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5: キンケイド公爵家の料理人

公爵家執事・ピエル視点です

 長年キンケイド公爵家で働いてくれた料理人が、故郷に帰ることになった。

 屋敷にいる人数が少ないせいか、特に助手も置いていない。

 そこで料理人探しが急務になり、セオ様が意見を聞きたいと私を部屋に呼んだ。


「料理人はすぐに見つかるだろうか、ピエル」

「当家は給料がいいですから募集をかければすぐに見つかると思いますが」

「しかし、変な人間は入れられないぞ。今の料理人に決めるまでも大変だったと父上から聞いている」

 確かに現在の料理人を見つけるのは大変だった。キンケイド公爵家で働く料理人に求められるのは腕は当たり前だが、口の堅さも求められる。それに・・・私はセオ様を見て思わずため息をついてしまった。

「なんだ、ピエル?私の顔になんかついてるのか?」

「いいえ。料理人の募集をだしたら、セオ様目当ての女性が大挙して押しかけそうだと思いまして」

「・・・・」

「その女性が料理のできる方ならいいのですが。メイドを募集したときの二の舞にならないとも限りませんから」

 あれは3年前。メイドが結婚して王都を離れることになったので職を辞することになり、アルテアとテッサだけでは手が足りないので、メイドを募集することにした。

ところが現れたのは化粧をたっぷり施し体の線がくっきり現れた服装をした女性ばかりで、メイドの仕事もろくに経験がなく、セオ様に色目を使う者ばかりだったのだ。

 うんざりしたセオ様が大奥様にメイド探しを任せてようやくキュカが採用されたのは募集から半年後のことだった。

「・・・思い出したくない話をするなよ。とりあえず、新しい料理人が来るまで自分たちでなんとかしないといけない。ピエルたちは大丈夫かい?」

「私たちのことは心配いりません。果樹園や農園のほうは皆通いですし、交代で料理をつくってますから。セオ様はよろしいのですか」

「私は王宮で食べるから心配いらない。ハルが一人で食べるのはつまらんと誘ってくるしな」

「かしこまりました。しかし募集はかけないといけませんね」

「・・・・そうだな。とりあえず、当分はそうやってしのぐしかないな」

 募集をかけたら、また化粧の匂いがここに充満するのだろうか・・・・私はこっそりとため息をついてしまった。



 ところが2週間後、セオ様が料理人が決まったと私に告げた。

「ピエル。10日後に料理をしてくれる人間がやってくることが決まった」

「セオ様が自ら探してくださるとは・・・ありがとうございます」

「ただ、彼女は料理人としてではなく母上の世話係兼として当家に来る。だから正確には料理人ではない」

「・・・行儀見習ですか?失礼ですが、その女性の年齢をお伺いしても?」

 行儀見習の年齢・・・ということはまだ10代なのだろうか。

「彼女は24歳だ。」

「24歳で、行儀見習ですか?」普通、行儀見習にでる女性というのは10代前半から後半・・・20代というのはとても珍しい。

「・・・・料理人として働くには、彼女の家は大きすぎる。だから世話係兼行儀見習として働いてもらうことにした。」

「はい?」

「新しく来る人間は、クリフ・アリンガムの娘なのだ。名前はエマ」

「アリンガム商会の会長令嬢ですか?なぜまた・・・」

「今日、アリンガム商会と取引の打合せをするためにクリフ殿から自宅に招待されただろう?そのときにエマの作ったお菓子を食べた。・・・実にうまかった」

「そうですか。」

 しかし、それだけでセオ様が雇う気になるだろうか。

「・・・・彼女は一見おとなしい令嬢なのだが、しゃべりだすと実に面白い」

 そうエマ様の話をするセオ様の顔は普段の冷静な表情ではなく、子供の頃よく見せていた実に楽しそうな表情を浮かべている。

 ああ、なるほど。どうやらセオ様はエマ様に心惹かれているらしい。

 もっとも、エマ様に屋敷で働いてもらうまでの過程をセオ様から聞いて頭を抱えたくなった。

 いきなりプロポーズするなんて、どれだけ焦っているのですか、セオ様・・・・。



 その後、屋敷で働き始めたエマ様。しかし、セオ様の気持ちは一方通行・・・・知らないのは本人だけという状況がしばらく続いたものの、セオ様が頑張ったらしくエマ様と結婚し現在は幸せな公爵夫妻だ。

 そしてエマ様は公爵夫人になっても屋敷の食事を作っている。公爵様も止める気配もないし、我々も止めてほしいとは思っていないのである。


読了ありがとうございました。

誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。

ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!


エマが公爵家に来るまでの話です。

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