山の上の国からの使者
ルトガーを軸にしております。
海の国の白亜の城の謁見の間には三カ国の人間が集まって居た。
海の国の大公一家と大臣、留学中の北の帝国皇太子ルトガー。
そして、ルトガーらを迎えに来たという……山の上の国の騎士が三人である。
先程ルドトガーに会釈した男は山の上の国の騎士団団長アンブロワーズ・ノーランドと名乗った。
淡い紫の髪は銀が混ざったような色合いで、後ろで一つに結わえている。紫の瞳は涼しげで、まるでルトガーを量るかの様に見詰めている。両隣に控える大男と筋肉質な茶髪の男とは、比べるまでも無い程細く華奢だ。おまけに肌も雪の様に白くドレスでも身に纏えば、美女と言っても差し支えないかもしれない。
貼り付けたような笑顔であるがそれがまた良い。女であれば妃の一人に迎えたいくらいだ。
だが、声は如何にも男でルトガーは内心がっかりした。
山の上の国と海の国とを直接繋ぐ街道は一つしか無く、その道は出来れば通るのを遠慮したい程の厳しい崖道だった。
安全面を考えるのであれば南下して氷の帝国内に入り、ぐるっと回って南から山を登る方が確実である。しかしその場合二回、関を越えるので余計に通行料がかかる。氷の帝国との関なのでその通行料も高い。おまけに一、二ヶ月を要するのだ。
例の崖道は雪さえ無ければ、行って行けない事は無い。注意を払って慎重に歩み進めれば、まあなんとか行ける。危険だし危険だし危険だし崖だし馬も使えないけど、まあなんとか行ける……滅茶苦茶疲れるけど。
そして一行には皇太子と十三、四の双子公子公女がいるのだ。金と時間が掛かっても氷の帝国を通った方が確実である。海の国も北の帝国の上層部も安全な道を行く予定であった。
皇太子ルトガーが余計な事を言わなければ。
双子のお子ちゃま達がそれに乗っからなければ。
曰く。
「いやいや、その道はミュスクルからリョートに行く時、使うから違う道で行きたい」
「馬車に一ヶ月以上も揺られるなんて御免だ」
「折角だからその険しい崖道を登ってみたいな」
「楽しそうですわ。ねぇエルネスト!」
「え?ええ……そうですね。クラリーチェ姉さま」
堂々と我儘を宣う皇太子。目をキラキラと輝かせる公女。若干青ざめてる末公子。
真っ青になって慌てたり悩んだり困ったりしている大臣達と皇太子の従者。
斯くして反対意見は踏み潰された。
そして、危険な崖道を行く事になってしまった海の国は、その道のプロとして山の上の国の騎士達の派遣を要請したのである。
尤も。
彼らがその崖道を通行する事はは数える程であり、プロとは決して呼べないのだが。
海の国の双子の公女クラリーチェ イタリア語で意味は 透明な、澄んだ です。
双子の末公子エルネスト 真面目な です。
氷の帝国の リョート は略称で
正式には ヴィリーキイ リョート シムリャー ロシア語で意味は 偉大なる 氷の 大地 です。
ミュスクル は フランス語で意味は 筋肉 です。
アンブロワーズ もフランス語で意味は 不滅 です。