8:触れた指先
エマとセオの娘が主人公です。
思いついたので、久しぶりにUP。
長文になります。ご了承ください。
5歳の頃、母に連れて行ってもらったリトルトン書店で迷子になったことがある。途方にくれてちょっと涙をうかべたとき、“アンジェリン・キンケイド様、大丈夫ですか?お探ししましたよ”と優しく微笑んで手をとってくれたのは、濃い緑色の瞳にくるみ色の髪の毛の男の子だった・・・・
晴天の日の芝生の上ってどうしてこんなに眠気を誘うんだろう・・・・私は書き上げた原稿を脇におくと伸びをし、「ふわあああ~~」と大きなあくびをした。
一度、テッサに大あくびの現場を見られたときには「アン様!!あくびでアゴの外れた公爵令嬢なんてシャレになりません!」って怒られちゃったけど、自分の家でくらい伸びもあくびも自由にさせてほしいものだわ。
とはいえ、さすがにキンケイド宰相の娘があくびでアゴが外れたなんて噂が流れるのは嫌だ。
ま、今日はお父様と弟は王宮だし、お母様はテッサを連れてスコット叔父様のところに出かけていて、屋敷には私だけ。誰にも見咎められることはないわよね。
さて。原稿も書き終わったし、私も部屋に戻って出かける準備をしないと。誰かに同行を頼まなくては。あーあ、1人であちこち出かけてみたいなあ。だけどお父様が許してくれない。
立ち上がった私が服についた芝生を払っていると、「姉上」と声がかかった。
声の方向に顔を向けると、そこには弟のウィルと・・・本来王宮にいるはずの王太子がいた。
「いらっしゃいませエドヴァルト王太子殿下。おかえり、ウィル。あら、お父様は一緒じゃないの?」
「父上は仕事が残ってるから、僕だけ先に帰ってきたんだ。エドは・・・」
「“殿下”ってつけないでよ、アン。小さい頃みたいにエドでかまわないのに」
「それは無理です。」
私が当たり前だろうという風に言うと、王太子殿下はちょっとがっかりしたようだった。
それにしても殿下が一緒ではウィルに同行は頼めないわね・・・・残念。
「姉上は、これから予定でもあるの?なかったら、僕の部屋でお茶でも飲もうよ」
「だめよ。これからデズのところに原稿持ってって読んでもらうんだから。ついでに午前中に作ったお菓子も差し入れしようと思って。」
私はそういうと、ウィルに原稿の束を見せた。するとウィルは生意気にもやれやれという感じでため息をついた。
「姉上・・・デズもリトルトン書店の仕事で忙しいんですから、邪魔をしちゃだめですよ」
「大丈夫。魔法石で連絡とったら、“俺が読んでやるから、持ってくるといい。待ってるよ”って言ってくれたもの。」
「・・・・それで、誰を同行させるつもりですか」
「ほんとはウィルに頼もうかと思ったんだけどね~。でも殿下がいらっしゃるのにそんなこと言えないし。いいわ、一人で行ってくる。ウィル、お父様には内緒よ?」
「何言ってるの!だめだよ、姉上。父上に知られるとまずいって」
「あのさウィル、僕たちが同行すればいいんじゃないか?」
ここで殿下が、私たちの会話に割って入ってきた。
ウィルと殿下を書店に残し、私はリトルトン書店の執務室に向かった。私が入ってきたのを見て、デズが立ち上がった。
「やあ、アンジェリン様。いらっしゃい。もしかしてお菓子をもってきてくれたのかい?」
「ごきげんよう、デズ。この間言われたことを参考にがんばってみましたの。読んでもらえる?それと、これは今日焼いたラズベリーケーキなの。よかったら皆さんで召し上がって」
「アンジェリン様の作ったお菓子は美味しいから楽しみなんだ。・・・それではちょっと読んでみようか」
そういうと、デズは原稿に目を向けた。5歳のあの日、私の手をとって優しく微笑んでくれたのはここの跡取り息子で、現在は店長代理のデズモンド。現在26歳。私とは9歳違う。今はまだ子供扱いだけど、あと3年もすれば成人として認められる年齢になる。そのときが勝負ってやつよ!!
