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寸説まとめました!

寸説  《黒と白》

作者: mask

寸説第四弾。

魔術が使える人と使えない人が戦争をしたらどうなるんだろうと思い書きました。

では、どうぞ!

 一人の少年はサッカーボール持って見ていました。

「お前、何やってんだ」

「見たら分かるでしょ。本を読んでるの」

 話しかけられた少女は彼を見向きもせずに答える。

 少年は少女に相手にされていないように感じて不機嫌そうに訊く。

「本なんて読んでて楽しいのか?」

「楽しいから読んでる」

 また少女は見向きせずに答える。

 少年は不機嫌を顔にまで表し訊く。

「なら、もっと楽しそうな顔をしろよ」

「どうして? 本を読むのに表情は関係ないでしょ」

 少女は無表情のまま少年を見て答える。

「――ッ、そうかよ。じゃあな」

 少年はイライラしながら少女の許を去った。

 少女は彼を不思議そうに見つめていたが彼が見えなくなると意識を本へと戻した。


 これが黒目黒髪の少年――カイトと赤目白髪の少女――レイの出会いだった。


 突然だが島国を想像してもらいたい。歪な横楕円形の島国だ。

 出来ただろうか? それならば縦に等分して右側を黒に左側を白に塗りつぶしてほしい。

 その黒と白が二つの勢力であり領土だ。

 武術を尊ぶ黒の勢力と魔術を尊ぶ白の勢力。この二つは戦争中である。互いに領土を侵し侵され、だが決定打に欠けて結局は拮抗してしまう。それを五十年。

 いい加減に停戦なり和平なりすればいいものを五十年も争っていると引き際が判らなくらしい。

 それを覚えていてほしい。

 その二つの勢力の南端の国境線上に孤児院がある。二つの勢力の争いで家族を失った戦災孤児たちが送られる施設だ。

 カイトもその一人で一週間ほど前に孤児院に来た。

 彼は快活な少年で、すぐに周りと打ち解けて同年代の子達と仲良く遊ぶようになった。

 昨日、彼女と出会ったのは友達とサッカーをするために中庭に向かうときのことだった。

 廊下を走っていると、ふと、部屋の窓ガラスの奥に目がいった。

 部屋の中は薄暗く目を凝らさないと分からない。

 本棚が並んでいる。それだけが分かり、興味をなくしたカイトは中庭に向かう。

 

 足が止まる。


 今見た部屋から人の気配がした。

 カイトは気になり扉に手をかけて、鍵が掛かっていないことを確認すると音をたてないようにこっそりと中に入る。

 やはり中は薄暗く本棚に沿って進んでいく。

「うわっ!?」

 何かに躓いて盛大にこける。

「――痛え。何だよ?」

 足下に散らばるモノを拾う。

「これ……本か?」

 目を凝らすと確かに本だ。いや本棚があるのだから本自体は当たり前だ。問題はなぜこんなところに。

 少年は落ちていた本を近くの本棚に押し込む。

「?――!?」

 今さら気づいた。

 薄暗い部屋が仄かな蝋燭の灯りで照らされていることに。

 そしてそちらに視線を向けた先に人が居たことに。

 カイトは驚きに言葉を失っていたが相手が自分と同じ孤児院の子供だと気づくと歩み寄り隣に座る。

 相手の少女は長い白髪を気にせずに床に垂らし、カイトが隣に居ることに気づいていないのか、それとも気にしていないのか。蝋燭の明かりの中で床におしりをつけて膝に本をのせて読んでいる。時折ページを捲り本を読み続ける。

 カイトは沈黙に耐えられなくなり話しかけた。その結果があれだ。

 翌日である今日はというと……気になってきていた。

 本棚が並ぶ部屋に入ると昨日と同じ場所に行ってみる。

――だが居なかった。

(いつもいるわけじゃないのか)

 試しに奥に進む。

 それにしても部屋が広い。高い本棚と薄暗さのせいで余計にそう感じる。

(居た)

 昨日と同じように本を読んでいた。

 無言で隣に座る。

 彼女は一瞥もせずに本を読み進める。

「なあ、何読んでんだ?」

「兵法書」

 即答された。てかヘイホウショって何だよ?

「面白いのか?」

「面白い」

 ふむ。訊けば無視せずに答えてくれるらしい。

 横からページを覗くと……うん、分からん。どこの文字だよ。

「何が書いてあるんだ?」

「兵士の動かしかた。戦いかた」

 ……それ、面白いのか?

 首をかしげて考えていると少女から話してきた。

「今日は外に行かないの?」

「何で?」

 彼女から話しかけてくれたことに驚きがあったが嬉しさが増し、訊き返した。

「サッカーボールを持ってない」

 少女は見向きもせずに答える。

 なるほど。確かに今日はボールを持ってきていない。

「なんか今日は大事な客が来るんだって。だから騒ぐなだって」

 カイトの言葉に少女は、そう、と呟くと読み終わった本を置き立ち上がる。

「ん? どうした?」

 少女は視線を本棚の一番上に手を伸ばす。だが高くて少女には背伸びしても無理だろう。もしかしたらカイトでも無理かもしれない。

 仕方ないとカイトは棚の前に膝立ちして背を向ける。

「何しているの?」

 後ろから言われる。

「何って肩車を――!?」

 振り返るとカイトは目を見開いた。

 少女の細い両腕には本がすでに三冊収まっていた。本棚に振り返ると暗いが確かに穴が開いている。先程までは本があったのに。

「お前、どうやって?」

「君には関係ない」

 少女は再び座り本を読み始める。

「……?」

 謎が残ったが黙って少女の隣に座る。

(暇だな)

 ただボーッとしているのもつまらない。そして薄暗くて静かなので眠くなる。カイトは手近な本に手を伸ばす。

「今日から始める武術?」

 子供にも読みやすいように書かれているものだった。この字なら彼の母国語だし習ったものだ。だけど単語の意味が分からない。そこまでの教養は戦災孤児であるカイトにはなかった。

 だけど

「なあ、武術ってなんだ?」

「身体を使った戦闘法のこと。広い範囲では武器を使った戦闘法も含まれる」

 隣の少女なら答えられる気がしてた。

「武器って兵隊たちが持ってたやつか?」

「おそらく。剣や槍、弓に斧、あとは銃」

「ボールは?」

「ただの玩具」

 ふ~ん、と納得したカイトは本に意識を戻す。

 そういえば――

「お前の名前は?」

「名乗るのは自分からって書いてない?」

 本を読んでみる。確かに〈武術の心得〉に書いてあった。

「俺はカイト。お前の名前は?」

「ない」

「ナイ、それが名前か?」

 少女はゆるゆると首を振る。

「私は産まれたばかりの頃に捨てられた。だから名前は付けられていない」

「じゃあ今まで何て呼ばれてたんだ?」

「幽霊」

 ぼそりと少女が呟いた。

「暗い部屋の中で真っ白いから幽霊みたいだってみんな言っている」

 

 幽霊


 確かに廊下から見てこんな薄暗いところに白い子が居たら幽霊にしか見えないだろう。

 カイトは納得した。が、気に食わない。隣にいる少女は愛想はないが話すと無視せずに答えを返してくれる。得たいの知れない化け物ではないのだ。それに不思議な魅力があり床に流れる白髪は綺麗だし、じっくりと見てはないが赤い両の瞳は大きく宝物みたいだ。そして可愛――

(可愛い、なのか? でも犬の可愛いとは違う気がする)

 十才のカイトには犬が好きと女の子が好きという境界線が分からなかった。ただ心に不可解な、だが心地よい感情が宿った。これが一目惚れだと気づくのは……とうぶん先のことである

「そうだな」

 カイトは新たな感情を今は置いておき考えた。彼女の名前を、だ。

 他の子供や大人たちが彼女に、どう接しているのかは気にならないがカイトは彼女とこれからも会いたいので名前がないのは不便だ。自分だけは幽霊と呼ばず名前で読んで彼女の特別になりたかった。

「幽霊。ユーレイ。ユー、レイ……決めた!」

 カイトは勢いよく立ち上がり未だに本を読み続ける少女を指差した。

「お前の名前は"レイ"!」

「……は?」

 少女は振り向いた。その顔は訳がわからずポカーンとしている。

「だから名前だよ。お前の名前」

「え、何で?」

「だって変だろ。生きてる人間に向かって幽霊って。だから考えたんだけど」

「別に、わたしは幽霊で構わない」

「ならレイでもいいだろう。な、レイ」

「……うん」

 快活そうに笑うカイトに少し気圧されたが何故か嫌ではなかった。

「ありがとう」

「ん? 何か言ったか?」

「べつに」

 レイの声は細くカイトの耳にまで届かなかった。だがこれでいいのかもしれない。

 だって何故か顔が熱い。

 レイは本で自分の顔を隠しカイトは満足そうに頷くと再び読書にふけった。

 

 翌日もカイトはレイの許へ訪れた。

 レイもカイトが来てもいつも通り本を読んでいた。

「なあ背中向けてくれないか?」

「何で?」

 そう言いながらも背を向けるレイ。その行動はカイトのことがどうでもいいからか、それとも心を許したのか。レイ自身にも解らなかった。

 カイトは恐る恐る、そして大事そうにレイの長い白髪に触れる。

 その髪はさらさらと一本一本が上質な絹のようであり微かに石鹸の香りがした。化学繊維にはない肌触りにカイトは思わずにやけてしまう。

「何がしたいの?」

 本を読みながらだがトゲついた声にカイトはハッとして目的を果たすためにレイの白髪を一房掴み腕に通していたものを使う。

「まだ?」

「もうちょい。動かないで、これでいいのか?……よし、出来た」

 何が出来たのかレイには分からない。自分の髪に何かをされたみたいだが――

「何したの?」

「ここ鏡ないのか?」

 無視された。

 レイは嘆息する――実はするのは産まれて初めてである。

 カイトを一瞥して彼が鏡を探して余所見をしているのを確認すると手を軽く振る。すると、何処からか四角い手鏡が飛んできてレイの手に収まる。

(何だろう、これ?)

