表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/31

ルトガーと皇太子の条件

ルトガーは長身に引き締まった体躯の薄い褐色の肌と、短く切り揃えられた榛色の髪を持ち、藍色の瞳は垂れ目で左目の下にある泣き黒子が色香を出している、美青年だ。

常に余裕綽々な表情で自信たっぷりに物を言い、度量が大きく冷静沈着、貴族平民分け隔てなく接し、戦場では(対盗賊など)味方の前に立ち鼓舞し、敵を凪ぎ払い畏怖させる。頭も良く口達者で大臣達も舌を巻く。


完璧過ぎる皇太子。

次代が期待される皇太子。

名君足り得る皇太子。


『だけど……あの暗君と同じ榛色の髪が、』


唯一。

その髪色だけで。

皇太子として、どうなのかという負の烙印を捺されている。


皇太子と呼ばれた時から、否、もう物心つく頃には「暗君と同じ榛色の……」と陰口を叩かれ、ルトガーはそれを払い除けようと必死に努力してきた。

勉強も剣術も人心掌握術も、皇太子に選ばれるように、後世名君と謳われるように努力してきた。

褒め称える裏で、何を言われようと嘲笑われようと歯を食いしばって努力してきた。

その甲斐あって十四で立太子してからは、陰口も減った。


けれども、その目が……『暗君と同じ榛色の』と語っている。



髪色で何が決まるというのか。

何故、榛色の髪というだけで『皇太子に相応しくない』という目でみられなくてはいけないのか。

誰よりも努力し、その実力を認められているというのに。

ただ、暗君と同じ榛色の髪、というだけで。

自分の力では、どうしようもない事で。


『榛色の髪』

――それがルトガーのコンプレックスだった。






一百五十年程昔、まだローヒメティが帝国ではなく王国と呼ばれた小さな小さな国だった頃。

『王家編纂史記』の中に『竜殺しの王』という名の王がいる。

兄王子達を弑逆して王位に就いた竜殺しの王は、病の床に臥せるとある公女を妻にと望むあまり政務を疎かにした。通称『茨姫』と呼ばれたその公女を十数年かけて口説き落とす間、王城は魑魅魍魎で溢れ結果国は多いに荒れた。

榛色の髪のその王は、後世において『暗君』と呼ばれた。

暗君(竜殺しの王)』の唯一の善行は『茨姫』との間に『名君』と名高い王子を設けたことだった。

その『名君』の髪色は夜空に瞬く天の川の様に美しい青銀色で、その色は帝国になった今にも続くローヒメティ帝家の証といわれている。


初代皇帝の正妃も祖父も父である現皇帝も青銀髪だった。

ルトガーは榛色だが、三つ子の妹達は皆、母似の金茶だった。

ルトガーだけが榛色の髪だった。

母妃の不貞という訳ではなく、先祖返りだといわれた。

榛色の髪、というだけで相応しくないと言われ。

青銀髪、というだけで素晴らしいとされる。

せめて、榛色の髪でさえ、なければ……。

それか、初代皇帝の様に燃える様な赤髪であれば……。



そんなコンプレックスを補ってくれる存在として、アンジェリカを欲した。

転生者とみられるアンジェリカを。


転生者の存在は、貴族も平民も誰も知らない重要機密であるが、記録されている。

そう、記録されている。

ルトガーは己の力で『名君』になる。

榛色の髪を持つ『名君』の妃は『転生者』。

重要機密で貴重な『転生者』を妻にした『名君』ルトガー。

誰にも語られなくても、その記録は残る。

それだけで良い。

その事実だけでルトガーの心は満たされる。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