ああ、それにしてもやっぱりデズは素敵。穏やかな性格で、昔と変わらないくるみ色の髪の毛に端正な顔立ちに緑色の瞳。すらりと背が高くて、お母様が言うにはお父様の若い頃に雰囲気が似ているらしい。そりゃ確かにお父様は見た目いいけどさー、デズのほうが絶対素敵よ。
だけど今日は疲れてるみたいで、眉間にしわを寄せて原稿を読んでいる。
原稿に集中しているデズは、自分がどんな顔してるかなんて気づいてないんだろうなあ・・・私は思わず彼の眉間に手を伸ばす。
「!!?」
驚いたデズが原稿から目を離して私をみた。
「ご、ごめんなさいっ。眉間にしわがよってたから、ついっ。私、失礼します!!!」
私は目を見開いて固まってるデズに一礼して、執務室から飛び出した。
デズの秘書であるカーフェンさんが「アンジェリン様?どうされました?」って聞いてきたけど、私は「何でもありません。ちょっと急いで屋敷に戻らなくてはなりませんの」と言い訳をして、私は書店にいるウィルたちのところに向かった。
息を切らせてやってきた私を見たウィルと殿下は驚いた様子だったけど、私が「屋敷に戻る用事を思い出したの。急いで帰りましょ」と促すと、何も言わずに書店を出てくれた。
自分の部屋に戻って、私は自分の指先を見つめた。デズの眉間、ちょっと汗ばんでたな・・・も、もし私とデズが恋人同士とかになったら、ああいう行為が普通にできるようになるのかな・・・・。
デズ、すごく驚いてた・・・今度、どんな顔をして書店に行けばいいの・・・・私は、「もおやだ~」と頭を抱えた。
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<アンが帰った後の店長代理と秘書>
「失礼します・・・・アンジェリン様、どうかされましたか」
「え?あ・・・・いや。別に何も」
「まさか、デズモンド・・・」
「バカ抜かせ。俺はロリコンじゃない」
「ならいいんですけどね。キンケイド宰相に顔向けできないことはしないでくださいよ」
「だーかーら!俺はロリコンじゃねえっつーの!!」
「ロリコンって・・・アンジェリン様、17歳ですよ。噂では王太子妃候補の筆頭だそうです。ところで、さっきからなぜ眉間をさわってるんです?」
俺は思わず額から手を離した。
「そうか。あの子供が17歳になるのか。」
「ええ。もう子供ではなく令嬢ですね。迷子になった頃から成長したものです」
確かに、俺の眉間に触れた手は子供じゃなかったな。のぞきこんできた顔立ちも大人になっていて、固まってしまった。
それにしても王太子妃候補筆頭とはね~・・・小さい頃から知っていても、これからはちょっと態度を考えたほうがいいか・・・寂しいが。
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<書店にいたときのウィルと殿下の会話>
「あのさー、エド。悪いこと言わないから姉上のことはあきらめたほうがいいと思うよ」
「なぜだ。私がお前と同じ歳でだからか?」
「まー、確かに自分の親友が義兄ってのもイヤだけどさ。だけど、姉上はデズが好きなんだよ・・・つまり、年上が好きなの。殿下のことは完璧に俺と同じ弟扱いじゃないか」
「お前、俺が気にしてることを言うなよ。それに2歳くらいたいした差ではない。」
「それからさー、妃にしたいって父上に言っても無駄だよ。父上が許すわけがない」
「はあ?どうしてだよ」
「父上はさ、姉上が結婚しても気軽に家に顔を出してほしいんだよ。自分も顔を出したいみたいだし。王宮はそんなことできないだろ?まあさ、姉上がどうしてもエドと結婚したいって言うなら考えるだろうけど」
「なあ、ウィル。アンとデズモンド・リトルトンって両思いなのか?」
「まさか。姉上の一方的な片思いだよ。9歳も違うんだよ」
「なら、まだ私にもチャンスがあるよな」
親友であるこの男の長所のひとつは、この粘りかもしれない・・・・まあ、姉上が幸せになるなら、僕はどっちでもいいけど。
読了ありがとうございました。
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まさかの番外編です!
半年ぶりくらいでしょうか・・・でも、この話で完結済に戻ります。
現代物のネタが浮かばず、こっちが浮かんでしまいました。
ちなみに登場人物は以下のとおりです。
アンジェリン・キンケイド(17歳)
キンケイド公爵家令嬢。作家志望。デズが好き
ウィリアム・キンケイド(15歳)
キンケイド公爵家嫡男。愛称ウィル。
エドヴァルト・ティッテル(15歳)
ティッテル王国王太子。父親はもちろんハル。
デズモンド・リトルトン(26歳)
リトルトン書店の跡取り。愛称デズ。




