皇太子御一行、山の上の国に着く
長い長い、長い崖登りを終えて。
北の帝国の皇太子ルトガー、海の国の公女公子一行は二週間程かけてやっと山の上の国へ到着した。
問題は予定より遅く到着した事ではなく、ひたすら登山という苦行である。
こんな崖の道を提案したルトガーを、賛成した公女クラリーチェを恨みたい。
ただし、ルトガーは後悔していない。大変ではあったが、滅多に出来ない体験を楽しんでいた。
東の町は町というのに古代のテオゴニアーの系統を汲む神殿と公爵邸の二つしか建物がなかった。ルトガーは神殿に興味があったが、馬車で迎えに来た公爵令息ベリル・マルシェという少年に止められてしまい残念に思った。母国にもテオゴニアーの神殿があるので、違いがあるのか同じなのか気になったのだ。
奇しくも、その日の夜の食事会で神殿や宗教の話題が出るのだが、まあそれは後程。
兎も角、夕方間近に崖の上に到着した一行は王都ではなく、東の公爵邸に一泊する事となった。
公爵家の食堂のテーブルに着いたのは公爵一家と、この二週間ばかり一行を率いた騎士団団長アンブロワーズ・ノーランド。皇太子ルトガーに双子の公女クラリーチェ、公子エルネスト、それから海の国の侯爵令息アルフォンソ・ヴェントの計十五人。
公爵家の給士達が慌ただしく動き回り、客人である四人の背後には従者が控えていた。その内の一人、アルフォンソの背後に居るのは海の国の騎士団長の息子フィリッポ。正式な護衛でも従者でもないのだが、子供しか行けない所へ行かなくてはならなくなった場合の護衛として、アルフォンソが連れて来たのだ。
最初は首を横に振っていた彼だが「滅多に出来ない体験が出来る」というルトガーの言と、「様々な経験を積んでより高みを目指すべきだ」というアルフォンソの説得に応じて、今回の旅に参加する事となった。
ちなみに、アルフォンソは氷の帝国に行ったことがあるが、フィリッポと公女公子の三人は他国に行くのは初めての経験だった。
食事をしながら挨拶を交わし、お待ちかね『神殿』の話となった。
やはり、あの神殿はテオゴニアーの女神デメテルを祀る神殿のようだ。ただ面白い事に氷の帝国の北東の一部で伝わるスカンジナビア神話の神トールも一緒に祀っているそうだ。
どちらも『豊穣』を司る神で山の上の国では、それが一番重要なのだと知れる。
しかし、何故違う神話の神々を同じ場所で(細かく言えばトール神には関係無いテオゴニアーの神殿で)祀っているのかと問えば。答えたのは次期神官長だという公爵令息ベリルだった。
「二百五十年程前に山崩れがありまして、トール神を祀っている社が壊れてしまったのです。そこで人々は女神デメテルを祀る神殿を――」
「寄こせ、と言ったか」
ルトガーがベリルの言葉を引き継げば、彼は苦笑して肯定した。
「そんな事言われても女神も困ってしまいますわよねぇ。それでどうなりましたの?」
公女クラリーチェが困った様に言って、ベリルに先を促した。
今一番困っているのは、実は彼女なのだ。
ベリルの幼い弟妹達が、デザートを食べるクラリーチェをじぃっと見ているからだ。一向に目を離してくれる様子はなく、かといってデザートを食べたいクラリーチェは弟公子エルネストに助けを求め、自らは気付いていない風を装おってベリルの話に耳を傾けるのだった。
拙作『筋肉嫌いなのに~』の「東の町で神さまの話」のルトガー視点になります。
実はフィリッポを忘れていて……慌てて登場させましたf(^^;




