第十一話 告白
西條 和臣は、息もできず、固まった。
まぎれもなく父親の声だった。
短いわずかな会話だったが、すべてがここに凝縮されていた。
父の一之瀬家に対する行為。許されざる仕打ち。
信じられないという気持ちをテープから流れてくる悪魔の声が打ち消していく。
本当に、あの優しかった父親なのか・・・。
誇り高い、威厳に満ちた憧れの父が、裏ではこんな所業をやっていたなんて。
自分の足元が、一気に崩れ去るような感覚を覚えた。
世界がグルグルと回りだす。
自分の信じたことはなんだったのか。
和臣は、イヤホンを外し、殴り捨てた。
「あああああぁぁあぁぁあっぁぁぁぁぁっぁぁぁーーーーーー!」
車の中で、首を激しく振り、声にならない叫びをあげた。
頭を激しく車の窓にぶつける。
狭山は、気が狂ったのかと驚き、和臣の肩と頭を抱いて、それをやめさせた。
和臣は、号泣した。
喚き散らしながら、ただひたすらに泣いた。
そんな和臣をしっかりと抱きとめて、歯をくいしばったが、狭山もまた涙をこらえることができなかった。
泣きはらした目で、和臣がぽつりとこぼした。
「一之瀬 亮に会わせてくだささい・・・。
彼には、僕から話します。
西條家の人間として、親友として・・・これから逃げるわけにはいきません」
「わかった」
狭山はぎゅっと目をつぶった。
一之瀬 亮の顔が浮かぶ。
この真実を知った彼はどうなってしまうのだろうか。
狭山は祈るようなポーズをして、大きな深いため息をついた。
◇◇
狭山と西條は、面会室の前にいた。
二人とも何も話さず、面会時間まで黙って座っている。
和臣の表情は、穏やかだった。
何もかもを悟ったようなそんな表情だった。
時間になり、和臣が席を立つ。
「行ってきます」と狭山に微笑んだ。
狭山は、立ち上がり、声をかけようとしたが、時すでに遅く、和臣は面会室へと消えていった。
閉まるドアの音が廊下に響く。
狭山は、どさっと椅子にまた座り、うなだれ、眉をひそめて唇をかみしめた。
「和臣!」
一之瀬 亮は、てっきり狭山がくるものと思っていた。
あの金庫の中身がなんだったのかを知りたくてしょうがなかった。
西條は、ニコっとほほ笑み、椅子に腰かける。
そして、おもむろに持っていたカバンの中から白い布で包まれた水筒のようなものを取り出した。
一之瀬は、不思議そうな顔でそれを見ている。
亮にだけ見えるように白い布を少しめくった。
それはまぎれもなく「人間の左手首」だった。
その瞬間、一之瀬は事件の真相を理解した。
「僕の記憶は、最初からあったんだ。意識を取り戻したすぐにね。
西條一家を殺害して、家に火をつけたのは、亮のお父さんだったんだ」
「・・・なんで・・・?なんで、うちの親父が・・・?」
「なんで、亮のお父さんが僕の家族を皆殺しにしようとしたか最初ははっきりしなかった。
借金が原因なのかなと僕は思ってた。
父がお金を貸さなくなったことに怒ったのかなって。
それで、逆上して逆恨みして、西條家を抹殺しようとしたのかなって」
「・・・・・・」
「でも、・・・・でも・・・真相は違ってたんだ・・・。
僕の父親が亮のお父さんを恨んでて、嫉妬してて
・・・亮の家族を・・・凌辱してたんだ・・・。
最初は、亮のお母さんが犠牲になって次にお父さん、
そして、佐奈ちゃんや亮までも父は手に入れるつもりだった。
亮のお父さんは、家族を守りたかっただけなんだよ。
僕の父さんから。
父は、悪魔だったんだ。狂人だったんだ。
僕はその息子で、亮の家族を殺して、悪魔になったんだ」
「・・・・・・」
「自分の罪を亮にかぶせて、生き延びるつもりだったんだよ。
最低なやつだよ。
なんにも知らずに、亮からすべてを奪ったんだ。
僕の愚かさが、無知が・・・亮のすべてを壊したんだ」
「・・・和臣。」
「ちゃんと自首するから。ごめん。本当にごめん。
謝ったって、何したって取り返しのつかないことをしてしまった。
ちゃんと償うから。
僕なりの方法で」
そういうと、泣きながら西條はくるりと背を向けて、面接室を出て行った。
一之瀬 亮は、立ち尽くしていた。
ずっとそのまま立ち尽くしていたのだった。
その後、西條 和臣は、一之瀬 孝雄の左手首を持参して、警察に自首し、自供した。
緊急逮捕となった。
一之瀬 亮を取り巻く環境は一変し、釈放された。
そして、西條 和臣は、彼なりの決着をつけた。
監視のすきをついて、西條 和臣は、首つって自殺した。




