表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プリムローズ・ストーリア  作者: 刈安ほづみ
第七章
523/532

第七章 あがくシバルバー部隊


 大地のマテリア術によって、駆逐艦が海底へ引きずり込まれるように撃沈していくのを、シバルバー部隊の隊長クラァラは、小型人力船から沈痛な面持ちで見届ける。

「あぁ……そんな……!」

 悲鳴を上げないように思わず口元に手を当てたが、嘆きの声を漏らしてしまった。同乗する非戦闘員らからも、悲嘆の声や水軍に対する罵声が上がる。


 彼女の隣に立つブレンが、駆逐艦に絡みついた樹木を焼き払おうと、右手を正面にかざし炎のマテリア術を放とうとした。

「グランディーナ派の野郎……!」


 だが、メアリックがその手首を軽く抑えて頭を横に振る。

「あの巨大な樹を灰にしたところで、もう間に合わない。座礁(ざしょう)して船底から海水が流れ込んでいる」

 水のマテリア使いである彼には、駆逐艦の海中での状態が察知できるのであった。それはもう、嫌気がさすほどに。


 ブレンは悔しそうに、右の拳を握りしめた。

「クソッ、どこまでも奴らのやりたい放題かよ……!」


 そのときである。


 突如として、人力船の前方を、巨大な樹木の一端がせり上がるように迫ってきたのだ。


「うわあああ、ぶつかる!」

 悲鳴が上がる船の上で、クラァラとブレンの両者は、とっさにマテリア術を発動させる。

「フレイマ・ダンツァトリーチェ!」

 彼女たちから放たれた火球は、乗員を避けるように放射状の軌道を描き樹木に命中し、ぼうぼうと燃えて炭と化していく。


 しかしクラァラたちには、手ごたえを感じることができなかった。高い火力で燃やしたつもりだったので、もっと簡単に焼き切れるはずだと思っていたからだ。


「俺ら2人がかりで、やっと燃やせるのか」

 呆然としかけたブレンだったが、それを許さないように、また新たな樹木が海底からせり上がる。今度は人力船の左右両側から迫ってきた。

 

 クラァラは部下に向かって叫ぶ。

「フレイミヤ・バーン派! 全員、『フェニーチェ・グローリア』で木を焼き払いなさい!」

 ブレン含めフレイミヤ・バーン派こと炎のマテリア使いである兵士たちは、その命令に従い、それぞれが詠唱を始める。


「揺らめく(ほのお)は、紅蓮(ぐれん)羽衣(はごろも)。舞えよ。舞えよ。天まで届け紅蓮の輪舞(ろんど)。我ら人にもたらされるは、繁栄へ導く安寧の(かがり)()か。はたまた全てを焼き尽くす、殺戮(さつりく)業火(ごうか)か……」


 『フェニーチェ・グローリア』は、先ほどの『フレイマ・ダンツァトリーチェ』より強力なマテリア術である。それゆえに長時間発動させると、術者の体力の消耗が激しくなるが、四の五の言ってはいられない。


 クラァラ自身もフェニーチェ・グローリアを発動させ、宙を舞う炎の鳥で、樹木を燃やし続けた。その脳裏には、駆逐艦から離脱する直前に託された、艦長の言葉が鳴り響く。生き残れ、再戦を果たせ、と。

(私はここで終わるわけにはいかない!)

 胸の内で燃え上がる想いは、炎の鳥をより高くへと羽ばたかせる。


 その間、メアリック率いるハイドロディウス派、水のマテリア使いの兵士たちは、非戦闘員と共に船を漕いで、出来る限り樹木から離れることを試みる。

 彼らはミルコの大地マテリア術の影響により、まだマテリア術を封じられているのだ。完全に無力化されたと言っても過言ではない。

 敵方のグランディーナ派はよほどの高僧か化け物だろうと、ハイドロディウス派の兵士たちは内心、畏怖の念を抱いていた。


 そんな当の本人である、ミルコはというと。


「おしまいでーす! せンそウ、ばかー! ヤダダーッ!」

 パニック状態に陥って、マテリア術を暴走させていた。甲高い声で喚きながら、手当たり次第に海底から巨大な植物を生やしていく。


 南国で見られるような、海水に耐性のある樹が瞬きの間に次々と伸びて、砲撃戦まっ只中(ただなか)のアシ号と駆逐艦の針路を妨害する。

 オリバーは(かぶと)のスリット越しの目を白黒させた。

「これではかえって、こちらにも被害が及ぶであります!」


「ミルコさん、落ち着いて! マテリア術はそんなに何度も使わなくていいですよ」

 プリムローズが必死に説得するものの、ミルコのパニック状態は治まりそうもない。先ほどはディエゴとオリバーを振り回していた彼女だったが、今は立場が抑え役に逆転している。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