男装令嬢と皇太子と友情と
マリアーノ視点です。
オレは意を決して言ったのだ。
実は、オレは『転生者』なのだ、と。
嘘です、すんません。
めっちゃ、かるーい感じで言いました。
だって、ルトガーの野郎……驚かねーんだもん。
渾身の一撃だっつーのにっ!!
オレの方が驚いちゃったよ。
ルトガーの先祖に『転生者』がいるって言われて。
マジで?マジか。
だからアンジェリカが転生者だと気付いたのか。
「オレとアンの前世は多分、同郷だと思うんだよねー。彼女がやってる事、殆ど解るし」
「そうか、同郷か。俺には前世の記憶は無いから考えが及ばなかった……同郷だったり、違ったりするんだな」
「時代も違うかもねー。人間じゃ無いかもしんねーし、猫とか。性別も今と違うかも」
「……お前は前世、男だな」
ルト ガーが言う。藍色の垂れ目が細まってオレを射抜く様に見ている。
「見りゃ分かるっしょっ」
オレはテラスの柵から離れて両腕を広げてみせた。オレは女にしては身長もあるし、栄養が足りなかったのか胸は小さいし、凛々しく見えるよう化粧してるし。何より、ずーっと男の格好をしている。
先日、実は女なんだよーって宣言した後も、一度もドレスとか着たことは無い。アンジェリカにお願いされたりしたけど(上目使いがめっちゃ可愛いかったけど)、そこは頑として断った。
「そうだな、お前は間違いなく男だよ」
ルトガーは笑ったが、それは嫌味な笑みではなかったので。
オレも釣られてしまった。
ルトガーの野郎に男だと認められるのは、正直嬉しい。
俺様ルトガーだからな。
前世妹の押しキャラだからな。
嬉しくてニヤニヤしちまう。
だが、理由は聞くまい……変な理由だったら、がっくし来るからな。
良い気分で暫く過ごすんだっ!
「こんな身近に転生者が二人も居るとは思わなかった」
同感!とオレは大きく頷く。
アンジェリカの他に転生者の子孫に会うとは、世間は狭いなー。
「他にも居るかなー」
って、言ったら……。
うん?
なんか今……あいつの目、きらーんって光った?
「可能性はあるな。しかし……」
「居ても、見つけんのは大変だと思うぜー?アンが特殊なだけで、普通は前世の記憶を持ち出して何かやるのは、怖い」
言いながら、オレの声は段々低くなっていったと思う。幼い頃感じた恐怖を思い出して……くそっ。良い気分はあっという間に沈んじまった。
過ぎる力は時として負を呼び込んでしまう。
アンジェリカが少し心配になる。あいつ、チートし過ぎ。
利用されたり、嫉妬されたり、羨まれたり、恨まれたり、憎まれたり……。
「どうした。大丈夫か?」
「あ、ああ、大丈夫。何でもない……ただ、転生者は容易には見つからないと思って、さ」
「そうだな。お前がヒントを与える様に変に喋ってなかったら俺も分からなかっただろうな」
ルトガーが探る様に見てきて、ちょい落ち付かん。
「大抵の転生者がお前の様に前世の記憶を隠して生きているのなら、探し出せないか」
「まあ、オレも殿下が『転生者の女なんか他にいねーよ』って言ってなかったら、バラしたりしなかったし。何でアンが転生者って知ってるのか気になったし。もしかして殿下も転生者かと思って」
「マリアーノ」
「!?」
お、初めて名前呼ばれた。
ん?なんか心なしか不機嫌?
何故だ。
「一つ言っておく。先ず『いねーよ』とは言っていない。いねーよとは、な。アンジェリカが転生者かどうかは機密の関係で予想を立てただけで、お前に言われるまで確信は持ってなかった。それからさっきも言ったが、俺自身は転生者でも何でも無い」
一気に捲し立てる皇太子さま。でも、せかせかしてる感じは無い。流石、皇太子さま。
でも、ツッコまねばっ!
「殿下っ!一つじゃなくて三つ言ってる!!」
おおっ!めちゃくちゃ、睨まれちったよ、ギロリって。
「それだ。マリアーノ」
「え?何?それって」
何だ?何だ?何がそれなんだ?
意味分かんねー。日本語で言ってくれ!
「お前は今夜ずっと無礼な物言いをしてきた」
「うっ、すんません、殿下」
何だよ、今さら。
一応、謝ったけど心中穏やかでは無いぞ!
「だから、それだっ!」
「だからっ何がっ!?」
言わなきゃ分からんよ?
そんなに眉間に皺を寄せて睨んでも、オレには分からんぞ。
つーか、ちょい、イラっとしたので理解する努力を放棄!
「……殿下、ではなく、ルトガー、で良い」
ん?
んん?
んんんんん!?
ぶっ!!
ぎゃーっはっはっはっはぁっー!!!
「笑うな!」
「ひいっーぶふぁっ!うはっすっんませんっっ!!」
ひー!止めてくれーっ!
オレの腹がよじ切れるかと思ったじゃねーかっ!!
何、不機嫌になってんのかと思ったら、拗ねてるだけかよ。
オレが笑い続けるからルトガーの眉間の皺はどんどん深くなっていく。いや、止めようとしてんだけどね。止めようと思えば思う程止まらないんだよ、これが。
「ごめんごめん、マジごめん。友達になるから許してよ、ルトガー」
右手を差し出せば、ルトガーは「仕方ないな」と偉そうに上から目線で笑った。
「どうしてもと言うのなら、友達に、なってやらんでも良いが」
いやいや、友達になりたいのルトガーの方だよね。
まあ、前世と現世の通算がめっちゃ年上のオレが大人になってあげよう。
「どうしても!頼んますっ!!」
オレ、見事なお辞儀しました!九十度!直角の!
ついでに両手も合わせて拝んじゃお!!
って。沈黙長いっ!何か言って!!
ちらりと目線だけ上げたら、ルトガーは笑ってた。
藍色の垂れ目がこれでもかってぐらい下がっていて、唇は嬉しげに結ばれていて、頬は少し赤い。
思わず、うっとりするほどの艶やかな微笑で。
オレが女の子なら、惚れちゃうような……いや、オレ、女の子ですけどね。
まあ、それくらいの良い笑顔でしたっ。
素直じゃねーなー。
オレも嬉しくてニマニマしてたから、どっちもどっちだけどっ。
初めての男友達が出来ましたっ!!
つーか、秘密を打ち明けた合ったオレらって。
友達通り越して、親友じゃねっ?
あれ?
なんか友達になってしまった。
マリアーノに喋らすと終わらないよー。




