宰相の息子アルフォンソ・ヴェント
ヴェント侯爵の嫡男で宰相の息子のアルフォンソは、第二公子ベルナルド、その婚約者アンジェリカ、幼馴染みで騎士団長の息子フィリッポよりも二つ年上だ。
ベルナルドと違って王立学園では常に首位を走る成績優秀者。先輩同輩後輩全ての見本になるような優等生。将来を約束された高物件。人当たりの良い穏やかな物腰、洗練された佇まい、非の打ち所の無い微笑み。次の大公妃の弟。祖父、父と二代続く宰相家。
そう評価される将来有望な青年に群がる蝿は絶えない。
「穏やかな物腰……非の打ち所の無い微笑みって……嘘ばかりだ」
非難めいた声をあげたのはベルナルド。男子寮の私室のソファに腰掛け、密偵が調べた王立学園内での各々の調査表の一部を覗いている。公子としての学園内の仕事は将来に向けて有効な人脈を作る事だ。それはベルナルドもアルフォンソもその他の貴族の子弟も変わらない。
「大変的を得た良い調査結果ですねぇ」
薄く笑いながらアルフォンソは返す。片手に紅茶のカップ、もう片方に抱えきれない程の書類。事実腕から落ちて床に散らばってしまっている。それを拾い集めているのは密偵の少年だ。彼も一応学園に所属しており『密偵』は仕事であり研修でもあった。
「しかし、欲しているのはこんな当たり障りの事では無いんですよぉ。裏まで調べなさい。おべっかは必要ありません」
アルフォンソはベルナルドが手にしていた己の調査表を抜き取ると空に投げた。ベルナルドの「嘘」 発言を肯定して、アルフォンソ自身の裏の顔までも暴け、と言外に告げた。
ベルナルドや一部の人間しか知らない裏の顔。暴かれても構わない裏の顔。
誰も知らない心の奥底に沈んでいる本当の顔さえ無事であれば。
密偵少年は青ざめた顔で口を結ぶと棄てられたアルフォンソの調査表を細かく破き、天井部分に戻り部屋を出て行った。
「アル……天井って秘密の通路になっているのかなぁ?」
瞳を輝かせてアホな事を言っているアホな子に、アルフォンソは冷たい一瞥をくれて遣った。
アルフォンソは第二公子ベルナルドの取り巻きである。
が、好きで彼の取り巻きをしている訳では無い。
ただ単に年が近いからである。
第一公子とは五つも年が離れている為、大人になってからならいざ知らず子供時代では友人役にも選ばれなかった。
とは、いってもアルフォンソの姉が第一公子の婚約者に決まっていたので、ヴェント侯爵家としては何の問題もなかったが。
アルフォンソ個人としては第一公子の友人役になれなかったのは痛かった。
ベルナルドが嫌な奴だからとかではない。ベルナルドは成績優秀だが素直で扱いやすく良い奴である。偶にアホさ加減にイラっとくることもあるが、扱いやすさが補ってくれている。
扱いやすい主というのは大変魅力的ではあるが『第二公子の取り巻き』では駄目なのだ。
何故ならベルナルドは決して『大公(王)』にならないからである。
アルフォンソ は響きで選びました。
後日、名前の意味を調べたら 有能な王 でした。
アルフォンソ編は続きます。
ブックマーク200!越え!!
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