 鏡に写ったのは長い白髪がウサギの耳のように二つに結ばれた自分だ。よく見れば髪はゴムで結ばれており赤い花の飾りがついていた。

 レイは不思議だった。何故、彼が自分の髪を結んだのか分からない。

 レイが自分の髪の変化に首をかしげていると奥から何かを引きずりながらカイトが来た。

「やっと見つけたぜ」

 息を切らしたカイトが持ってきたのは彼よりも大きい鏡――姿見だった。

「あれ? 鏡あったのかよ」

 無駄骨だったと思いガックリと肩を落とす。

 レイは姿見に自分を映す。

 灰色のワンピースは前から変わらない。赤い瞳も白い髪も変わらない。唯一変わったのは髪型だ。

「それツインテールっていうんだぜ」

 カイトは笑う。

 なるほど。この垂れたウサギの耳はそう呼ぶのか。

「お前にやるよ」

「このゴムをくれるの? どうして?」

「どうしてって髪がいつも床についていただろう。それじゃ白い髪が汚れちまう。もったいないだろう?」

 もったいない?

 レイはカイトの言葉が解らなかった。だって彼女は自分の白い髪が嫌いなのだ。この髪のせいで気味悪がられて距離をおかれた。子供たちからも大人たちからも。

 親が自分を捨てた理由も白い髪のせいだと思っている。

「この髪は嫌い」

 レイは一房つかみ言う。

「石鹸」

 カイトは続ける。

「いつも石鹸の香りがする。いつも手入れしているんだろう? 嫌いなら切ってしまえばいい。だけどそうしないのは嫌いじゃないからだよ」

 カイトはレイの赤い瞳を覗き問いかける。

「俺は好きだ、お前の白い髪。だから貰ってくれ」

「うん」

 レイは頷くしかなかった。

「どうした。顔が赤いぞ」

「べつに」

 頬が熱くなるの感じた。

 最近こういうことが多い。

(そうだ)

「お礼をしないと」

「レイだけにか」

 レイの人生初のジト目にカイトは冷や汗をかいた。

「お礼なんて要らないよ。俺があげたかっただけなんだから」

 ゆるゆると首を振るカイト。それにレイは納得がいかない。

 レイは右手を軽く振る。その手には一冊の本が収まる。

「お前どうやって!?」

 驚くカイトに本を差し出す。

「これを読めば分かる」

 受け取った本には『今日から君も魔術師』昨日読んでいた武術の本と同じ人が書いているらしい。

「魔術師?」

「身体能力で戦う武術とは対をなす術。この世の全てにある魔力で戦う術。それを使うのが魔術師」

 レイは再び右手を軽く振る。

「!?」

 カイトの隣を何かが掠める。

 レイの手に収まったのはナイフだ。

「カイト、黒と白の戦いを知ってる?」

「ああ見たことがある」

 黒い軍服と白い軍服の兵士同士が街で戦っていた。そのときに起こった爆発に巻き込まれて彼は家族を失った。憎むべきものたちだ。

「黒は武術で白は魔術で戦っている」

 レイはナイフをカイトの喉元に突きつける。

「このナイフで突き刺せば黒。そして――」

 ナイフから手が離れる。しかしナイフは時間が止まったかのように宙に浮いたままだった。

「わたしの魔術でナイフを君の喉に飛ばせば白」

(何を言っているんだ?)

「軍人は嫌い?」

「嫌いだ」

 即答するとレイは悲しげに目を伏せる。そして赤い瞳が開かれたときには決意が宿っていた。

「君はここに来てから日が浅い。まだ間に合う。君をここから逃がす」

 ナイフが床に落ちる。

「君はわたしにたくさんくれた。たった数日で心が暖かくなった。だから恩を返す」

 レイはカイトの胸に手を当てる。

「明日の昼に、また」

 レイがそっと押す。

「!?」

 軽く押されただけなのにカイトの身体は勢いよく後ろに飛び、本棚の道を何度も折れ曲がり最後は部屋から飛び出て廊下に尻餅をついた。

「何だよ!? 今のが魔術なのか?」

 カイトは再び部屋にはいるために扉に手をかける。が、びくともしなかった。鍵を掛けられてしまったらしい。

「逃がすって――?」

 呟く彼の足下には魔術の本が落ちていた。


 約束通り昼食を食べた後に部屋に訪れる。扉は難無く開き、部屋も元からあったのであろう蛍光灯で明るく照らされている。

「来たね」

 レイは待ち人に振り返ると手に持っていた本を差し出す。それはカイトが読んでいた武術の本だ。

「魔術の本は持っている?」

 カイトは右手で抱えていた本を示す。これで武術と魔術、二つが揃った。

 そしてナップザックが置かれる。

「これは食料と水。その本と共に持っていってほしい」

「どうしてだ?」

 レイは背を向けて語る。

「この孤児院は黒と白の国境線にあり、どちらからも攻められることのない場所なのは分かる?」

「孤児を保護する場所だからだろ?」

 自分の考えを口に出す。だがレイは首を振り否定する。

「ここはそんな優しい処じゃない」

 レイが右手をはらうと本棚がギチギチと泣きながら動きだし、部屋の中心に広いスペースが出来た。

「これは!?」

 カイトが床に見つけたのは大きく丸い紋様だ。複雑な紋様は淡く光を放っている。

 紙が一枚カイトの前に浮遊する。それを掴むと目を通す。


『カイト 20XX 年生まれ

 戦災孤児

 武術適正 不明

 魔術適正 不明

 戦災により家族が死亡 現場で保護され灰色孤児院に送られる』


 (これは俺のこと、だよな)

 適正とは何かカイトには分からない。だが彼女なら答えてくれるだろう。

「それは君のここでの経歴。一週間程だから君の情報はそれだけ。だけど暮らしていくうちに何度か検査をする。健康診断という建前の軍人になるための検査を、ね」

「軍人に――!?」

 驚きを隠せないカイトにレイは真実を告げる。

「君やわたし、他にもいろんな理由で集めた子供たちを十二才まで育てて検査の結果から白か黒のどちらかに軍人の卵として送る。それがこの孤児院の役割。最近来ている大事な客は軍から来たスカウト。でも安心して」

 レイは振り返り、産まれて初めて"微笑んだ"

「わたしが守る。君を軍人にはさせない」

 笑いかけられたカイトは頬が熱くなった。いつも大人っぽく表情を見せない彼女が年相応の少女の笑顔を自分だけにくれたのだ。仕方がない。だけど――

「じゃあ、元気でね」

 足下の紋様の光が強くなる。これでカイトをどこかに飛ばす気だ。

「これで、お別――」

「お前は、どうするんだよ!」

 レイの腕を掴む。そうでもしないと永遠に会えなくなるような気がした。

「お前は残って軍人になるのかよ! 人殺しになるのかよぉ!!」

「なる」

 赤い相貌が決意をカイトに示す。

 カイトは息を飲んだ。こんなにも強い瞳を目の前の少女は出来たのだ。

「わたしは軍人になる。軍人になって子供が戦場で武器を持って戦わない世界を作る。君がわたしの傍に居てくれてから。それが、わたしの夢になった」

 夢を語るレイは嬉しそうに、そしてどこか悲しげだった。

 彼女を見てカイトも決めた。

「だったら俺も軍人になる!」

 カイトの言葉にレイの瞳がわずかに揺れる。

「ダメ。君だけは逃がす」

 カイトの手を振りほどくためにもがく。だが子供とはいえカイトも男だ。女の子であるレイに力だけでは負けない。”力だけは”

 レイがカイトに掴まれていた腕とは逆の腕をはらう。たったそれだけでカイトの身体が吹き飛び本棚に叩きつけられる。

 意識が刈り取られそうになるのを意地だけで耐える。

 視界の先にレイが映る。地面から輝く光で徐々に白に包まれていく。

「ま、て」

 どうにかしなければ、このままでは――

 床を探る手に何かが当たる。それを持ち上げる。

(これナイフ?)

 昨日レイが自分に向けた小さいナイフだ。

 このナイフならどうにか、なるかもしれない。

 カイトはナイフを逆手で握り、光り輝く床の紋様へと突き立てた。

  

 ピキッ


 まるでガラスにひびが入ったような音が聞こえる。

「ダメ! それ以上は――!?」

 焦るレイの制止を聞かずにナイフで紋様に傷をつけていく。

 何度も何度もナイフを突き立てる。その度に紋様にひびが入っていき光を失っていく。

「うおおおおッッ!!」

 傷ついた紋様が完全を光を失う。

(やったのか?)

