4:新米の公爵夫人
エマの公爵夫人生活。
「エマ様、貴族としての生活には慣れまして?」
「おかげさまで。キンケイド家の皆様のおかげですわ」
「まあ、それはよかったですわね」
おほほほほほ・・・・と上品な笑いが部屋で広がる。私も一緒に「おほほほ」なんて笑ってるけど内心は「悪い人じゃないんだけど、よくしゃべるひとだなあ」とちょっとうんざり気味だ。
大物貴族であるキンケイド公爵家の現当主セオが選んだのが、アリンガム商会の娘だということで、実家とキンケイド公爵家に近づきたいと思っている人間にとって私は注目の的となっているらしい。
結婚式が終わった直後から、降るように届く訪問したいとの手紙や伝達石。私もうんざりしていたけど、セオは「エマは見世物じゃない」と私より不機嫌になっていた。
そこでお義父様たちと相談し、私への訪問客は全てお義母様が作ったリストに基づいてピエルが選別することになった。おかげで訪問希望のほとんどは「奥様は現在多忙でお時間をとることができません」とピエルに断られている。
でも、どうしても避けられない相手と言うのもいるわけで・・・・現在私の目の前で「おほほほほ」笑っている人はその一人だ。
この方はベアズリー侯爵夫人。お義母様リストによると「社交界の中心人物で、情報に通じている。敵に回すより味方に取り込んでおくべきタイプ」だそうだ。
「ベリンダ様は、めったにパーティーにはいらっしゃらなかったけれど、お見えになると必ずわたくしに声をかけてくださり、お世話になりましたの。」
「そうなんですか。」
「ですから、わたくしエマ様の力にもなりたいと思っておりますのよ。」
「それはありがとうございます。義母も侯爵夫人のことはよき友人と言っておりました」
「まあ・・・」侯爵夫人がちょっと感動したのか目をうるませている・・・まずい。ちょっと持ち上げすぎたか?あとでお義母様に今日の対応について聞いておこう。
その後、ベアズリー侯爵夫人はひとしきり社交界の噂話をして“たまにはエマ様もパーティーにいらしてくださいませね”と言い帰って行った。
「エマ様・・・おつかれさまでした」
テッサがお茶を入れつつ気の毒そうな顔をして私を見た。テッサは現在、私の世話係をしている。テッサの仕事を引き継いだのはキュカ。その後輩として新人のメイドが入ってきた。
「社交界の中心人物かあ・・・なんかわかる気がする。」私は立ち上がって伸びをし首をコキコキとならし肩をたたいた。
「エマ様。・・・ここでそんなことしないでくださいよ。やるなら自分の部屋でやってください」
「大丈夫よ。もうお客様来ないでしょ~。あー、さっさと楽な服に着替えたい。そして料理したい!!」
やっぱりストレス解消には台所で料理が一番よっ!!
「・・・・わかりました。ここはキュカに片付けさせますから、ちょっとだけ待ってくださいね」
「着替えるくらい一人で出来るわよ。」私は現在着ているドレスを見下ろした。光沢のある淡いイエローグリーンのドレスは、私好みのシンプルなデザインで気に入ってるんだけど、なにしろ上質な布だから気を遣う。
「普段からそういうの着ればいいのに。お似合いですよ」
「ドレスはそういう機会のときだけ着ればいいわよ。毎日なんて肩がこる。料理してても気になって集中できないわ」
「それはそうですね。今日の夕飯はどのようにしますか?」
「そうねえ・・・どうしようかしら」
うーん・・・昨日は白身魚と海老のすり身蒸し焼き、きのことたまねぎ、チーズのキッシュにゆで野菜のサラダだった。
今日はお肉にしようかな。なんか疲れたから、しっかり食べられるものがいい。
「・・・・今日はお肉にしましょう。台所で材料を確認しなくてはね」
「それはいいね。でも、その前に私と過ごさないか?」
そう言って後ろから抱きしめてきたのは、セオだった。
セオは私の向きを変えると、まずはキスをする。
いつのまにか部屋には私たちしかいないし・・・テッサ、部屋出るの早っ。
「セオ。お帰りなさい・・・・今日は早いのね、どうしたの?」
「ただいま。ここのところ、忙しくてエマと夕食をとれなかっただろう?一段落したから帰ってきた。今日は、ベアズリー侯爵夫人が来てたんだろう?あの方は悪い人ではないが、話好きだからなあ」
「そうね、圧倒されてしまったわ。」私は、先ほどまでの様子を思い出してちょっと笑ってしまう。
「だろうね。実は俺はあの方が少々苦手でね。」
確かに、セオの苦手なタイプかも・・・一方的にしゃべられて辟易している姿が頭に浮かんでしまう。
「エマ、いま俺が侯爵夫人に辟易してる姿を想像しただろ」
「なんでわかるの?・・・あっ!私の心読んだわね!!」
「エマは顔に出るから、そんな必要ないよ・・・さて、俺の部屋でお茶でも飲もう。」
「・・・夕食作るんだから、お茶だけにしてよね」
私の台詞にセオは「・・・しょうない。ま、夜は長いしね」と意味ありげな笑い方をした。
その日、私は夜の長さを実感した・・・
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