第1話 死ぬと言うことは、次の生が始まるということ。……だったらしい。
――6歳の時、私はそのヒトに恋をした。
――たぶん。
私には、前世の記憶がある。
前の私は極々普通のOLで、特筆すべきことはなにもなかった。どこにでもいるOL――というか社畜で、朝から晩まで働いて、家には寝に帰るだけ。休日は外に出ることもなくひたすら趣味に打ち込んでいたので、気づけば友人共々女を捨てていた。
そんな前の私は、信号無視の暴走車に跳ねられて死亡したようだ。恐らく即死なのだろう、車が突っ込んできた記憶しかない。友人の通夜の帰りのことだった。
一応、好意的な解釈をするならば喪服で全身黒ずくめ、人通りの少ない夜道で視界も悪かった……が、それでも信号無視はやはり過失は向こうにしかないな。危険運転致死傷罪で裁かれろ、何処の誰かは知らないけど。
さて、そんなわけで元日本人の私は今、パルティアという国の貴族令嬢をしている。家系は相当古いが国や他の貴族に対する影響は殆どない、居ても困らないが居なくても困らないという、実に微妙な家だった。因みに、爵位は伯だった。
始めはヨーロッパの何処かの国だと信じていたが、地球にそんな名前の国はない。始めて国名を知ったときは空間を司る伝説のポケ○ン!? と思ったが、あっちはティアではなくキアだった。
デザイン的には空間よりも時間の方が好みだったのだが、たまたま目の前にあったのが金剛石ではなく真珠の方だったので出てきたのは空間の方だったのだ。空間の神と言えば格好いいが、デザインは……うん、今思い出しても微妙な気がする。
……閑話休題。
そもそも、地球に魔法はない。
そう、魔法である。何を隠そう、私はファンタジーマニアだ。ファンタジー、幻想、あぁ、なんて素晴らしい響き! オマケになんと、我が家は貴族としてはとても微妙だけど魔法を使うのはとても得意な一族らしい。城に仕える優秀な魔道士を何人も輩出していて、父も貴族としてはあれだけど魔道士としてはピカ一な腕前なんだとか。
一族全員、人間にしてはとても魔力が高く扱いにも長けている為、遠い先祖にエルフでもいるのではないかとも言われているらしい。それを知った時の私と言えば、いるかどうかも定かではない神様に本気で感謝した。
エルフと言えばファンタジーの中でも憧れの存在! エルフがこの世界に本当にいるかどうかは分からないけれど、憧れる分には関係ないし、何より夢があるではないか!
エルフといわれて思い浮かぶのは魔法が得意、そして美形! 確かに我が家は両親も兄達も美形だ。私もはっきり美少女と言えよう。が、家の使用人たちも基本みんな美形である。なんというか、この世界の人が全体的に顔面偏差値が高いのである。そんな中でも群を抜いての美形であればいいのだが、残念ながら私は極上ではない。身近な人しか知らないから何とも言えないが、私よりも可愛い子はきっと山ほどいる。
しかし、魔法を使うにはもっと精神も肉体も成長してからと言われてこれまで一度も使ったことはない。
ぶーぶーと文句を言ってみても、魔力を暴走させた時の危険性を語られてしまえば黙るしかない。途中、絶対これ子供向けの説明じゃないよとうちゃん、とか思いもしたがそれはまぁ、気にしないでおく。
そんなわけで、成長してから魔法を使うんだぜー、イエー!!
なんてノリで成長して4歳の時、クリセニア学園幼等科に幼馴染と共に入園した。
そこで、私と同じ元日本人と思える子たちが沢山いることに気が付いた。はっきり言って一人や二人ではない。密かに幼馴染も元日本人なんだろうなー、とは思っていたのだが意外と異世界転生って普通なんだね! と思い鬼ごっこやらかくれんぼやら缶けりやらと懐かしい遊びで体力を身に着けながら6歳で初等科に上がったその日。私は、そのヒトに恋をしたのだ。
……多分。
「多分?」
「多分、です。」
「多分なんだ?」
「た、多分なのです!」
だって、一目惚れだなんて認めたくなかったんだもん。