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皇太子と男装令嬢

皇太子ルトガー視点です。


皇太子ルトガーは中庭を抜けて海を一望出来るテラスへと歩いた。といっても夜なので何も見えず寄せては返す波の音だけがしていた。冷たい海風が潮の匂いを運んで来る。

葉をガサガサと揺らす音がしてルトガーは誰何した。動物では無い人の気配だ。


「いやぁ、悪いね。邪魔するつもりはなかったんだけど」


と頭を掻きながら茂みから出て来たのはマリアーノ・ソレンギだった。

相変わらずの服装――白く長いズボン(トラウザーズ)を穿き深い青色の上着(フロック・コート)を着た彼、否彼女は男装した男爵令嬢だ。

青みがかった黒い髪は短く整えられていて、これでは女だと言っても誰も信じてくれないだろう。長い髪は女の命らしく、短い髪は恥だと貴族の女性は言うのだから。

女ながらに長身ですらりとしており、秀麗な顔立ちの白い肌に紅を刺している唇が映えている。整えられた凛々しい眉は男性的で、女にしては低い(男にしては高い)声は、言われなければ男だと思ってしまうだろう。

紺碧色の大きな瞳は何故か笑みを湛えていてルトガーを不愉快にさせた。


思えば、マリアーノがあの婚約破棄騒動で自らを女だと申告する前から彼女(いや彼?)の事を苦手に思っていた。

喋った事も碌に無いのに。

気に障るのは……マリアーノの瞳のせいだ。

極々たまに目が合うと、男にしては大きな瞳が(女なのだから大きくても良いのだが)愉快そうに細められ、まるで何もかも見透かされているようで……。

今もそうだ。

何故、そんな目でルトガーを見るのだろうか。


「邪魔していると思うならとっとと去れ」


マリアーノが女だとしても男装した彼女はとてもそう見えないのでつい男として扱ってしまう。一応、恋敵でもある訳だし。

マリアーノは去るどころか近付いて来る。

テラスの柵に正面から寄り掛かっていたルトガーは抗議する様に振り返って睨んだが、マリアーノは気にする様子も無い。

それどころか嗤っている。そう、笑っているではなく、にやにやと嗤っているのだ。

一人分空けてマリアーノも柵に寄り掛かった。体はルトガーへ顔は海へ向けて。


「良い夜だね」


マリアーノは皇太子相手に砕けた口調で話し掛けてくる。咎める人間は居ないし(従者と護衛は少し離れて待機しているが) 、ルトガーも畏まった口調をされるのは好きでは無かったので敢えて咎めなかった。

それよりも、一人にして欲しいと思う。


「誰かと話す気分じゃないんだ」


だから去れと、中庭の向こう――広間へ向けて視線を遣る。

そして月明かりも無い為に暗い闇のような海へと視線をもどす。

地上の灯りのせいで星は微かに瞬いているようにしか見えない。崖下から吹き上がった潮風は冷たく、ルトガーは思わず自分の体を外套事掻き抱いた。


何処が良い夜だと、今だ去らないマリアーノを横目で見遣り、目が合い舌打ちした。

あはは、と彼女は笑って顔もルトガーへ向ける。


「まあまあ、怒らないで。失恋者同士仲良くしようじゃないか」


ルトガーは喫驚して顔も目も彼女へ向けると凝視してしまった。

喫驚してしまった点は二点。

先程のアンジェリカとの遣り取りを見られていたという点。

マリアーノもアンジェリカに失恋(ルトガーとしては同意したくないが、端から見れば失恋にしか見えない)していた、という点だ。まあ、マリアーノが失恋しようがしまいが正直どうでもいい。

問題は……一体何処から何処まで見られていたか、という事だ。


『転生云々』を聞かれてしまったのか、という事だ。




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