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IT時代のダイニングメッセージ

作者: けいご

※この物語はフィクションです。


死に場所を探していた。どこでもよいというわけではなかった。

無論、死にかたにも注文がつく。



幸い俺は早熟の天才でもなんでも無かったので、政治的信条とか宗教上の理由などで死ぬ必要はなかった。ところがだ。


自殺は罪だが、罪でもよかった。一般市民のためとか、この国のためとか、殉死とか、

そんな抽象的なもののために死ぬよりずっとマシな死に方が、自分や愛する人のために死ぬことだという確信があった。

そして。俺は前もって誰にも告げずに死のうと思った。孤独でも仕方がない。


個人情報の要らない無料blogに施した集客は万全だ。

SEO対策、SNSでの宣伝。

死の直前に投稿ボタンを押して公表したあと、話題になればそれでいい。

全く便利な世の中ではあるようだ。

皮肉である。

はじめに目にするのは警察であってはならない。彼らは信用できない。


とりあえず相応しい、効果的な死に方をしなければいけない。

心当たりは、ある。俺は死への準備を着々と整えはじめている。


死ぬのは自分や愛する人たちのためだった。

死ぬことで真相が伝えられたら本望だった。

それに自分のくそったれ人生に大した思い入れもなかった。

自分が穢れた人間だという観念から自分自身を解放する必要もあった。

潔癖性の気がある自分は生きにくいとずっと感じていた。

でもまさかここにきて死を選ぶきっかけになるとは。


自分の愛する家族や仲の良い親戚や友達、若い頃一緒にバカをやっていた親友、

知己、先輩、先生、かつての恋人、その他諸々の人たちにも迷惑をかけるわけにはいかなかった。

俺は、自分の死後、世間に自分の潔白を知らしめることで、結果的に彼らに報いることができればと思っている。



要は…

俺は、見知らぬ男が何者かに胸をさされ死亡した事件の容疑者に仕立て上げられてしまったのだった。


この国の安全神話など聞いて呆れる。

恩恵を受ける一部の人間が投票に行けば成り立つ社会の裏で、どれだけ辛酸を舐めている人が居ることか。

それはしょうがないとしても、次に冤罪ときた。

一ヶ月前に俺が第一発見者となったあの殺人事件。

俺はやっていない。

誓う。

もし仮に無意識に殺していたとかそういう類いの事情により嘘だと言われたら、地獄で舌を抜かれようとも構わない。


縁者にも迷惑をかけたが、自分にかけられたあらぬ嫌疑に汚されてゆく気がした。

だから俺は死ぬのだ。



メッセージを残して。





神田正造が血を流して死んでいるのを発見したのは26歳の派遣社員の男だった。

第一発見者だということで重要参考人となっており一刻も早い身柄拘束が求められている。

一回目の事情聴取で解放されたあと、行方をくらましているという点で、被疑者として、

より濃厚だと目されているのだ。ただこの事件にはいくつか解せない謎がある。


そもそも神田正造は堅気の人間ではなかった。怨恨を持つ人間は山ほどいるということだ。

しかも事件当時、○○会の事務所である部屋は、荒らされていたにも関わらず、

確認された限り、容疑者の指紋は玄関のドアノブにしか付着していない。

ドアノブには指紋が残っていることから手袋はしていなかったと考えられるし、

事件のあと拭き取ったにしろ、あの荒らされ方では全ての指紋を拭きとるのは不可能に近い。

指紋という見地からみると、普段から事務所に出入りする人間が犯人だとする刑事もいる。

だが、警察はこの件の解決を急いでおり、手袋はドアを開けてからしたのだという線で一致、

現段階では容疑者として間違いないという意見が専らだった。

因みに手袋は見つかっていない。


しかし、明石警部補はこのままでは事件は難航するとよんでいる。

容疑者は真犯人ではない。長年の勘から、そう考えている。

真犯人はおそらくはじめから最後まで手袋をしていたはずだ。



そもそも雄一の言葉につられてあの事務所に行ったのが間違いだった。

小学校のころからの友達であった彼は正社員職を探している俺に、いいこと教えてやる

とうそぶいた。行ってみればそこはやくざの詰め所。

しかも死体が転がっていて誰もいないなんて陰謀を感じずにはいられない。


雄一は不動産業を営んでいて、その手の筋の人間だと囁く者もいた。

俺は彼が真犯人だと確信している。

俺を犯人に仕立てるための計画が見え見えだし、

事件当初から姿をくらましているところをみると尚更だ。

なぜ警察は彼を追わないのかイラつく。きっと●●会と警察に癒着があるに違いない。

一番手っ取り早い解決を望んでいるのだろう。



明石警部補は容疑者を追うことが最重要であることを直感した。

身に覚えのない嫌疑をかけられた人間が逃走するには何か事情があるはずだ。

取り返しのつかないことになりかねない。

急がなければならない。



〇月○日


記事:重要な予告


私、管理人のペーこと、△△△△は、この後自殺します。

(報道でこの名前を知った方も多いことでしょう。)


私には▲▲雄一という知りあいがおりますが、彼は●●会の隠れメンバーで、〇〇会とテリトリーを巡って抗争を繰り返していました。

以前、●●会の副理事が〇〇会にうち入りした際に流れ弾に当たって死んだことで、●●会はその報復を企んでいたといいます。

●●会の目的は秘密裏に○○会のトップを殺害することであり、私が逮捕されればそれで彼らの目的は達せられるのです。


ですが、もしそれが達成されなかったらどうでしょう?

口封じのために私の命を狙うに違いありません。

だから、ここで▲▲雄一の犯行を告発したところで、

私は殺されるか、信用されずに逮捕されるかのどちらかなのです。

私は警察を信用していません。事情聴取で感じたのですが、

後者になることは目に見えています。

そして後者になることだけは絶対に避けたいのです。


ですので、私は自分の名誉のため、自ら命を絶つことを決断しました。

そうすれば私の言っていることもおのずと信憑性を増すことでしょう。

いいですか?

警察に虚偽の糾弾をされて生きながらえるより、名誉をとったのです。

そして殺害されるのではなく、自殺を選んだのです。

警察にはこの意味を吟味してくださるよう願いたいと思います。


蛇足ですが。日本では「藪の仲」という言葉や「お蔵入り」なんて言葉が頻繁に使われます。

それは日本の警察への不信感の表れではないでしょうか?

少なくとも解明されない事件の免罪符にしてはいけません。

冤罪もゆるされてはいけません。


この文章はたくさんのネット愛好者に読んでもらえるよう、発信されます。

そして私が自分の無実を自殺という手段で証明することに理解をくださる方はきっといることでしょう。


警察の方々は今回の事件の真相究明を真剣にして下さるよう切に願ってやみません。


それでは、さようなら。




IT時代のダイニングメッセージ 完




※この物語はフィクションです。









最後までお読みくださり、ありがとうございます。

慣れないこととは思いながら、ミステリーを書いてみました。

なにか矛盾点などがあればご指摘ください。

場合によっては削除するかもしれません。

そんな、問題作です。

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