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私、テンパってます!

由香里サイドです。

この次のお話が、ようやくデート本編になります。

ちょっと長くかかりすぎたかしら。

 机の上のデスクトップパソコンを睨みつける。

 日曜日の天気は快晴の予定。

 六月も末を迎えようとしていて、天候はいささか不安定だ。梅雨前線の影響がある。

 元々、北海道に梅雨はない、と言われているが、近年は気温が高めになっていることが影響しているのか、最近はちょっとした雨続きの天気も珍しくない。

 そのため、前日にならないと、天気予報は確定とはいかない。

 最高気温は二十三度。

 風がなければ、汗ばむくらいだろうか。

 保冷剤も使った方がいいかもしれない。


 私は二日後の天気に思いを馳せ、翌日のうちに用意しなければならないものをリストアップする。


 先日の電話の際も、片桐さんは夕食にカップ麺をあけていた。

 片桐さんの食生活を詳しく聞いたわけではないが、コンビニ弁当に定食屋、カップ麺で日々過ごしていることが、会話の端々に垣間見える。

 私にもっと勇気があれば、片桐さんの家までご飯を作りに行ってあげたい、と思っていたが、それはまだ敷居が高すぎる。

 だから、ここはお弁当を作っていって、家庭的なところをアピール!

 幸い、毎日料理をしているから、失敗の可能性は非常に低い!


 「いい? 自分の利点を最大限に生かして、アピールするの! そのためには、お外デートよ!」

 万里子が握り拳を作って力説する。

 電話作戦が功を奏して、少し会話らしいものができるようになってきた私は、すっかり万里子信者だ。

 万里子の言うことに間違いはない、と信じている。

 手元のメモ帳にしっかり言葉を書き留め、ふんふん、と頷いた。

 「映画は見に行ったのよね?」

 「はい。夕食を一緒して、帰りました」


 でもあの時はまだ、片桐さんの声を聞いた瞬間に動けなくなってしまって、ずっとスマホ談をしていた。

 通りかかった人は、私か彼のどちらかがの耳が聞こえないのだ、と思っただろう。

 申し訳なさいっぱいだったけど、片桐さんはスマホを私に見せてくれる度に、いたずらっぽく笑ったり、優しく撫でてくれたり、私はそれこそ天にも昇る心地だった。

 それも、私がお店の階段を踏み外すまで、だったけど。

 とっさに私の腕を掴んでくれた片桐さんが、思わずといった調子で、「大丈夫?」と私の顔をのぞき込んで言ってくれたのだ!

 あの時の心配そうな顔! 逞しい腕! そして、鼓膜どころか脳味噌を震わせるような声!

 私の緊張はあっけなく臨界点を迎え、あろうことか気を失ってしまったのだった。

 気がつくと、既視感のある光景が。

 私はまた、片桐さんの背中におぶわれて、自宅まで送っていただいたのであった。

 何としても消し去りたい黒歴史だ。

 思い出す度に、テンションだだ落ちになる。


 「落ち込んでいる暇はないわ。いい? 服装は土曜日のうちに、私がコーディネートしてあげるから。片桐さんは、かわいい系が好きなの? クール系?」

 「知りません!」

 パシン! という音とともに、紙で作ったハリセンが頭に落ちる。

 「あいたっ」

 つい口をついて出たけど、口で言うほど痛くない。

 それでも、頭に降ってきた衝撃にびっくりして涙目になると、万里子は私の顎に指を添えて、くいっと上向きにする。

 万里子の目は据わっていた。

 「いいか? これは命令だ。ハイかイエスしか認めない。土曜日までに、片桐さんの好みを探れ。他でもない、自分のためだ。いいな?」

 美人がすごむと迫力がある。

 「イ、イエス、マム」

 震えながら答えると、万里子は天使もかくやという艶やかな笑みを浮かべて、私の頬を撫でてくれる。

 「いい子だ」

 「ま、万里子様」

 「お姉様と呼んでも、よろしくてよ」

 その瞬間、パシン! パシン! と二回、ハリセンが唸る。

 二人で頭を押さえて振り返ると、そこに涼しげな容姿の水田係長が苦虫を噛み潰したような顔で立っていた。

 「職場で百合遊びすんなって、何度言えば解るんだ? 風紀が乱れる」

 「係長!」

 「あら、ダーリン!」

 「職場では係長と呼べって言ってるだろう?」

 水田係長は、少し照れたように顔を背けて、幾分優しくなってしまった声音でそう言うと、自席へ行ってしまう。

 その後ろ姿を眺めて、万里子はにんまりと笑う。

 「かぁわいい~。あれ、あんたに嫉妬してるのよ? うちの係長、可愛すぎでしょ?」

 「それに同意したら、色々なものを失いそうだから、同意しない」

 素に戻った私は、机に広げていたお弁当箱を片づけながら、ミッションの重さに押しつぶされそうになっていた。


 日中に課されたミッションに思いを馳せつつ、パソコンから、スマホに向き直った。

 片桐さんとは、一日か二日おきくらいには電話をしてる。

 しかし、私の現在の状況から鑑みて、彼の好みをさりげなく聞き出すなんて無謀な話だ。

 できることと言えば、メッセージでさりげなく問いかけるしかない。

 さりげなく、さりげなく……。


 「片桐さんの前に付き合っていた子ってどういう子でしたか?」


 送信してから、ふと、思い返す。

 これはさりげないのか?


 案の定。

 すぐに既読になったのに、片桐さんからの返信はしばらく時間を要した。

 いつも速攻で返ってくるメッセージが今回はずいぶんと遅い。

 さりげなさとは? という命題に頭を悩ませ始めた私の元に、ようやくメッセージが届く。


 「別れてからもう四ヶ月経ってるし、一度も会ってないよ。信じられない?」


 あれ? と思った。

 何でそんな返答が返ってくるのだろう? と。

 数ヶ月前に彼女がいたことは聞いていたし、かなりこっぴどく振られて、そのせいでしばらく誰とも付き合わないつもりだった、と以前教えてくれたことがあった。

 私自身はこれまで、一度も男性とお付き合いをしたことがない。

 だから、片桐さんが一体何を心配しているのか、よくわからなかった。

 うんうん、と唸った末に、ポン、と膝を打つ。

 そして、いそいそと返信を打ち込んでいく。

 「今すぐ、電話します」と。

 達成感とともに今度はスマホの電話画面を呼び出して、リダイヤルした。

 すぐに呼び出し音が途切れたが、片桐さんが名乗る前に、勢いのまま私がしゃべり出す。

 「あの、前の彼女さんは話のとっかかりで、気にしないで下さい。片桐さんの好きな服装ってどういうものですか? って万里子がさりげなく…………さりげなくない!」

 片桐さんからの返信内容に混乱して、私は「さりげなく聞き出す」という重要ポイントを失念していた!

 叫ぶように言うと、慌てて電話を切る。

 その後、三回、片桐さんから着信が来たが、枕の下に入れて無視した。

 正確に言うと、怖くてスマホに触れられなかった。

 翌日、朝起きると、片桐さんからメールが届いていた。

 別れ話じゃありませんように、と祈って、メールを確認すると、そこにはきちんと、昨日の不躾な質問に対しての答えが書かれていた。


 「えぇと、江端さんらしい服装が見たいです。……楽しみにしています?! 答えになってない!!」


 私は脱力して床にしゃがみ込み、声以外でも片桐さんの破壊力はハンパない、と思い知ったのであった。

20161009 一部、時系列不明のままのところを補足いたしました。

20161010 一部、誤字修正いたしました。

20161014 誤字修正いたしました。

20161123 誤字修正いたしました。

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