 いつの間にかに意識は覚醒している。

「伏せて!」

 立ち上がろうとしたカイトの上からレイが小柄な身体で覆いかぶさる。

 その刹那、光を失っていた床の文様が閃光を放ち

「!?」


 爆発した


 部屋の中に煙が立ち込める。

 気が付いたカイトは状況を確認する。

 レイの顔が目の前にあった。

 赤い瞳は怒っている。

「え、ええと」

「君は――」

 目を泳がすカイトにレイが詰め寄る。

「君は何で無茶をするの!」

 泣いていた。

 レイは泣きながら怒っていた。

 怒ることも泣くことも初めてなのに器用に、いや、不器用だから泣きながら怒っているのだ。

「作動している魔方陣を壊すと危ないことも知らずに!」

 レイの剣幕に圧されているカイトは彼女と唇が触れ合いそうになっているのに気付かない。ただ――

「俺はお前と一緒に居たいんだ」

 笑ってみせるカイト。そんな彼に何かを言おうとしたレイだったが諦めたように嘆息する。

「もう知らない。勝手にして」

 涙を拭うとレイは右手をはらう。すると昨日のように何かに運ばれるように部屋から追い出された。

「怒らせちゃった」

 カイトはそこで力尽きて眠ってしまった。


 翌日も当たり前のようにカイトは部屋に来た。昨日のことがあったから締め出されると思っていたが扉は簡単に開いた。

 部屋は昨日の爆発のままで中心ではレイが床に魔方陣を書き直していた。

「よう」

「忙しいから邪魔しないで」

 まだ怒っているようだ。

 仕方がないので用事が終わるまで待つ。

「出来た」

 待ってたら終わったらしい。

「結界準備完了。やるよ」

 レイが振り返る。

「俺は行かないよ」

「分かってる。人の厚意を無駄にしてまで軍人になりたいんでしょ」

 本当のことなので言葉につまる。

「君に魔術を教える。そしてわたしの夢に協力してもらう」

 それならとカイトは決める。

「俺はお前に外で遊ぶ楽しさを教えてやるよ」

「うん」

 レイは恥ずかしげに頷き、差し出されたカイトの手を握った。

 それから二人は軍人になるために過ごした。


――二年後

 灰色孤児院に来客があった。

「たくっ、今年も俺が採用担当か。人事部は他にもいるだろう」

 会社員のような愚痴を言っている黒目黒髪の青年は黒軍の兵士である。いちよう仕事であるが黒軍の黒い詰襟の制服を脱ぎ、シャツを着崩している。

 今日は十二才になった子供を適性値に応じて黒軍にスカウトしに来たのだ。

 中庭で子供たちが遊具で遊んでいるのを横目で見る。

(今年も大した奴は居ないだろうな)

 彼は一昨年、昨年とここの灰色孤児院に来て子供をスカウトしていた。

 黒軍が求めているのは武術適性が高い者。いわゆる運動が出来る奴だ。だが、ここ二年で彼が求めている人材が居なかった。べつに武術適性が低かったわけではない。基準値より高い子供は何人も居た。ただ彼が探している子が居なかっただけだ。

 目的の部屋にたどり着き扉をノックする。

「入りますよ……げっ!?」

 天敵が居た。

「あら、黒も来たのね」

 ティーカップ片手にこちらに視線を向けた金髪の女性――白軍の採用担当だ。

 彼と違って白軍服をきっちりと着こなし白スカーフを締めた女軍人は彼から視線をはずして書類に手を伸ばす。

「今年も子供たちが脳筋に連れてかれてしまうなんて」

「うっせーよ。てめえらガリ勉のほうが可哀想だろうが」

 この二人は二年前からこういう挨拶をする。知り合ったの自体は孤児院時代からなので十年以上の腐れ縁である。

「それでどうだ。いい感じの奴はいたか? グレイシア」

「あなたに教えるわけないでしょミチナガ」

 資料をペラペラと捲り目を通していく。

 ミチナガも対面のソファーに腰を下ろしもうひとつ用意された書類を見ていく。

 白軍には魔術適性が高い子供を黒軍には武術適性が高い子供がリストアップされている。

「今年もまあまあだな。全員同じやつに見える」

「こっちもよ。魔術師不足は否めないわ」

 会社員のようなことを言う二人の動きが止まる。

「「これ!?」」

 ホッチキスで止められていた一ページを破りとる。

 その一枚を舐めるように見ていた二人は……笑いだした。

「ハハハ、見やがれ最高の子供が見つかったぞ!」

「どうせ大したことないんでしょ。それより見なさい! これぞ神童よ!」

 互いに紙を見せあった二人は固まった。

((そっちの子もいい))

「なあ、いちようそっちも見せてくれないか? いやべつに欲しいわけでは。敵の選んだ候補として知っておかねばと思ってな」

「あらあら残念ながら候補ではなく決定なのよ。でもそうね今から自慢してあなたたちの士気を下げるのも得策ね。それにあなたの選んだ子を鼻で笑ってあげる」

 そう言って互いに紙を奪い取ると一文字も逃さないように睨む。

(グレイシアが探し当てた女の子。魔術適性が高いだけなら気にも留めなかったが武術適性が基準値を遥かに越えている。これでは即戦力になってしまう)

(ミチナガが見せびらかした男の子。武術適性が高い山猿かと思ったけど魔術適性が高い。ということは、わたしたちの魔術を破り、そのうえで武によってねじ伏せる。これは脅威ね)

 黒と白の採用担当は考えた。どうすべきかを。

((絶対に渡しちゃダメだ。死守しなければ!))

 二人は勢いよく立ち上がると部屋から飛び出し肩を並べて……肩をぶつけあって廊下を進み鋭い眼光で相手の抜け駆けを牽制する。

 中庭を通りすぎようとしたとき騒ぎが聞こえる。

 気になった二人は一時的に争いは止めて中庭へと視線を移す。

 中庭には灰色の服を着た孤児院の子供たちが二十人ほど集まっていた。

 子供たちが何かを囲うように丸く並んでいる。その中心に向かって子供たちは熱狂して声援を送っている。

 二人が近付くと中心の人物が見えた。

「今日こそ一位の座は俺らのもんだ!」

「応よ!」

 二人の男女の子供がやる気に満ちた瞳で言う。

 確か書類でも上位に載っていた子供だ。 

 だけど採用担当のミチナガとグレイシアの目を惹いたのは男女の子供と相対するもう一組の男女の子供だった。彼らが探していた二人だ。

「これが最後だ。いくぞレイ!」

「やだ」

((えええぇぇッ!?))

