ね」
そう言いつつ口に運ぶ。
「…咲夜の蕎麦はハズレが無いわね。上出来よ」
「お褒め頂き光栄です。あ、エビもご一緒にどうぞ」
「あら、気が効くわね」
「毎年出してますよ」
その尻尾が飛び出た金の衣を掴み、少し塩を振る。
本当は汁でもいいのだが、彼女はいつもこうなのだ。
ひと齧りする。
エビ独特の風味と衣の硬さがマッチする。
無論、私は尻尾まで頂く。
「悪くないわね」
「良かった、お口に合って」
「私、食べ終わったから、戻るわね」
「じゃあ、私も」
図書館組が席を立った。
「私も、仕事があるの。そう言えば咲夜、あなた食べて無いじゃない」
「いいんです、あとで食べますから」
「そう。美味しかったわ。良いお年を、ね」
「お嬢様も、良いお年を」
………
「ねぇ美鈴あとちょっとでザル二杯目完食だよ」ズズッ
「そうですねぇこれほんとおいしい」ズルズル
「…食べ過ぎは良く無いですよ、妹様」
「だって美味しいんだもん」ズルル…
「明日の朝食になされば良いじゃないですか」
「今日食べないと年越し蕎麦じゃないわ。ねぇ、美鈴」ズズズズズズ
「そうですよー、咲夜さんも早く食べないと」ズズー
「…呆れた」
その後、美鈴とフランはザル四杯を完食し、二人揃ってお腹を壊しトイレに二時間も篭ってしまった。
咲夜は、レミリアとの思い出を思い返しながら、一人味わって食べた。
「来年も、またよろしくお願いします。お嬢様」
彼女は、一人で微笑んだ。
良いお年を。