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第二話 冤罪

 


 


 一之瀬 亮(17歳)の家族、父、母、妹は、鋭利な刃物でめった刺しにされており、現場はみるも無残な血の海であった。

 とくに、父親に対する傷がひどく、刺し傷は、母親と妹に比べて2倍だった。

 また、父親の左手首が切り取られており、左手は現場から発見されなかった。


 両親と妹を殺害したあとに、一之瀬は自らの胸を刺し、自害しようとしたが死にきれず、現場に倒れていたところを発見された。


 亮の手には、家族を刺殺した際に使用された包丁が握られていた。

 亮以外の指紋は、その包丁から発見されなかった。

 また、現場には靴跡が多数残されていたが、すべて一之瀬 亮の所有する靴の靴跡であることが判明した。

 亮以外の者が侵入したという形跡は一切発見されなかった。


 全ての物証が、一之瀬 亮が犯人であることを指し示すものであった。


 また、近所の住人から、事件前日の夜に、亮と父親が激しい大喧嘩をしていたという証言が取れており、動機も判明した。

 事件は、父親との口論で、逆上した亮が家族もろともを惨殺したと結論づけられた。



 ただし、本人だけは違うと言い張っていた。

「これは、冤罪である」と「真犯人は他にいる」と。

 一之瀬は、警察の執拗な責めにも耐え、頑として自供はしなかった。

 しかし、明らかな物証が警察・検察に自信を与え、犯人であると断定され、少年審判を経て検察官送致となり、殺人事件で起訴されることとなった。


 国選弁護人 狭山 圭一は、自供しない一之瀬 亮と面会のため拘置所へきていた。

容疑を認め、反省の色を見せれば、少年ということもありまだ刑の軽減の余地もあるかもしれないのに、一之瀬 亮は、決して罪を認めなかった。


 「何度言われても、やってないものはやってません」


一之瀬 亮は、げっそりと痩せ、やつれていた。

肩を落とし、よれよれのシャツの首元からうきでる鎖骨が高校生とは思えないほど、衰えていた。

ただ、目だけは爛々としており、しっかりとした強いまなざしで狭山を見ていた。


 「僕は、やってません。あのとき後ろから殴られて、気絶していたんです。

 気づいたら病院でした。真犯人は、他にいます。これは冤罪です」


狭山は、そんな一之瀬を見て、深いため息をついた。

このやりとりを何度繰り返したか。


真犯人がいるとしても、手がかりすらない。

一家が殺害されるような何か原因に心当たりもないという。


この状況で、どうやって一之瀬を信じたらよいのか。

狭山としては、一之瀬を信じて、協力できることはしてやりたかったが、なんの情報もなく動けないでいた。


「なんでもいい。真犯人につながりそうな情報がないか?

 思い出してほしいんだ。

 事件当日のことでなくてもいい。

 なんでもいいんだ」


狭山は、何か一之瀬の口から出てこないか祈る気持ちで、語りかけた。


一之瀬の目から、涙がぽろぽろと流れ落ちる。



「わ・・・わかりません。

 なんで、こんなことになったのか・・・。

 一生懸命、僕も考えたんですが、事件につながる記憶がすっぽり抜け落ちてるようなそんな感じなんです。

 殴られたときのショックで、何か大事な記憶を失ったのかもしれません。

 父親と事件前に大ゲンカをしたことになっていますが、なんで喧嘩したのかの理由すらわからないんです」


一之瀬が、肩を震わせて、泣きじゃくる。


「辛い・・・。辛い・・・。

狭山さん・・・辛いです・・・。

家族を失って、犯人扱いされて・・・。何もしてないのに・・・

なんで、こんな目に僕だけ・・・・僕だけ・・・?」


うつむいていた一之瀬が顔をあげた。

その表情は、さっきまでとうってかわり、何か重要なことを思い出したようだった。


「・・・僕の家族が殺される一か月前に、親友の家族も全員死んでるんです。

 心中か殺人かわからなかったんですが、そのあと捜査はどうなったんでしょうか?

 同じ犯人かもしれません」


「親友とは? 西條一家の件かな?」


「そうです」


「あの事件は、一家心中だったそうだ。

 父親が、妻と次男を殺したんだ。長男だけは生き延びたようだけどね。

 だから、一之瀬家の事件とのつながりはない」



「和臣に会いたいです」


「ん?」


「生き残った長男の和臣に会いたいんです」


「それは、なんでだい?」



「同じ状況だから。家族を失った者同士。一番理解してくれると思うから。

 和臣だけは、俺が犯人じゃないって理解してくれると思うから」


「わかった。連絡をとってみよう」



 狭山は、西條 和臣に一之瀬 亮が会うことで、少しでも状況が変わればとおもった。

 

 面会室を後にした狭山は、さっそく西條家へと向かった。

 

 



 

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