 ミチナガとグレイシアはレイの態度に驚く。

 即答されたカイトは固まっている。

「なあ最後だから――」

「プリン三つ」

「……分かった」

 どうやら交渉成立したらしい。

「いくぞ!」

 男の子が両手をカイトに向けると、その手のひらに赤い魔方陣が出現する。

「赤魔術《火》!」

 赤い魔方陣から火の玉が飛び出しカイトを襲う。

「白魔術《護》」

 カイトの前に白い魔方陣が出現して火の玉を防ぐ。

「カイト後ろ!」

 レイの言葉に後ろを振り返り反射的に腕をクロスさせる。刹那に衝撃。

「赤魔術《炎》」

 女の子の蹴りを受け止めて無防備な背中に男の子が続けて魔術を唱える。

「青魔術《水》」

 赤い魔方陣から噴き出した火炎がカイトに届く前にレイが唱えた青い魔方陣が防ぎ溢れだした水が炎を消し去る。

「魔術じゃ勝てないか。黒魔術《撃》」

 黒い魔方陣が相棒の女の子を包む。

「交代!」

 女の子が蹴りでカイトに一撃を与えレイに向かって駆ける。

「レイ!」

「分かってる」

 レイの前に白い魔方陣が出現する。女の子は右足を引き、腰の捻りを加えて魔方陣を蹴りつけた。ガラスのように白い魔方陣が割れる。

「黒魔術《縛》」

 蹴りがレイの眼前に迫ったときに女の子の動きが止まる。

「トラップ!?」

 自分の現状に瞬時に気付いた女の子の足下には黒い魔方陣が現れて黒い光だけで彼女を拘束している。

「ちょん」

 レイは動けない女の子のほっぺを突っつく。弄られている本人は涙ながらに抗議している。

「あっちは終わったか」

 相手の男の子の火の玉や火炎を走り回りながら避けて横目でレイを確認する。

「俺もやるか」

 黒い魔方陣がカイトを包む。

「黒魔術《強》」

 地面を踏み込む。たったそれだけで地面が割れる。

 身体が限界まで強化されたカイトが砲弾のように男の子に突撃する。

「くッ!? 白魔術《護》!」

 男の子は白い魔方陣を展開。そこにカイトが全力の体当たり。

「うおおおおッ!!」

 轟音を響かせて白魔方陣ごと相手を吹き飛ばす。男の子の身体が飛んだ先には応援していた子供たちが驚きで動けないでいた。

 このままでは大怪我してしまう。

 子供たちを守るためにミチナガは身体を沈めて駆け出し、グレイシアは魔術を唱える。

 だが杞憂に終わった。

 彼らが助ける前に白い魔方陣が子供たちを守った。

「ナイス、レイ!」

「周りが見えないのが君の弱点」

 親指を立てて見せるカイトにレイが嘆息する。

「ほら診せて強化魔術を使ったんだから痛いところあるでしょ」

「アキレス腱が、ちょっとな」

 痛みを訴える箇所に手を当てる。

「白魔術《癒》」

 白い魔方陣の光がカイトを癒す。

「まだだぜ」

 相手の男の子が立ち上がる。身体は白く輝いている。彼自身の傷を癒しているようだ。

「助けてよ~泣」

「待ってろ。白魔術《解》」

 レイの魔術で未だに動けない女の子。男の子が近づき魔術を使う。

「やっ~と動ける」

 女の子は背伸びする。

「いくよ!」

「黒魔術《撃》、白魔術《補》」

 カイトとレイに向かって駆け出した女の子に魔方陣を破る《撃》と身体能力を高める《補》を重ねる。

「でやあッ!」

 女の子の回し蹴りがカイトに突き刺さ――らなかった。

「お前は蹴り一択だな」

「得意なの!」

 腕で受け止められた右足を下ろして半歩退き左足でカイトの顎を狙う。

 それも腕で止められる。

 蹴り上げたため灰色ワンピースの中が見えてしまう。

 パンツの色は――

「がはッ!?」

 カイトが横に吹っ飛ぶ。

「あれ!? そんなに強かった?」

 女の子は不思議そうにうずくまるカイトを見た。相棒の男の子はポカーンとしている。

「女子の下着で鼻の下を伸ばす。カイト不潔」

「伸ばしてねええええぇぇッ!? ていうか殺す気だったよな!?」

 ボロボロのカイトがレイに詰め寄る。レイはカイトを冷ややかに見返す。

「今の見えたか?」

「ええ何とかね」

 ミチナガの言葉にグレイシアは頷く。

 彼らが見たのは常人では気づけなかったカイトとレイの動きだった。

 カイトが蹴り上げを受け止めたときカイトの身体に一瞬だけ黒く小さな魔方陣が現れてカイトが吹き飛んだ。それに気付いたカイトは吹き飛ぶ瞬間にレイに向けて黒魔術《縛》で動きを封じて何かを投げた。そして地面に打ち付けられる前に白魔術《護》で衝撃に備えた。一秒にも満たない間に、だ。

「あれが武術適性の高さを生かした魔術か」

 武術適性は運動能力の高さに比例する。その中に反射神経も当たり前に含まれる。その反射神経があっても魔術適性が低い黒軍は魔術の攻撃をかわすぐらいにしか意味がない。しかしカイトのように武術適性が高く魔術も使えるとなると魔術による奇襲でも反射の速さから魔術で応戦して生還できるだろう。

「彼女だって負けてないわ」

 レイはカイトを吹き飛ばした後に来た反撃――身体を黒魔術《縛》によって動けなくなりカイトが何かを投げたのに対して瞬時に白魔術《解》で拘束を解き、飛んできた何かを口で受け止めた。

 レイは飛んできた何かを理解したのだ。これは運動能力の一つである動体視力が高くなければ出来ない小技だ。武術適性が低い白軍は遠距離では強いが近接戦闘が得意な黒軍の刀や槍を避けることが困難である。だがレイならば黒軍の動きをかわし続けて敵が隙を見せたときに魔術を叩き込めるだろう。

 魔術に対応できる武術師と武術の心得がある魔術師。やったことはパフォーマンス性に欠けるが軍事戦闘には関係ない。どんな技を使ってでも敵を殺す。それが子供である彼らから見れただけで驚きに値する。

 この二人を仲間に引き入れることが出来たならば、今は無理でも数年後には軍人として兵を率いる立派な指揮官となる。

 そのために採用担当であるミチナガとグレイシアは戦わなくてはならない。

 二人を敵軍に奪われないために。

「プリン味じゃない」

 カイトが投げた何か――リンゴ味の飴玉を口の中でコロコロと転がして愚痴る。

「持ってないよ。お前が昨日舐めただろ、最後の一個」

 苦笑するカイト。どうやらすでに和解したらしい。

「ねえ、あたしたち無視されてない?」

 相手である女の子が相棒の男の子にそう言うと彼は首を振る。

「違う。わざと無視して隙を見せているんだ」

 そう言うと男の子は足下を指差す。

 女の子は怪訝そうにそこを見る。が、土の地面があるだけ。仕方がないのでしゃがむ。

「げッ!?」

 足元に爪の大きさほどの魔方陣が刻まれていた。それも数えきれない数だ。知らずに歩いていたらトラップ地獄に泣かされていただろう

「さっきトラップに気づけなかったのは小さすぎたからだ」

 彼が気づけたのは魔術適性の高さのおかげで微かに地面から魔力を感じたからだ。

 彼よりも魔術適性が遥かに高いグレイシアも気づいていた。だが方法が思い浮かばない。トラップを作るためには魔方陣を書いて魔力をこめる。すると魔力がある物体に反応して魔術が発動する。先ほど女の子はトラップの魔方陣を踏んだので魔術適性が低くても魔力はあるため発動したのだ。

 つまり魔方陣を書く技術と魔力をこめる力があれば敵を勝手に倒してくれるトラップを作れる。だが技術と力、トラップを作る時間がなければ不可能である。しかもあれほど小さいものとなると、尚更だ。

 魔術適性が高いレイという彼女なら可能かもしれない。だが彼女は一歩も動かずに戦っていた。ならば、いつどこでトラップを中庭に作ったのだろうか? それとも単純に戦う前から仕込んでいたのだろうか?

「なあ何で攻撃しないんだ?」

 黙考していたグレイシアにミチナガが訊いた。

 そうか、魔術適性が低い馬k――ミチナガにはトラップが分からないのか。

 グレイシアはミチナガに中庭にトラップがあることを教える。

「うわ~、でたよ。魔術師のセコい手」

「作戦よ。それでトラップのトリックは分かった?」

「トラップならカイトって子も使えるだろ? 魔術適性が基準値を超していたし」

「そうだとしても魔方陣をいつ書いたのよ」

 相手の馬鹿さに呆れているとミチナガは驚くべきことを言った。

「スニーカーに細工でもしてあるんだろう。それで走り回れば簡単に作れる」

 ミチナガの発想にグレイシアは目を見開いて彼を見た。その視線を受け止めたミチナガは得意気に笑った。

「お前らみたいに思考停止した奴らに魔術の模倣を成し遂げた俺らの考えは分からねえよ」

 悔しげに歯を食いしばりミチナガを睨み付けるグレイシア。彼女の美貌を崩してやったミチナガは嬉しそうに大笑いした。

 

 勝負の結果は相手の降参でカイトとレイは勝った。

 周りにいた子供たちが戦っていた四人を激励するなかミチナガとグレイシアは採用担当の仕事をするためにカイトとレイに近づく。するとカイトの表情が険しくなった。

「お前ら軍人だな?」

 怒気を孕んだ問いに採用担当の二人は数瞬の時を動けずに使ってしまった。

 ダメだ。先手を取られたままでは話の主導権を奪われてしまう。

「そうだよ。二人に話があるんだ」

 周りの子供たちは状況が分からずヒソヒソと話しているが相対している二人は明らかに警戒している。子供だからと舐めてはいけないと思い主導権を奪いにかかる。

「場所を変えましょう」

 そう言ったのは大人ではない。子供であるレイだ。

「あ、ああ。そうだね」

 有無を言わせないレイの赤い両目に思わず了承してしまう。

 グレイシアに肘でつつかれる。子供相手に何をやっているんだと言いたげだ。

 じゃあお前がやってみろと言いたげに肘をつつき返す。

 仕方ないとでも言いたげに溜め息を吐く。

「そうね。わたしたちと一緒に――」

 カイトとレイを部屋に連れていき場を整えて主導権を握ろうとしたが

「「…………」」

 カイトとレイは無視して中庭から出ていってしまった。

「ぷ、ふははは。ガキに無視されてやんの。ダッセェ!」

(イラッ)


ドスッ


「ぐふッ!?」

グレイシアの肘鉄を鳩尾みぞおちにくらいミチナガは悶絶した。

(子供に舐められるなんて)

グレイシアは二人の後を追った。

ミチナガは……子供たちに痛いの飛んどけをされていた。


 案内された部屋に入るとグレイシアの身体に疲労感が襲いかかる。

(まさか!?)

「私が許可した人以外は魔術が使えないようになっています」

 やられたと思った。

 相手が用意した交渉のテーブルに仕掛けがないわけがないのに。

 部屋に視線を奔らせる。

 蛍光灯で照らされた部屋は本棚が林立していて全体が窺えない。

(結界の魔方陣を探さないと。でも魔術が使えないと目視でしかないか)

