第七章 あがくシバルバー部隊
大地のマテリア術によって、駆逐艦が海底へ引きずり込まれるように撃沈していくのを、シバルバー部隊の隊長クラァラは、小型人力船から沈痛な面持ちで見届ける。
「あぁ……そんな……!」
悲鳴を上げないように思わず口元に手を当てたが、嘆きの声を漏らしてしまった。同乗する非戦闘員らからも、悲嘆の声や水軍に対する罵声が上がる。
彼女の隣に立つブレンが、駆逐艦に絡みついた樹木を焼き払おうと、右手を正面にかざし炎のマテリア術を放とうとした。
「グランディーナ派の野郎……!」
だが、メアリックがその手首を軽く抑えて頭を横に振る。
「あの巨大な樹を灰にしたところで、もう間に合わない。座礁して船底から海水が流れ込んでいる」
水のマテリア使いである彼には、駆逐艦の海中での状態が察知できるのであった。それはもう、嫌気がさすほどに。
ブレンは悔しそうに、右の拳を握りしめた。
「クソッ、どこまでも奴らのやりたい放題かよ……!」
そのときである。
突如として、人力船の前方を、巨大な樹木の一端がせり上がるように迫ってきたのだ。
「うわあああ、ぶつかる!」
悲鳴が上がる船の上で、クラァラとブレンの両者は、とっさにマテリア術を発動させる。
「フレイマ・ダンツァトリーチェ!」
彼女たちから放たれた火球は、乗員を避けるように放射状の軌道を描き樹木に命中し、ぼうぼうと燃えて炭と化していく。
しかしクラァラたちには、手ごたえを感じることができなかった。高い火力で燃やしたつもりだったので、もっと簡単に焼き切れるはずだと思っていたからだ。
「俺ら2人がかりで、やっと燃やせるのか」
呆然としかけたブレンだったが、それを許さないように、また新たな樹木が海底からせり上がる。今度は人力船の左右両側から迫ってきた。
クラァラは部下に向かって叫ぶ。
「フレイミヤ・バーン派! 全員、『フェニーチェ・グローリア』で木を焼き払いなさい!」
ブレン含めフレイミヤ・バーン派こと炎のマテリア使いである兵士たちは、その命令に従い、それぞれが詠唱を始める。
「揺らめく焔は、紅蓮の羽衣。舞えよ。舞えよ。天まで届け紅蓮の輪舞。我ら人にもたらされるは、繁栄へ導く安寧の篝火か。はたまた全てを焼き尽くす、殺戮の業火か……」
『フェニーチェ・グローリア』は、先ほどの『フレイマ・ダンツァトリーチェ』より強力なマテリア術である。それゆえに長時間発動させると、術者の体力の消耗が激しくなるが、四の五の言ってはいられない。
クラァラ自身もフェニーチェ・グローリアを発動させ、宙を舞う炎の鳥で、樹木を燃やし続けた。その脳裏には、駆逐艦から離脱する直前に託された、艦長の言葉が鳴り響く。生き残れ、再戦を果たせ、と。
(私はここで終わるわけにはいかない!)
胸の内で燃え上がる想いは、炎の鳥をより高くへと羽ばたかせる。
その間、メアリック率いるハイドロディウス派、水のマテリア使いの兵士たちは、非戦闘員と共に船を漕いで、出来る限り樹木から離れることを試みる。
彼らはミルコの大地マテリア術の影響により、まだマテリア術を封じられているのだ。完全に無力化されたと言っても過言ではない。
敵方のグランディーナ派はよほどの高僧か化け物だろうと、ハイドロディウス派の兵士たちは内心、畏怖の念を抱いていた。
そんな当の本人である、ミルコはというと。
「おしまいでーす! せンそウ、ばかー! ヤダダーッ!」
パニック状態に陥って、マテリア術を暴走させていた。甲高い声で喚きながら、手当たり次第に海底から巨大な植物を生やしていく。
南国で見られるような、海水に耐性のある樹が瞬きの間に次々と伸びて、砲撃戦まっ只中のアシ号と駆逐艦の針路を妨害する。
オリバーは兜のスリット越しの目を白黒させた。
「これではかえって、こちらにも被害が及ぶであります!」
「ミルコさん、落ち着いて! マテリア術はそんなに何度も使わなくていいですよ」
プリムローズが必死に説得するものの、ミルコのパニック状態は治まりそうもない。先ほどはディエゴとオリバーを振り回していた彼女だったが、今は立場が抑え役に逆転している。




