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第十話  真実



 この世で、真実を知っているのは、今自分自身のみ。

この真実をどうしたらよいのか。

狭山は、途方に暮れていた。

車の中で、呆然としていた。


そこに、コツコツと窓をたたくものがいた。

窓に目をやると、そこには悪魔の子が立っていた。


西條 和臣である。

いつもの無表情ではなく、愛想笑いを浮かべていている。

それが、この上なく恐ろしかった。


狭山は、唇が震えながら、軽く会釈する。

西條が、その場から立ち去る気配はない。


この子は、何をどこまで知っているんだろうか・・・。


狭山は、知りえた真実の取り扱いがわからないまま、車のドアをあけていた。


「おひさしぶりです」


「や・・やあ、ひさしぶりだね。

 この前は、面会ありがとう」


「こちらこそ。なにか真犯人につながりそうなものは見つかりました?」


穏やかな表情で、息をするかのように嘘をつく西條に、背筋が凍った。

自分で、殺しておいて。

真犯人とは・・・。



自分は、真犯人探しはあきらめたとか言っておきながら、本当はとうの昔に復讐を果たしている・・・。

友人すらだまし、裏切り、悲しみの底へと突き落とす。

この少年は、何を考えているのだ?


狭山は、この瞬間ほど悩んだことは人生でなかった。

どうすればいいのか。


父親の悪魔のような所業をこの子は知ったうえで、復讐をしたのか?

もしくは、何も知らずにやってしまったのか?


もし、後者だとしたら、彼はどうなってしまう?

また、この真実を明かせば、父親が親友の一家を惨殺した真犯人であることを一之瀬亮も知ることとなる。

そして、親友が自分の家族を復讐のために殺した。

しかも、自分を犯人に仕立て上げようとした。

最も残酷な方法で、彼を貶めようとした。


真実は、真実だ。

でも、これを明かすということは、悲劇の連鎖を生むだけだ。

より深い悲しみの底へ、二人を突き落とすだけ。

狭山は自分自身がその役目を負うことひどく躊躇した。


しかし、抱え込んだまま一生を送る秘密にしては重すぎた。

狭山は、和臣に「ちょっと話があるから、車に乗ってくれ」と話しかけた。


和臣は、素直に聞き入れ、助手席に乗り込んできた。

さきほどまで聞いていたテープとイヤホンが助手席に転がっているのを、狭山は急いで回収した。

あの孝雄の苦痛に満ちた声と信臣の狂った高笑いが、頭の中で反響する。


あの狂った所業を・・・許されない残酷な仕打ちを・・・

この子が、知ってるとは思えない。


でも・・・、この子は自分が正義だと思い込んで、制裁を加えたと思っている。

罪を償うことなく、このまま生きていくのだ。


何も悪くない亮だけが、犯人扱いされ刑に服すのはやはり間違っている。


狭山は意を決して、真実を語ることにした。

それが、たとえどんな悲劇を起こすことになっても。



「和臣君・・・君が、一之瀬一家を殺害したんだね」


「なんのことですか?」


和臣がしらばっくれる。


「君の家族を殺害したのが、一之瀬 孝雄だったからだよね?」


「・・・・・・」


「君の記憶はしっかり戻ってる。ちゃんと犯人の顔も覚えていた。

 だから、退院したあとすぐに犯行におよんだ」


和臣は、沈黙して何も言わず前を向いている。


「でもね、なんで一之瀬 孝雄が西條一家殺害を企てたか君は知っているのかい?」


「お金を貸すのを父が断ったからじゃないんですか?」


「・・・君は、ほんとに何も知らないんだな。」


「?」


和臣が訝し気な表情で、狭山を見つめる。


狭山は、じっと和臣を見つめ返す。

これは、純粋に父親を尊敬し、敬愛している子供の心を打ち砕く行為である。

家族の尊厳のために、罪を背負うことを恐れず、戦った子供の覚悟を踏みにじる行為である。

わかっていて、傷つける。

狭山自身の手で、和臣を叩き壊す。


狭山は、震える手で、イヤホンを和臣の両耳につけた。

キュルキュルとテープの巻き戻る音がする。


最初まで巻き終わったとき、狭山は泣いていた。


そっと、再生ボタンを押した。






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