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義理の弟、ヴィットリオ・メーダ

アンジェリカの父のメーダ侯爵は初恋の君の忘れ形見であるヴィットリオを妻の反対を押し切って引き取った。 ヴィットリオはアンジェリカの一歳年下で養子とはいえ嫡男として扱われることとなった。

一人娘だったアンジェリカは婿をとる予定だったがその必要はなくなり、その後第二公子ベルナルドと婚約を結ぶ運びとなった。

メーダ侯爵夫人はアンジェリカが大公家に嫁ぐ事は大変喜んだが、それとこれとは話が別でヴィットリオを邪険に扱っていた。躾と称して鞭を与え罰として飯を抜いた。これらの事は夫の前で行われる事は無かったのでメーダ侯爵は気付かなかった。妻は反対していたのだから邪険に扱うぐらいは仕方ない、可愛い物だと諦めていた。


義理の姉となったアンジェリカはヴィットリオを助けなかった。


乙女ゲーム転生をしていた悪役令嬢アンジェリカはヴィットリオを母の魔の手から救い出したかった。メーダ侯爵家の没落はヴィットリオの復讐でもあったからだ。

だが、彼を庇った時、母は鬼の形相でアンジェリカを睨んだ。敵の子供を殺す様な金切り声でアンジェリカを裏切り者と罵った。愛憎と悲しみの入り交じった目で終には泣き出し、見た目は子供中身は大人のアンジェリカを大変狼狽させた。

没落や処刑以上に母を恐ろしく思い、また母に裏切り者と言わせてしまった己を恥じたアンジェリカはヴィットリオを救う事を諦めた。




ヴィットリオは義母の苛めを受け続けた。

義父の我関せずの姿勢に失望した。

義姉の無視に全てを諦めた。


アンジェリカの一年遅れで王立の学校へ入学し、メーダ侯爵家から解放されたヴィットリオは自由を満喫していた。親しい友達も出来た。義姉の婚約者ベルナルドと仲良くなってしまった事は予定外だったが、彼のアンジェリカに対する劣等感を知り、前以上に親近感を持った。

ヴィットリオはアンジェリカに劣等感など持ち併せてなかったが、助けてくれなかったという憎悪、負の感情が似てると思ったのだ。


ヴィットリオがメーダ侯爵家で唯一慕っていたメイドが居た。

年かさのいった太った女だった。五人の子供を育て上げた肝っ玉の据わった女だった。

ヴィットリオにご飯を差し入れ、鞭打ちで傷だらけになった細い体を拭ってくれた。

自分にも子供がいるから、とそのメイドは言った。だから助けたいんだ、と。

勿論、誰にも秘密だ。もし義母の知る所となったらヴィットリオはいつも通り躾と罰だろうが、メイドは解雇されてしまうだろう。上の子供が結婚して孫が産まれたばかりで手は掛かるし金も掛かるとメイドは言っていたので解雇は不味い。だから、ヴィットリオは細心の注意を払い、秘密を守った。

仮面を被り、笑顔を振り撒き、出来の良い嫡男を演じた。



そのメイドがメーダ侯爵家を退職して、王立学園で二年程過ごしたヴィットリオを訪ねて来た。

男子寮の応接室で歓迎したヴィットリオだったが、彼女の用件は彼を瞠目結舌させた。





食事の差し入れも傷の手当ても、内緒でされる僅かばかりの心の通った会話も、全て。

義姉、アンジェリカに言われてした事だと。

この話はヴィットリオ本人には秘密と、アンジェリカと約束していたメイドだったが、退職したから関係ないさねと豪快に笑って帰って行った。

二人でちゃんと話し合って仲直りしたらいいさ、姉弟(きょうだい)なんだから、とも言った。

一人残された応接室でヴィットリオは泣いた。

義姉とメイドの優しさに触れて。

何もしてくれないからと、一歳しか離れていない義姉を憎んでいた己を恥じて。

己が義母の躾と罰を受けるしかなかった子供だったように、義姉も母を止める事が出来なかった子供だったのだ。

義姉は一度だけ助けようとしてくれていたのに……。

憎しみだけが積もって、すっかり忘れていた。

義姉が、唯一アンジェリカだけが助けてくれた。






今、この王立学園でヴィットリオを苛める人はいない。

助けてくれる人を必要ともしていない。

ヴィットリオもアンジェリカも今この時だけは、誰にも束縛されず誰にも虐げられず、自由なのだ。

だが、もしも。

アンジェリカを害する者が現れたら……。








ヴィットリオはイタリア語で 勝利者


きっと彼は義理の母の邪魔を退けメーダ侯爵家を継ぐのでしょう。

その時、彼は義母に勝利したと思うかもしれませんが、アンジェリカがヴィットリオを庇った時点で彼は勝利者だったのだと思います。


イタリア語の アンジェリアとアンジェリーナ の意味が天使だったので、

アンジェリカも天使なのかな?

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