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6:彼女がナイフを埋めるとき

ロザリーのその後。



 王都から出た馬車は東の港町で私を降ろして、立ち去っていった。

 今頃、母は王宮の人に案内された施設にいるはずだ・・・

「ロザリー!あなたはアチソン家に泥を塗ったのよ!!二度と顔も見たくないわ!!」最後に母にぶつけられた言葉が私の胸に重いしこりとなっていた。

 でも、その反面これからは顔を見ればアチソン家の過去の栄光を語る母の顔を見ないですむという開放感で私の心はほっとしていた。


 東の港町は王都ほどの華やかさはないけど、にぎやかな町だ。ここで、私は一から職と住む場所を探さなくてはならない。

 停車場のベンチに座ってぼんやりと考え込んでいると、「もしかして、あなたがロザリー・アチソンさんかしら?」と声をかけられた。

 そこには栗色の髪の毛を一つにまとめたレリアさんくらいの女の人が立っていた。

「はい・・・あの、どちらさまでしょうか」

「私はこの町で食堂を経営しているラモーナといいます。とりあえず、私の店へ行きましょうか。荷物を持ってついてきてくれる?」

 私は訳がわからないまま、断ることもできずにラモーナさんのあとについていった。


 到着したのは「ラモーナ食堂」と看板の掲げられたこじんまりとした茶色の建物だった。

「ここが私の店よ。さあ、入って」

 扉を開けると、スパイスの匂いがした。店内には四角いテーブルが5つ。どこもかしこも磨き抜かれてあめ色に光り、アップルグリーン色のカーテンが窓にはかけられている。

「今は休憩中なの。さあ、座ってちょうだい。今、お茶を持ってくるわ」

 ラモーナさんは奥に入っていき、私は椅子に座って周囲を眺める。

「はいお待たせ。まずはお茶をどうぞ」

「ありがとうございます」そういえば馬車に揺られている間何も口にしていなかった。お茶の温かさにほっとする。

「さっきは突然話しかけてしまってごめんなさいね。」

「いえ・・・すてきなお店ですね」

「そう?ありがとう。」

「あの、ラモーナさん。どうして、私のことを知っているのですか?」

「私は昔、エリー様のところでメイドをしていて、レリアを通してあなたのことを頼まれたわ」

「え・・・私のこと、ですか」

「正直言って、なぜ私って思ったけれど、うちはちょうど人手が足りないしエリー様の頼みはよほど無茶なこと以外は断れないわ。

 だからあなたさえよければ、仕事と住む場所を提供する。仕事は食堂での接客と調理補助になるけど・・・ロザリー。ここで働く気はある?」

 ラモーナさんと同じように、私だって王太后様の骨折りを無視するなんてできない。

「私、ここで働きます。よろしくお願いいたします」

「そう。これからよろしくね、ロザリー。」

 そういうと、ラモーナさんはにっこり笑って私を見た。その後、自身のことを少しだけ話してくれた。

 ラモーナさんはこの港町で一番大きな食料問屋の娘さんで、独身の頃王宮でメイドとして働いていた。数年後、お父様から実家に戻って後を継ぐように言われたため、現在のご主人を婿養子として迎えた。

 今は実家の商売を息子さんとご主人に任せて食堂の経営に専念しているそうだ。



 ラモーナ食堂で働き始めて半年が過ぎようとしていた。

 最初は注文をとるのもおっかなびっくりだったし、失敗もあったけれど、今はなんとかこなせている。

 立ちっぱなしだから仕事が終わると足がぱんぱんになるし、水仕事で手も荒れてる。だけど、王宮でメイドをしていたときより毎日が楽しい。

 閉店時間になり、掃除を終えて奥に行くと手紙を読んでいたラモーナさんが顔を上げた。

「おつかれさまです。ラモーナさん」

「おつかれさま、ロザリー。ちょっとそこに座ってくれるかしら」

「・・・はい。」

 私が座ったのを見ると、ラモーナさんが読んでいた手紙を私に見せた。

「今日レリアから来た手紙よ。ロザリーにも読んでもらいたいと書いてあるわ」

「わかりました」

 手紙の文字は確かに私にも見覚えのあるレリアさんの筆跡だ。手紙の内容は・・・エマと宰相閣下が結婚したことと、それより前にゲイリーが北の牢獄で15年の幽閉刑に処されたことが書かれていた。

 心がざわつく・・・でもラモーナさんには悟られたくない。私はあわてて手紙をたたむと、心配そうな顔をして私を見るロアーナさんに笑顔を作り、店をあとにした。


 部屋に戻っても、何をする気力もない・・・頭の中にあるのはゲイリーのことだけだ。

 エマの結婚は正直どうでもよかった。ただ、ゲイリーの名前を見るのは・・・。

 ここで働くようになってから、私はゲイリーのことを冷静に考えられるようになってきていた。付き合っていたころ(私から見ればの話だ)、彼は優しくて私は彼と会うのが楽しかった。

 だけど、自分に関しては名前と自分の仕事以外は何も話してくれなかった。ゲイリーの話を聞きたいと願っても「そんなことより」と流される。

 身体は側にいても心は私の一方通行・・・それが私たちだった。

 私はクローゼットにしまいこんでいた大きなかばんを取り出した。

 奥底にしまっておいたナイフ。最初はエマを傷つけたかった。だけど、今は・・・。

 あのまま王都にいたら母の世話にうんざりし、エマに嫉妬し憎んでいただろう。私は追放処分で王都から離れてよかったのだ。

 当初描いていたのと違うけど、ゲイリーはやっぱり私にとって光のような人だった。だけど、その光に二度と会うことはないだろう・・・私は、今度は自分の力で光を見つけなくてはいけないのだ。


 私は、ナイフを布にかくし部屋から外に出ると建物に面している小さな庭に向かった。

 日陰部分の隅に少しだけ穴を掘って、持ってきたナイフを埋めた。土をかぶせ、ナイフの姿が見えなくなったとき、私は気持ちが澄み切っていくのを感じていた。


読了ありがとうございました。

誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。

ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!


まさかのロザリーです。

番外編だというのに、主役同士の話が少ない・・・主役の話が見たいよ~と思っている大多数の読者様、ほんとうにごめんなさいっ!!

最初、ロザリーにも新たな恋愛の出会いを・・・と考えていたのですが、

思いつかず。

結局、彼女が自分の気持ちに決着をつける話になりました。

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