「こちらへ」

 レイに従い奥へと進んでいく。その間も周りに視線だけをやり魔方陣を探す。

 辿り着いた場所には本来は読書をするためにあっただろう一人掛けのソファが向かい合うように四つあった。その一つにカイトがムスッとした顔で座っていた。

 彼の横にレイが座り、彼女の正面にグレイシアが座る。

「もう一人は?」

「知らない。ついてこなかった」

「それじゃダメじゃん」

「わたしのせいじゃない」

 カイトとレイがコソコソと話しているのをグレイシアは黙って聞いていた。いや、探っていた。二人を、そしてこの部屋を。

「では始めましょうか」

 営業スマイルで話を始める。

「あなたたち二人は第三灰色孤児院で優秀な成績をおさめています。なので、こうして直接スカウトに参りました」

 グレイシアは右手を差し出す。

「率直に単純に明快に快刀に乱麻に言います。わたしたち白軍に来なさい」

「来た」

 レイが視線を移す。

「ちょっと、まったああぁぁっぁぁあ!」

 部屋の扉が勢いよく開かれる。すると本棚が音を立てて動き出し部屋に広いスペースが出来上がった。そこをイラついたミチナガが通る。

 なぜ自分は本棚の道を通らされたのに彼には本棚をどかしたのかグレイシアは不思議だったが発見したことにより理解した。

「魔方陣!」

 白軍服の袖口から刃が光る。腕を振るい投擲。狙うは結界を司る魔方陣の破壊。

「させねえ」

 魔方陣へ一直線に飛んだナイフは、ミチナガの蹴りによりグレイシアに返される。

 返された刃はグレイシアの手へと戻る。

「なんで邪魔したの?」

「敵の邪魔するのは当たり前だろ?」

 今にもキレそうな笑顔をグレイシアにミチナガは不敵に返す。

「この白い魔方陣のおかげで調子悪いんだろ? なら黒軍の独壇場じゃないか」

 機嫌良くグレイシアの隣に座る。

「じゃあ始めようぜ!」

「俺たちは同じ軍には入らない」

「は?」「へ?」

 唐突にカイトが言った。それにミチナガとグレイシアは呆けた声で返す。

「なにか理由があるのか?」

 なんとしてでも二人一緒に軍に入れたい採用担当の二人はそこが気になった。

 カイトとレイは顔を見合わせて、そして答える。

「俺たちは戦争を止める」

「それが軍に分かれて入る理由」

 二人の真剣な眼差しをミチナガは鼻で笑った。

「戦争を止める? そんな夢物語を語るのか?」

「そうね。それに戦争するのが軍人よ。本末転倒じゃない」

 ガキの戯言とへらへらと笑うミチナガに足を組んで同意するグレイシア。

「それこそ片方の軍に入った方が戦争終結が早まるわ」

「それではダメ。わたしたちが求めるのはどちらかの勝利じゃない。両軍の敗北」

 レイの言葉にミチナガは動揺を隠す。

「おいおい、聞き捨てならないな。お前の話が本気だとしたら第三勢力が黒と白を負かすってか?」

「そうだとしたら孤児といえどお仕置きが必要ね」

 目を細めて殺気を際立たせるミチナガとグレイシア。

 彼らの視線を意にも返さずレイが左手をはらった。すると本棚から一冊の書物が飛来して彼女の手に収まる。

「見覚えがありますね?」

 レイが書物の表紙を見せるとミチナガとグレイシアは目を見開いた。

「これは二人が孤児院を出て軍に入る前に書いた卒業文集です。内容は覚えていますか?」

「覚えているわ。恥ずかしいぐらいにね」

 レイの問いにグレイシアは苦笑した。

「『わたしは軍人になったら黒と白の橋渡しになりたい』それが夢だった」

「俺は『子供たちが笑って暮らせる世を作りたい』だったけか」

 二人は自分たちが綴った一文を懐かしげにそらんじた。

「その気持ちがまだあるなら協力してくれ。頼む」

 カイトが頭を下げて懇願する。

「お前は頭を下げないのか?」

 頭を下げるカイトの隣で無表情で佇むレイにミチナガは訊いた。

「べつに協力がなくてもわたしは成し遂げるから」

 そう言ってのけるレイの態度にグレイシアはクスクスと口を押えて笑った。

「気に入ったわ。人に簡単に頭を下げない矜持」

 グレイシアは手を差し出す。

「あなたは白軍に来なさい。それでいいわねミチナガ?」

「ああ、構わない。俺はコイツを引き取る。お前らはそれでいいんだよな?」

 カイトとレイはしっかりとうなずく。最後まで二人からは覚悟の籠る瞳は揺らぐことはなかった。

 

 翌日の昼には十二歳の子供が四十人中庭に集められた。今回は彼らが軍――三年間は士官学校へと向かうのだ。

 四十人のうち白軍は十人、黒軍へは三十人。これは魔術が使えるとされる魔術適性値を満たす子供が少なかったからである。魔術が使えなければ所属できない白軍に対して黒軍は魔術に頼らず、そして武術適性値が無くても一般兵として徴兵しているのだ。

 少数精鋭と魔術を扱う白軍と人海戦術と既存の兵器で戦う黒軍。これがファンタジーのような絶対的な魔術があるにも関わらず白と黒が拮抗している理由だ。

「やっぱりレイは白だな」

「ええ。君も黒になったね」

 二人は別れる前に言葉を交わす。

「互いに偉くなって、そして握手できる日が来たらいいな」

「そうね。それまでは敵として武器を取ろう」

 レイは手に持っていたそれをカイトに差し出す。

「これは! あのときのナイフか!」

 鞘に収められたナイフを取り出し、刃を掲げる。

「それはお守り。魔力が込められている」

「そうか、ありがとうな。大事にする。お前も髪飾りをこれからも大切に使ってくれ」

「うん」

 レイは頷き、白髪のツインテールを留める髪ゴムを優しく撫でた。

「する。また会えるその日まで」

 こうして二人は別れた。再開を約束して。



 五年後、黒と白の争いは激化した。その戦場にカイトとレイは居た。



 Black side


 ――国境線より約二十キロ 黒曜基地――

 

「カイト中尉、貴官に対魔術部隊第一七小隊、小隊長を命ずる」

「はっ、慎んで拝命します」

 敬礼を続けるカイトに上官は笑う。

「お前も部隊を預かる士官か。それも中尉。順調に偉くなってるな」

「ミチナガも今では大佐だろ。よくそこまで出世できたな」

 敬語を捨て敬礼を止めたカイトの前でミチナガはタバコをふかす。

「机仕事でも二階級上がることもあるんだよ」

 机の引出しから紙束を取り出しカイトに渡す。

「一七の名簿だ。目を通しておけ」

「了解」

 再び敬語をした後、部屋を辞した。

「ここか」

 対魔術部隊第一七小隊に割り当てられた部屋にたどり着く。

 扉をノックしてノブを回す。

 窓からの昼の光で照らされた部屋には男女四人が居た。

「本日付で対魔術部隊第一七小隊の小隊長に任命されたカイトだ。よろしく」

 敬礼などせずに手を振って自己紹介をするカイト。だが他のメンバーはしっかりと敬礼する。

「ようこそ小隊長殿。わたしはミユキ少尉です。あなたの補佐を行います」

 その少女の顔にカイトは見覚えがあった。

「お前もこの部隊だったのか!?」

「エヘヘ。わたしも驚いたよ」

 ミユキは五年前に孤児院でカイトとレイの組と戦った男女の組の蹴りが得意な女の子の方だった。

 彼女は孤児院を卒業する日にカイトと共に黒軍の士官学校に入り三年間を過ごして簡単な実地訓練を経て少尉となった。

 黒軍には祖先が侍の血族の者が多く、それに伴い黒目黒髪の兵士が黒軍の八割を占めるが彼女は茶髪茶目である。セミロングの髪とかっちりした軍服は彼女の元気溌剌がうかがえる。

「俺はタカユキ軍曹です」

 日に焼けた褐色肌の坊主頭の男だった。鍛えられた身体は軍服を着ていても分かるほど筋骨隆々で軍人ではなかったら格闘家にでもなっていたんじゃないかと思えるほどだ。年は二十歳を超えているだろう。つまり年上部下だ。

「わわわ、わたしはサクヤ上等兵であ、あります!」

 おどおどと敬礼する少女はカイトと同じか年下に見える。だが軍服からでも分かる豊かな胸がきっちりと着ることによりさらに強調されていて大人の色香を感じる。黒目黒髪という黒軍では珍しくはないが背中まで流れる黒髪の一部だけを赤いリボンで結ぶという初めて見る髪型だった。

「自分はミナギ。同じく上等兵」

 敬礼した男は部屋の中であるのに軍帽を被っており、カイトの頭一つ分くらい長身でモデルのような体形だった。黒目黒髪で髪が少し長いせいで目や耳にかかってしまっている。年は一つか二つ上の十八、九だと思う。印象は少し暗め。いやこれがクールというものなのかもしれない。

 各々の紹介を済ませるとミユキがカイトに声をかける。

「それにしても五人の小隊に士官が二人って変だよね?」

「たしかに。理由があるのかな?」

 ふつうは小隊ほどの小規模だと士官および准士官(士官候補生も含む)が小隊長で下士官(この小隊では軍曹のタカユキ)が補佐するものだ。

 士官二人が疑問を話し合っていると扉がノックされる。

「失礼します。こちら作戦指示書です」

 廊下に居た兵士はカイトに書類を渡すと足早に去って行った。

「なにそれ?」

 ミユキが横から書類を覗く。

「今回の作戦指示書だ。俺たちの初任務になる」

 カイトの言葉に小隊に緊張が走る。これから彼らは戦地に赴くのだ。

「戦闘未経験者は?」

 二等兵はいないので何かしらの経験があるはずだが――

「あの~」

 サクヤ上等兵だけが恐る恐る手を挙げた。

「訓練は?」

「してないです」

「武術適性は?」

「う~最底辺です。すみません」

 肩を落とすサクヤに冷たい視線が注がれる。

「よく対魔術部隊に入れたね?」

 大丈夫なのかこの子? という視線で同じ上等兵のミナギがカイトに向ける。

「経歴は特務学校衛生部からの徴兵。特務学校って何だ?」

「士官でも一般でもない非戦闘員の学校のことじゃない? そこで成績がよければ上等兵になれるのよ」

「はい。徴兵されたので上等兵止まりですが」

 カイトの疑問にミユキが答える。それをサクヤが肯定する。

「非戦闘員って俺たちは戦場に行くんだろ?」

「わたしたちは五人で一つの軍なんでしょ? 指示書には書いてないの?」

 ページを捲り読み進める。

「指示する者――カイト中尉。攻撃する者――ミユキ少尉、ミナギ上等兵。防御する者――タカユキ軍曹。治癒する者――サクヤ上等兵。なるほど役割分担ってわけか。士官学校と部隊編成が違うんだな」

