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プリムローズ・ストーリア  作者: 刈安ほづみ
第七章
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第七章 アマノトリ号を狙う魔の手


 16時15分。カルチェラタン水軍は帝国海軍の駆逐(くちく)艦隊(かんたい)のうち、シバルバー部隊の搭乗(とうじょう)する1(せき)中破(ちゅうは)、さらに別の1隻の外輪(がいりん)を破壊することに成功した。


 アシ号に外輪を破壊された艦は航行不能となり、他艦に支援要請を発信したが援護はまだ来ない。


 それもそのはずだった。他の駆逐艦は輸送船を護衛するため、水軍の大型船アマノトリ号と戦闘中だからである。


 アマノトリ号を指揮する水軍頭領ドミニクは、甲板の上に立ち、大声を張り上げる。

「とぉおおおおおりいいいいかじぃいいいいいいー、いっぱあああい!」


「あいよ、取舵(とりかじ)いっぱい!」

 (そう)舵手(だしゅ)は筋肉の盛り上がった太い腕で、舵を右方向に大きく切った。


 全長250メートルあるアマノトリ号は、海の上で巨大な半円を描くように動き出し、やがて船首が完全に左を向いた。輸送船に対して、垂直になるように接近したのだ。まさにTの字を作るように2隻は並んだ。


 ドミニクが何故そうしたかというと、アマノトリ号から輸送船が横向きに見えるほうが砲撃で狙いやすく、また輸送船からはこちらを攻撃しにくいためである。


 そしてアマノトリ号の水兵たちは、輸送船の右舷(うげん)に狙いを定め、てきぱきと大砲を用意した。小型船アシ号が保有する砲台数の3倍――120門の大砲がズラリと並ぶさまは、輸送船の乗組員たちに恐怖を与えた。


 いよいよ砲弾が一斉に射出される、その直前である。


 駆逐艦隊のうちのまだ無傷な2隻が、アマノトリ号の左右を取り囲むよう、迂回(うかい)しながら接近してきたではないか。


 一方の駆逐艦の艦長が、艦橋(かんきょう)で指令を下す。

「このまま我が艦は、反対側の艦とで敵艦を挟撃(きょうげき)する。前進せよ!」

 彼らは左右両側からアマノトリ号を攻撃するつもりなのだ。


 アマノトリ号は決断を迫られた。


 砲手を任されている若手の水兵が、額に冷や汗をかきながらドミニクに訊ねる。

「どうします? 輸送船より先に、こっちに向かってきてる船を沈めますか?」


 ドミニクは一切動じずに、泰然とした様子で両腕を組むと、厚いタラコ唇を開いた。

「いや、向こうのほうが速い。反転は間に合わねぇ。このまま輸送船を撃つ」

 挟み撃ちにされるかもしれない状況下で、水軍頭領は攻撃対象を輸送船に絞った。


 砲手は目を見開いて、のけぞった。

「マジッすか! だってもう、目と鼻の先っすよ!」


 駆逐艦2隻は左右ともに50メートル以上は離れた地点にいるが、蒸気船の機動力を生かし、じりじりと間合いを詰めてくる。

 このままではアマノトリ号は5分も経たずに、敵の射程距離圏内に入ってしまうだろう。


 ドミニクは組んでいた腕をほどき、ン~と唸る。

「俺らの一番の目的は、アルカネット軍から輸送船を取り上げることだ。あんなちいせぇ船の相手をしてやる暇はないんだな」

「でも輸送船ボコッてる最中に、撃たれちまいますぜ!」

 焦る砲手に、ドミニクは口端を上げて不敵な笑みを浮かべた。

「俺らだけで戦ってるわけじゃないさ」


 挟み撃ちを企てている駆逐艦2隻のうち1隻が、アマノトリ号の左舷に向けて、主砲の角度を調整した。

 艦橋の通信士が報告を上げる。

「敵艦との距離、およそ40メートル!」

 艦長は「よし」と自信ありげに頷く。

「射程距離圏内に入ったら、砲撃せよ!」

 

 だが別の通信士から新たな報告があった。

「我が艦の後方に、中型船が接近中! 距離およそ30メートルを切りました」

「何ッ!」

 艦長は先程と打って変わって、忌々しそうに眉をひそめた。


 アマノトリ号を狙う駆逐艦のさらに後ろに、水軍の中型船マナシカタマ号が近づいていたのだ。


 マナシカタマ号は先ほどまでカガミ号、イワフネ号とともにシバルバー部隊の搭乗する駆逐艦を包囲していたが、アマノトリ号を狙う敵艦の動きを察して援護しにきたのである。

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