皇太子と男装令嬢も失恋
ルトガー視点ですよ。
「失恋したのか、お前。誰に」
興味は無い。興味は全く無いがマリアーノに探りを入れる為に聞いてみた。
相手はアンジェリカかそれ以外の女か。男装しているから体は女な訳だから、男か。
いや、女だな……男装令嬢マリアーノの周りには女しか居ない。
「勿論、殿下と同じ……アンジェリカにだよ」
失恋したと言うのに、ニコニコと笑っていて薄ら寒い。
「いやぁ、ソッコー振られちゃって。女はダメなんだって、さ~」
残念~と口を尖らせながら、ちっとも残念そうな表情をしていない。ルトガーは変わらず冷たい視線を向けている。
「でも……諦めるつもりは無い訳で」
笑むのを止めて、マリアーノは初めてルトガーを真っ直ぐに見てきた。
「殿下もでしょ?」
頷き掛けてふと止まる。何故か止まってしまい、ルトガーは逡巡した。
マリアーノが再び嗤う。
「おお~!ライバル減ったぜ」
「お前っ!!」
マリアーノが口角を歪めたまま首を傾げる。紺碧の瞳が爛々と光っている。
「お前、は……何なんだ、何が、したいのか……」
言いながら段々と語尾が萎んでいき、眉間に刻まれた皺がより深くなっていく。
ルトガーは睨んでいた目をマリアーノから反らした。
「意味が、分からん」
「真面目か!」
マリアーノが右手をパシッと鋭く振ったが、ルトガーが無反応だったので。舌打ちした後、咳払いをした。
「んっんっ、んー。あの、さ、殿下?オレの行動なんか特に意味はないよ。悪いね、揶揄ってただけなんだわ」
ルトガーの烈火の如く燃える藍色の瞳にマリアーノは笑いながら肩を竦めた。
「おお~!復活復活!やっぱお偉いさんはふん反り返っててもらわなくちゃね」
「お前っ!!前々から苦々しい奴だと思っていたが、喋ってみたらそれ以上に嫌な奴だっ!!!」
「あっはは。お褒めに預かり――」
「褒めてないっ!」
マリアーノは器用な事に口角は上げ眉は下げ困った様な表情で、それでも目で笑っていた。
本当に、堪に障る女……男だ。ルトガーは真っ直ぐにマリアーノを睨み続ける。目を反らした方が敗けだ、そんな気がする。
ふっーと長い息を吐いて、顔ごと海へ向けたのはマリアーノだった。
「さてさて。腹の探り合いは止めましょうや」
ルトガーはドキッとしたし、ギクッともした。
上手い事出来てなかったがマリアーノの腹の内を探ろうとしていたのは事実だ。
こう冷静になってくると軽い違和感を覚える。
マリアーノの喋り方に。
砕けているのは、まあ取り敢えずよい。
砕け過ぎではあるが下町育ちならばそれも仕方ない。
こちらが素なのかも知れないし。
ルトガーを揶揄っていると言う割には、知らない言葉を使う。
海の国だけで使われる言葉かと思ったが……そうでは無い様だ。
マリアーノはここに来て、今夜初の貴族の令嬢(令息?)らしい流暢な喋り方をした。
「お聞かせ願えませんか。何故……アンが転生者だとお思いになられたのか」
その夜の海を映した様な紺碧な瞳は一寸足りとも笑っておらず、ルトガーを心をざわざわと揺り動かしたのだった。
ルトガーは只今『筋肉嫌いなのに~』に出張中ですよ。
サブタイトル変更しました。2016.2.16