「士官学校は通常部隊と合同の訓練だったから二、三十人規模だったしね」

 次のページを捲る。

「これより約二時間後、1400時に青葉市で作戦を行う。そのためこれからトラックに移乗する」

 五人は各々の装備と配布されたポーチを腰に巻き部屋を出て駐車場へと向かい人員輸送のトラックへと乗車した。他の対魔術部隊の小隊員が一部隊乗り込む。

「配布をお願いします」

 乗降口の兵士からアタッシュケースが渡される。開くと中身はイヤホン型のインカムだった。カイトは隊員にそれを渡し、左耳に装着する。

『こちらモトナガ曹長です。運転席より失礼します」

 インカムから若い男の声が流れる。

『これより皆さんを青葉市へお送りします。所要時間は三十分ほどです。青葉市の説明はユウナ軍曹から』

 一度通信が切れて再び繋がる。

『ユウナ軍曹です。助手席より失礼します。地図をご覧ください』

 一度言葉が切れる。その間に小隊内で地図を確認する。

『青葉市は国境から約五キロの距離。住宅街ですが住民はすでに居ないので心配はありません。一部に森林保護の名残りで小規模な森があります。地図で緑の部分です。この都市では我ら黒軍が防衛を繰り広げています。しかし白軍の魔術は強力でこのままでは後退が余儀なくされます。すると今後の作戦に差し障るので

彼らと共に都市防衛を成し遂げていただきたいと思います。以上です』

 そこで通信が終わる。

「俺たちは対魔術部隊第一七小隊の小隊長カイトです。そちらは?」

「わたしは対魔術部隊第五小隊、小隊長ナカです。よろしく」

 向かい合っている小隊に声をかけると女性の隊員が答える。年は二十四、五歳にみえる。一応敬語を使っておいて良かった。

「ナカ小隊長の部隊は実戦は?」

「五回です。そちらは初陣ですか?」

 一七小隊員は全員でうなずく。

「じゃあ予備知識を教えますね。敵は魔術で攻撃してきます。この魔術の攻撃はとても強力であり、攻撃は拳銃程度では弾かれてしまう。それに対抗するための力がわたしたちの背中に託されています。白軍の魔術は魔方陣の色によって判別が可能です」

・攻撃系――黒魔術

・支援系――白魔術

・炎系――赤魔術

・水系――青魔術

・風系――緑魔術

・雷系――紫魔術

・土系――黄魔術

・鋼系――銀魔術

「現在確認されているのはこの八種類。相手の戦術はわたしたちと違って兵科ごとで戦闘を行います。ですので発見した兵科の周辺には同じ兵科の白軍がいる可能性が高いと思ってください。もし誰かが”魔術猟兵”と報せたら警戒を厳にして対応を。この兵科にはたくさんの同胞がやられています」

「助言感謝します」

 カイトが礼を送るとナカ小隊長は笑顔で返してくれた。

『ユウナ軍曹です。目的地に到着しました。停車します』

 ブレーキがかかり身体がわずかに揺れる。

『これよりこのトラックは負傷兵を基地へ送る任を務めます。それでは幸運を祈ります。お気をつけて』

 第一七小隊と第五小隊が降車する。彼らと同じようにトラックから降りる部隊があった。

「到着した。指揮所へ向かおう」

 他の対魔術部隊と共に黒軍指揮所へと向かう。その間では通常部隊が灰色の迷彩戦闘服で走り回っていた。彼らは既存の火器で白軍の魔術と戦っている。そのため魔術師相手には不利なため対魔術部隊のカイトたちが戦線に投入されるのだ。

「よく来てくれた。わたしは青葉市の防衛を任されているシン大佐だ。歓迎会でも開きたいところだが、我らには暇がない。すぐに前線の部隊と合流。作戦は部隊の指揮官に訊いてくれ」

 指揮所を離れ、兵の先導に従い前線へと進む。その途中で他の対魔術部隊とは別れる。

「これは、ひどいですね」

 サクヤが周りを見て言う。

 彼女の言う通り前線に近づくにつれ建物の損傷が激しい。まるで爆撃でもされたようだ。

 遠くにコンクリートでも木造でもないモノが見える。あれは――

「戦車ね。初めて見たわ!」

 ミユキが少し興奮して言った。カイト自身も実際見るのは初めてだった。

 無骨な戦車は平べったい車体に平べったい砲塔で、まるで親子の亀のようだ。塗装は歩兵と同じく灰色で市街戦のためだろう。

 戦車を観察していると不思議な点にカイトが気づく。

「砲口が空に向いている?」

 戦車の知識は多くないのでそういうものなのだと納得しかける。

「対空戦のためです」

 女性歩兵がカイトの隣で答える。

「おおッ!? 驚かせないでください」

「わたしは影が薄いのが取り柄です。この部隊、陸軍南部方面軍青葉連隊第四中隊の指揮官カズキ中隊長です。そっちは副官で今回の作戦では防衛班の指揮官であるアキラ車長」

 カズキと握手した後、戦車を見るとハッチから上半身を出してこちらにひらひらと手を振っている戦車戦闘服を着た男。彼がアキラ車長で間違いないだろう。

「話に出た対空戦ですが白軍の魔術師の中にはそらを駆けるものが居ます。つまり空襲されるのです。そのため前線には対空兵器が配備され歩兵や戦車も上空を警戒しています」

「敵が空を!?」

 対魔一七小隊に衝撃が奔る。

「航空支援はあるのですか?」

「ありません。制空権は常に白軍にあります。今回の作戦にはそれの奪取も含まれています」

 ミナギの質問にカズキが首を振る。

「それでは作戦をお伝えします」

 青葉市は北から南の縦長の都市であり、東側に黒軍が西側に白軍が展開しています。

 黒軍は度重なる敵の襲撃により疲弊しています。そのため我らが反撃を開始。目標は現在の場所から西南西の森林保護地帯。ここに敵の指揮所があると予想されており、ここを制圧、青葉市を解放します。

 我が中隊はわたしが指揮する強襲班。これには一七小隊も含まれます。目的は他の強襲班と足並みを合わせて今話した指揮所の制圧。もう一つはアキラ車長が指揮する防衛班。敵の空襲を抑えてもらいます。ですが敵は魔術師。完全には抑えられないでしょう。その場合、黒軍は空襲で甚大な被害を受けてしまいます。わたしたちの迅速な動きに我が軍の命運がかかっています。

「では作戦、五分前」

 カズキの部隊が整列を始める。

 カイトたちも態勢を整える。

「総員、魔術刻印を使用!」

 カイトの号令に対魔一七小隊は背中に意識を集中させる。

 彼らの背中には白軍の魔術師たちに対抗するために黒軍が発明した刻印が”魔術刻印”が刻まれている。この刻印は魔術適性値が低い黒軍の兵士でも魔術を扱えるようにしたものである。黒と白の二種類があり黒なら黒魔術、白なら白魔術が使うことができる。だが魔術適性値を底上げするが元々持っている魔力が少ないので魔術では勝てない。ただ魔術師相手と戦えるようになるだけだ。それでも無いよりはマシだ。

 この魔術刻印は黒軍の兵器にも使用できる汎用性があり、砲弾や装甲、刀剣類や対魔術部隊の軍服などに施されている。だが未だ通常歩兵の装備にまで手が及んでいない。魔術刻印を施すのはコストがかかり消費が激しい小銃や機関銃の銃弾には採用されなかった。

 対魔一七小隊ではミユキとミナギが黒魔術刻印、タカユキとサツキが白魔術刻印が施術されている。カイトはレイに教わったため施術しなくても黒と白の魔術が使える。

 背中が熱を帯び始めたら魔術刻印は発動される。

「作戦開始まで五、四――」

 残り三秒が長く感じる。

「一。進めええぇぇ!」

 カズキの号令で第四中隊強襲班と対魔一七小隊が駆け出した。


ダダダダダダ――

パスッ――ドゴン


「いきなり撃たれてますよ!?」

 サクヤが涙ながらに叫ぶ。

「安心してください。味方の重機関銃と迫撃砲の音です。白軍に出鼻を挫かれないために牽制してもらっています」

 彼女の言葉通り、横を見ると瓦礫だらけの建物から銃弾や砲弾が前方に向かって飛来している。無事な建物の屋上からは狙撃兵も確認できた。

「いくら白魔術の加護で傷つくことはなくても機関銃の衝撃は伝わります。それに加えて迫撃砲の砲弾には黒魔術刻印が施されているので魔術師を殺傷できます。彼らがいる間は襲撃の可能性は低いです。しかし一キロほどで支援はなくなります。そこからがわたしたちの戦いです」

