第2話 恋とはどんなものかしら。……こんなものでした。
コレを俗に、一目惚れというのだろうか?
幼等科から初等科に上がるとクラスが増え、そのためクラス編成が行われる。持ち上がり組みは大半が同じクラスであるが、それでも多少はバラけるのだ。
そのクラス編成の発表がされた大ホールで、私は正に運命の出会いを果たした。
その衝撃と言ったら一言では到底言い表せない。
前世では一目惚れのことを、電気が走ったとか、ビビビときたとか言われていたけれど、そんな生易しいものじゃない。鈍器でガンガンと何度も頭を殴打された挙げ句にジャイアントスイング、とどめにジャーマンスープレックスでフォール負け、みたいな。
……うん、自分でも何を言っているのかよく分からないや。
前の人生では、恋人が居たことはあるにはあったが、正直あれはノーカウントだろう。殆ど友人の延長で、お互いに恋人が居なくて寂しくて取りあえず名前だけでも恋人が欲しかったのだ、2人とも。ゆえに、一目惚れどころか恋すらまともにしたことがなかったのだが、コレが一目惚れなんだろうか?
……でも何か違う気がする。
「ピコちゃん、どうしたの?」
「え、あ、ううん、何でもないよ。ただちょっと口から魂が抜けかけただけ」
「それ死にかけてるよ!?」
目をかっぴらいて口も半開きのまま固まって動かなくなった私を訝しんだ友人が、声をかけてきた。
比較的仲の良い彼女は恐らく同類なんだろう。会話のテンポが良いし、魂がどんなものかをキチンと理解している。
魂云々なんて、6歳のお子様が分かるはずがない。
「全部出てなかったから大丈夫! ちゃんと飲み込んだよ!」
「そういう問題じゃないよ!?」
「あははは~っ」
「……本当に大丈夫? 顔真っ赤だよ」
なんとか誤魔化した、と思ったのだが全く誤魔化されてくれなかった。
私の視線が一点に集中していることに気づいた友人が「新しい担任の先生がどうかしたの?」聞いてくるが、その先生に一目惚れしかもしれないなんて、言えるわけがない。
女の子は恋バナが好きな生き物だ。この年代ならまだ色気より食い気な子もいるけれど、マセた子なら確実に恋バナに食いつくだろう。それが転生してた同類であれば、ネタにされる可能性が高いではないか!
そもそも、新しい担任であるヘイムダール先生の外見は、全く私の好みではないのだ!
先生は甘い顔立ちのかわいい系だが、私は甘いよりクール、かわいいより格好イイが好きなのだ!
それなのに一目惚れとか……私がそんなこと認められる訳がない!
気のせい、さっきの衝撃も、この胸の高鳴りも、顔が熱いのだって、全て気のせいなんだ!
ふるふると頭を振って気持ちを落ち着ける。再び顔を上げると、何故かシャナが先生の顔に張り付いていた。
「シャナの知り合いなのかな?」
「そうみたい。先生もシャナの扱いに遠慮がないし」
顔に張り付いていたシャナを遠慮なく引き剥がす位には気心のしれた仲なのだろう。
……なんだろう。なんか、胸がもやもやする。
シャナの奇行には慣れているはずなのに、なんだか目がシャナと先生から離せなかった。
そうこうしている内にシャナは何故か先生とこの国の第二王子を両手に繋いでいた。他の子たちも同じ様に男女交互に手をつないで、これを拒否れる空気ではない。
なので、私も空気に溶け込む為に男の子と手をつなぐのだった。
私は突然思い出したように先生の顔を手で挟み、そのお肌をじっくりと間近で観察します。
「ピ、ピコ? 顔が近い……」
「大丈夫です! まだお肌はぴちぴちです! よかったー、シャナの影響で疲れたような渋みのあるお肌になってなくって!」
「……そういえば、昔シャナにそんなようなことを言われたような…?」
突然思い出しのたで、確認して見たくなったのです。