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繰り返される虚像のワルツ

 僕は耳を塞ぐ。聞きたくなんかない。それが現実であったとしても、認めてしまえば僕は僕でなくなってしまうから。


『これは恋じゃない錯覚だ』


 頭の中に響き、残るフレーズ。いつまでもいつまでも、僕の頭の中に漂って消えない。

 ――早くなくなってくれ。

 切実な僕の願いは、叶うことはないのかもしれない。


 それでも、僕は――。



 合わせ鏡の背中合わせみたいだ。現実の僕は虚像の僕を見つめるけれど、虚像の僕は虚像の僕と見つめ合う。虚像の僕と虚像の僕は、結局触れ合うことのできない別の僕なんだろうけど。



 耳を塞いでいた手をどけて、閉じていた目を開ける。そこは僕の見知らぬ世界。ある僕の虚像が存在した世界。

 繰り返される鏡の世界が歪んだ瞬間、ついに僕は入れ替わりを果たした。


 これで全てを切り捨てられる。


 恋だの愛だのは全てまやかしなのだ。

 僕は踏み出す。僕を知らない世界へ。僕がまだ知らない世界へ。


 踏み出した先、そこはもう何もなかった。鏡で映された世界は、映されただけの部分しか持ち得なかったから。


 耳の中をこだまする。


《ねえ、僕を受け入れて。僕を僕たらしめる僕よ》


 僕は再び耳を塞ぎ、目を閉じる。

 合わせ鏡の中の僕が、また一人消える。


《了》

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