 二十名の第四中隊強襲班が先行して駆ける。彼女の隊の後ろを対魔一七小隊が追随する。その間にも周りでは銃声や爆音が響く。

「この大通りを道なりに進めば目的の森林保護地帯に到着します。ですが大部隊が配置されているでしょう」

「まもなく重機関銃の射程距離外です」

 カズキの隣を駆けていた副班長が告げる。

「班を二つに分けます。わたしの班は右を副班長の班は左を対魔一七小隊は正面を警戒」

 短く返答して隊列を変える。

「亀裂や段差が出来てしまって走りにくいな」

「暢気なことを言っている場合じゃ――!?」

 カイトとミユキの前方数メートルが爆破する。味方の砲撃だとしたら誤射では済まない。もう少し隊の足が速ければ巻き込まれていただろう。

「敵襲!」

 カイトの声に隊全体が反応する。

「魔方陣を探せ!」

「家屋には近づくな。味方の砲撃に巻き込まれるぞ!」

「魔方陣、赤、紫」

「回避!」

 遠くで赤と紫の光が見えたと思ったら前方のアスファルトが火球と雷撃で穿たれた。

「走れ! 狙い撃ちにされるぞ!!」

 隊が全力で大通りを駆ける。その間も火球と雷撃がアスファルトを穿ち、彼らの横を掠める。

「迫撃砲を抜けました! 支援は無し!」

「敵視認。魔銃兵!」

「副班長に命令。家屋から敵を攻撃し、我らを支援せよ」

 カズキの命令に副班長が短く返事して班を散開させる。彼らは崩壊した家屋に侵入して銃器を敵に向ける。

『敵は魔銃兵。赤と紫の光が見えたら迷わず撃て』

『確認。排除する』

 突撃銃(アサルトライフル)が三発毎に火を噴く。狙撃銃(スナイパーライフル)が音速で風をも穿つ。RPG――携帯対戦車グレネードランチャーが飛来する。

「彼らに任せて先を急ぎましょう」

「魔術師相手に通常兵装で戦えるんですか?」

 カズキの隣を駆けていたカイトが疑問を口にする。

「魔銃兵は魔術で攻撃するとき同時に複数の魔術を使用できないらしく、その間だけ白魔術の加護がないので隙が生まれて通常の弾でも殺傷が可能なのです」

 魔銃兵の弱点は本当なようで銃声が響く度に魔方陣からの攻撃が減っている。

 左へのカーブに差し掛かり、そこを通過するとそれは居た。

 大通りを封鎖するように横列を組んだ三十人ほどの白軍服の兵士たち。彼らの手には過去の歴史において人がまだ発明して戦場に導入したばかりの銃――マスケット銃だ。

「黒軍だ! 撃てえッ!」

「隠れろ!」

 カイトが叫ぶと隊は家屋の中や壁に身を隠した瞬間、銃口に赤、紫の魔方陣が展開すると火球と雷撃が家屋を破壊する。

「わたしたちが敵を惹き付けます。突撃を」

 カズキの隊が牽制射撃を行う。それに合わせて対魔一七小隊が動いた。

「はあッ!」

 カイトは腰に下げていた軍刀を抜き、火球が傍で爆発する中で魔銃兵の一人へと肉薄する。

 咄嗟に反応した魔銃兵は銃口に白魔術《護》の魔方陣を展開する。が、

「くそおおおッ!?」

 斬りつけられた軍刀の刃が魔方陣をガラスのようにバリンと音を立てて割れ、マスケット銃を叩き落とす。そこから刃を返し、斬り上げた。

 白軍服から血が吹き出し、周りの魔銃兵たちが目を見開く。

「貴様あッ、対魔術部隊か!? がッ!?」

「どりゃあああ!」

 ミユキが軍ブーツの蹴りで魔銃兵の首をへし折りを打ち倒す。

「はッ!」

 ミナギが魔方陣ごと直槍で刺し貫く。

「サクヤ上等兵。俺から離れるな!」

「は、はいいいいぃぃぃ」

 白魔術《補》で身体能力を上昇させたタカユキがまるでレスリングのようにタックルを喰らわせマスケット銃を奪って、それで敵を殴る。彼の傍を戦闘経験が皆無のサクヤがビクビクと震えながら白魔術《護》で敵の攻撃を防いでいる。

「退けええぇェッ! 白兵戦では勝てぬ」

 魔銃兵の指揮官が号令すると一気に退いた。が、全員が背を向けると追撃をされてしまうので数人の魔銃兵が銃口を地面のアスファルトや家屋に向けて爆発させた。

「逃げられちゃう。追わないの?」

 カイトの白魔方陣に身を隠しながらミユキが問う。

「敵のほとんどは討ち漏らした。追撃すれば罠があるかもしれない。歩みを緩めよう」

 カイトがそう言うと後ろで悲鳴が上がる。振り向くとカズキの班の兵士たちが倒れていた。

「どうしたんですか!?」

 彼らにいち早く駆け寄ったのはサクヤだった。

「先程の爆発で飛んできた破片で重傷者が出ました。治療するため後方へ運びます」

 カズキの指示で無事だった兵士が動こうとすると、サクヤが白手袋をはずして上着を脱ぎ、シャツの袖をまくってアルコールタオルで両手の除菌を済ませ負傷兵の横に正座する。

「は、腹が――うぐッ」

「大丈夫です。かならず助けます!」

 細長い破片が腹部に突き刺さり、そこから血が滲んでいる。

 サクヤは脱いだ上着を負傷者に噛ませ、破れた戦闘服の穴を少し広げて破片を囲うように両手を添えると傍で見ていた兵士に指示を出す。

「合図したら破片を抜いてください」

「ですが抜いたら出血が!?」

「大丈夫です。いきます。せーの!」

 負傷兵の腹から破片が抜かれる。刹那、血が吹き出しサクヤの顔を染める。だが彼女は落ち着いた様子で傷に両手の指を差し込む。その痛みに負傷兵はくぐもった唸りをあげて暴れる。

「彼を抑えてください。早く!」

「は、はい!?」

 二人の兵士が慌てて負傷兵を地面に押さえつける。その間も指が体内へ沈む。

「ここですね。白魔術《癒》」

 傷口から白い光が漏れる。

「傷を塞ぎます」

 血で染まった指を抜き、傷口に両手を押し当てて再び白魔術を発動させる。すると傷口は徐々に消えて何もない状態に戻った。

 サクヤはポーチより油性のマジックを取り出すと傷があった箇所に赤い×を書いた。

「これで大丈夫です。念のために傷の箇所を検査してください」

 サクヤは兵士に伝えると、立ち上がり――盛大にぶっ倒れた。

「ふしゅううぅぅぅぅ」

「マズイ! 魔力切れだ!」

 カイトはサクヤに駆け寄るとポーチから"術符"を取り出し彼女の額に貼った。

 カイトが貼った術符は魔力が少ない黒軍の兵士のために作られたもので、魔力が込められた術符を貼ることで魔力を補うことができる。また、この術符は黒または白の魔術刻印が描かれているので、自らの魔力を使わなくても魔術を発動させることも可能であり、他にも黒魔術刻印の者が白魔術を白魔術刻印の者が黒魔術を使用できる。そして使い捨てなので黒軍の兵士たちからは"インスタント"と呼ばれていたりする。

「うう、身体がダルいです」

 目を覚ましたサクヤが呻く。

「よく頑張った。お前のおかげで兵士は無事みたいだ」

「良かった……他の人も診なくては」

「大丈夫だ。他のヤツは軽傷でタカユキが治したよ」

「そうですか……zzzzZZZZ」

 サクヤは安心したように微笑み、そして寝た。

「戦場で幸せそうに寝れるなんて肝が座っているわね」

 カイトの隣でミユキが苦笑する。

「この子は訓練を受けてないようだから魔力が切れる前に術符を使うことを知らなかったんだろう。仕方ない俺が運ぶか」

 カイトがやれやれといったようすでサクヤを担ぐ。

「別れていた班が到着しました。周辺に敵はいないようです」

 カズキが報告する。

「わたしの班では二名が負傷。後方へ送るため計四名が退きました」

「強襲班は合計で十六名。そこからこちらも怪我人と護衛を送るから十四名か。カズキさん作戦継続は可能ですか?」

「メインは対魔術部隊の皆さんですので、皆さんさえ目的地に送れるのなら可能と言えます」

「では作戦を――」

「カイト隊長。あそこを」

 カイトの言葉をミナギが切り、瓦礫の先を指す。

「何かいるのか? あの白い点は鳥か?」

 隊の者たちがミナギが示す方向を見る。

「カズキ班長! あれは"魔術猟兵"です!」

 カズキの班の兵士が双眼鏡を持って悲鳴のように叫んだ。

 魔術猟兵。移動中のトラックでナカ小隊長が言っていた敵だ。

「あれが宙を駆ける魔術師ですか?」

「はい。あれの空襲でたくさんの仲間が」

 歯をギリリと噛むカズキの表情は怒りに染まっていた。

「敵が何かを投下しました」

 ミナギの報告を受け、白い点の方を見ると、宙にいる白い点から赤い点が落ちていった。

 そして――


 爆煙をあげた。


 そして爆風がカイトたちを襲った。

「くッ!? 何て威力なんだ!」

「爆心地から半径約一キロは更地になります。初期の原爆並みです」

 カズキの言葉で対魔一七小隊に衝撃が奔る。黒軍と白軍がまだ一つの国として成り立っていた時代。この島は海外の敵と戦争をし、敗戦間際に二つの都市に投下された忌むべき大量虐殺兵器。それが原爆だ。そこからこの島は半分に国境線を引かれて右半分が元々島に存在していた人間。左半分が海外から来た人間が統治するようになったという。それが現在の黒軍と白軍の成り立ちと言われている。

 もし黒軍創設時代の者が居れば憤りで我を忘れるところだろう。

 だが現在、前線に居る者たちは比較的若いので今の光景は恐怖でしかないだろう。

「指揮所より通達です。インカムを合わせてください」

 カズキの指示を受けてカイトがインカムを操作する。

『こちら指揮所。魔術猟兵により第三、十、十六強襲班並びに共に行動していた対魔術部隊が壊滅した。他の班は警戒せよ。繰り返す――』

 カイトは通信を切る。その表情は青ざめていた。

「大丈夫なの? カイト、指揮所は何だって!?」

 呆然と立ち尽くすカイトをミユキが揺さぶる。

「すまない。これは聴かせられない」

 視線をはずし、カズキをうかがう。カズキはどうやら伝えるようだ。

「魔術猟兵により被害が出た。だけどこれはいつものこと。わたしたちは作戦を継続する」

 なるべく士気を下げないように言ったのだろう。だが落ち着けるわけがなかった。

「カイト、わたしは副隊長。知る権利があると思うんだけど?」

 ミユキがカイトに詰め寄り瞳で訴える。

「……分かったよ。心して聞いてくれ。一度に三つの部隊が壊滅した」

 カイトの言葉にミユキの顔がこわばる。

「そう。伝えてくれてありがとう」

 なんとか微笑みカイトの肩を優しく叩く。

「行きましょう。わたしたちの居場所はバレています。このままでは空襲を受けます」

 隊をまとめ上げて移動を再開する。

「もうすぐです。あそこに見える樹々が森林保護地帯」

 カズキが示した方向には確かに樹が茂っている。通りには白軍の兵士は見えない。

 カイトは術符で白魔術《補》を発動させてサクヤを担いで駆け出す。彼に対魔一七小隊が従い、彼らを守るためにカズキの強襲班が火器を構えて追う。

「敵が来ないわね」

 ミユキが怪しむ。後一キロほどで目的の森林保護地帯へと着くというのに襲撃がない。待ち伏せが来ると身構えていたのにだ。

「このまま森に入るのか?」

 ミナギがカイトの隣を駆けて問う。ここまで何もないと逆に疑り深くなってしまう。だが迷っているわけにはいかない。

「このまま突っ込む。行くぞ!」

 カイトの声に隊の全員が答えた。

 森林保護地帯まで残り五十メートル。もう一息だ。

「回避!」

 仲間の兵士が叫んだ。

 そしてカイトたちは振り向く暇もなく背中に爆風を受けて吹き飛んだ。

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

「……う、く。何が……あったんだ?」

 身体中が痛みながらも咄嗟に白魔術《護》を発動したため大きな怪我を負わずに済んだ。隣では担いでいたサクヤが呻きながら起き上る。彼女もカイトの白魔術《護》のおかげで軽い怪我だ。

「急だったとはいえ魔方陣は展開できた。なのに身体が吹き飛んだ。どんだけの威力なんだよ」

「ここは……森ですか?」

 サクヤが寝ぼけ眼で辺りを見回す。

「隊長、無事ですか?」

 黒軍服を土で汚したミナギが軍帽の汚れをはたきながら姿を見せた。

「俺とサクヤは大丈夫。他の人は?」

「何名かはタカユキ軍曹が白魔術で治癒しています。カズキ中隊長は軽傷で部下の救助に当たっています。ミユキ少尉は――」

「ここにいるよ~」

 声の方を見ると木の枝にお尻が挟まったミユキがひらひらと手を振っていた。どうやら爆風で樹に上がってしまったらしい。

「カイト中尉」

 樹々の奥からよろよろとカズキが歩み寄ってきた。ヘルメットは失い、額を切ったようで血で左頬からおとがいへと流れている。

「カズキさん大丈夫ですか?」

「はい、頭を打っただけです。ですが――」

 カズキは悔しそうにうつむく。

「部下の半数が殺られました。生存者は七名。動けるのは、私を含めて三名しか居ません」

 申し訳ない、と謝るカズキにカイトは笑いかける。

「謝らないでください。俺たちはこうして辿り着けました。カズキさんたちのおかげです。後は任せてください」

 そう言って立ち去ろうとしたカイトの裾を誰かが引っ張る。

「隊長。わたしは残ります。残って怪我人の治療をさせてください!」

 普段オドオドとしているサクヤが意志の籠った瞳でカイトをみつめる。初めは見つめ合っていたがカイトが折れた。

「わかった。サクヤはタカユキと共に負傷者の治療にあたれ。ミユキ、ミナギ進むぞ」

「りょうか~い」

「わかった」

 サクヤが樹から飛び降り、カイトの横に並ぶ。ミナギもそれに続く。

「わたしも行きます」

「でも怪我が――」

「怪我など今はどうでもいい。死んでいった部下たちのために一矢報いたいのです」

 彼女の言葉に残っていた部下二人が続く。

「いいんじゃない。仲間は多い方がいいし」

「自分もそう思う」

ミユキとミナギが同意する。

「わかった。向かおう」

『こちら指揮所――」

 カイトのインカムが指揮所とつながる。

『こちら指揮所。味方の強襲班より敵の将を発見したと報告があった。場所は森林保護地帯、指揮所を離れ逃亡中である。近くの物は敵将を捕縛せよ。捕縛だ。殺してはならぬ』

「指揮所からですか?」

 どうやらカズキは爆風の被害を受けたときにインカムを紛失してしまったらしい。

「指揮所からです。敵将が森林保護地帯の中を逃げているようです。発見次第捕縛しろと」

「敵襲!」

 ミナギが叫ぶ。

 樹々のの間から白軍服の兵士が飛び出してきた。

「かれらは近接戦闘に長けた魔術師です。注意を」

 カイトたちに突撃してきたのは”魔闘兵”魔術師でありながら近接武器を用いて戦う兵士である。かれらは魔術で身体能力を強化しており近接戦闘が得意な黒軍の兵士であっても難敵だ。

「うおおおぉおッ!」

 カイトは抜刀して敵の剣と刃を交わす。

「白魔術《補》」

 自らも魔術で強化して力で刃を押し返す。そして切っ先を向けて腹を突き刺す。

 敵を蹴り、刃を引き抜く。そして周りの状況を確認する。

「敵は二十人ほどか――!?」

 樹々の遠くから赤い魔方陣が見え、そして火を放った。

「あいつら、森を燃やす気か!」

 止めるために駆ける。が、樹に隠れていた白軍の魔闘兵が斬りかかってくる。

 敵の魔術師は次々と火を放ち、ついには姿が炎と煙に包まれた。

「撤退しろ! 火煙に呑まれるぞ」

 敵を斬り倒し、号令する。なるべく敵に背を向けないように少しづつ森から退く。

「味方を回収する。急げ!」

 敵も退いたのを確認すると駆け出し、サクヤたちのもとまで戻る。

「みなさん、どうしたんですか?」

 兵士の治療をしていたサクヤが慌てて駆けてきたカイトたちに小首を傾げる。

「逃げるぞ!」

「え? でもみんなが……」

「担げばいい。小隊員は白魔術《補》を発動して負傷者を運べ。行くぞ!」

 負傷兵たちを担ぎ、全力で森を出た。その刹那、大きな音を立てて森が崩れる。間一髪であった。

『総員に告ぐ。目的地で火災を確認した。速やかに退避せよ』

 指揮所から通信が入る。

 カイトたちはそれに耳を傾けずに呆然と燃え盛る森を見つめていた。



 White side


 ――白峰基地――


 金髪の妙齢の女性が書類を一瞥して溜息をついた。

「はあ~。サラーム派閥の奴ら青葉市を放棄したか」

「黒軍の一度の作戦で兵を退かせるなど、臆病だと思いますが」

 上官の言葉に赤目白髪の少女が答える。

「まあ、別にいいんだけどね。もともと攻めたときに魔術猟兵の空襲作戦で瓦礫ばっかりになったから戦略的価値は低いし、サラーム派閥の土地が減るだけだし」

 金髪の女性――グレイシアが言う派閥。これは白軍が島の半分を統治するときに多数の貴族が台頭したためいくつものの勢力が出来てしまった。この派閥は黒軍ともう一つの争いになっている。なので、たまにわざと黒軍に攻め込ませたり、暗殺したりなど日常茶飯事である。

「それで、わたしに何の用ですか?」

 グレイシアは机の上にあった封筒を開ける。

「あなたに辞表が来ているの。特務部隊への配属、それに伴って少佐への昇格」

「拝命しておきます」

「なによ、その態度。少佐よ! 十七歳で佐官なんてどんだけよ!?」

 びりびりと、その場で辞表を破りだすグレイシア。

「まあいいわ。あなたが昇格したおかげで直接の上司であるわたしは大佐だし」

 自分の辞表を部下の前でひらひらと見せびらかす。

「わたしが特務部隊に入ったら直接の上司ではなくなりますが」

「いいのよ。机仕事で大佐までいったら、後はババアになるだけよ」

「もうアラサーなんですから退役して結婚でもしては?」

 部下の言葉にグレイシアは怒らずに笑った。

「そう願ってくれるなら早く戦争を終わらせてほしいわ」

「言われなくても」

 赤目白髪の少女――レイは部屋を辞した。

 戦争を終わらせるために。

 カイトと再び会うために。


《黒と白》 戦いは続く

 

後書きを先に読む人にも言っちゃいますが、

この話は途中で終わっています。

都市での戦いの後の男を主人公のことや最後にちょっとしか出なかった女主人公のことは今後書いていくかも?

まあ、書かなくては何も終わらずに終了してしまうので(汗)

sおれでは、kょうはここまで

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