5.運命の相手であってほしくない
神様、現る。の巻
一日の仕事が終わり、私は自分の部屋でのんびりとしていた。
最初に屋敷に来たときは、こんなのんびりする余裕もなくて屋敷のことを覚えることで頭がいっぱいだった。
それにしても、キンケイド公爵家は友達から聞いていた貴族の家とはだいぶ違う。友達が言うには当主一家と使用人が食べるものは普通全然違うものらしい。
だけど、この家は当主様も使用人の私たちも普段は同じものを食べている。お客様によっては違うものを出すけど、前当主夫妻(当主様のご両親)は、屋敷に来ると私たちと同じものを食べることを希望する。
当主様が言うには、「自分たちがどんなものを作って食べているのかよく分かるし、お金もかからないから」だそうだ。
それに、当主様と使用人の距離が近い。皆規律を守りながらも和気あいあいとしている。当主様が庭園係や農園係の皆さんと楽しそうに話をしているのも時々見かける。
私は貴族って傲慢な人ばっかりだと思ってたんだけど、例外もいるってということをこの屋敷で知ったのだった。
この屋敷で驚いたのはそれだけじゃない。当主様の仕事モードと家モード(アルテアさんが言うには対私モード)の落差だ。
最初に満面の笑みで「エマ、これからよろしくね。私は好き嫌いがないから何でも美味しく食べられるよ♪」と嬉々と言われたときには、あまりの違いに別人かと思った。
料理に文句は言わないし、美味しそうに食べるし・・・美形が美味しそうに食べてる姿って眼福だよなあ・・・そこはちょっと可愛いなどと思ってしまう。
しかし、あの寝起きの悪さはどうにかならないのだろうか。朝の仕込みの真っ最中なら行けないと断れるのに、器に盛るだけというタイミングでキュカがアルテアさんからの伝言を伝えてくる。
なんという絶妙なタイミング・・・最初嫌がらせかと思ったけれど、行ったら本当に熟睡していた。
さらに私が起こすと確実に起きるので、起こすのも私の仕事になりつつあってちょっとやだ。もう大人なんだから自分で起きてくれよといつか言っていいだろうか。
「・・・さて。そろそろ寝ようかな」私は目覚ましをセットして眠りについた・・・
・・・エマ・アリンガムちゃん。『異世界の裕福な商人の娘として産まれて、ちょっとした争いはあるものの大部分は平穏な人生』を楽しんでる?・・・・
私はこの声に目を覚ました。周囲を見回すと私の部屋じゃなくて、・・・さわやかな風が吹く草原。
「え。ここどこ」
「エマちゃんの夢のなかよ。ちょっとお邪魔するわね」
そう言ってひらひらの服をきたきれいな人が現れた。
「あ、夢・・・って、あなたどなたですか?」
「アタシは神様って呼ばれてる存在よ。よろしくね」
「はあ・・・よろしくお願いします」この神様ってよばれる人は、男の人のようだけど口調は女性みたい・・・まあ、似合うからいいか。深く考えないほうがいいよね、夢だし。
「ねえ、エマちゃん。“すばらしい料理の腕”をちゃんと活かしているみたいで、アタシうれしいわ。あとは24歳で運命の人に出会うはずなんだけど・・・」
「あ!!その言葉!!私、その言葉がずっと気になってて。もしかして神様が??」
「せいかーい。あなたの人生にオプションとしてつけましたー。」
神様は、そこで私の前世についてちょっと話してくれた。私は前世でも食べることが好きだったらしい。でも、手違いで事故死なんて気の毒な・・・。前世の分も私、ちゃんと生きよう。
「あ。神様。私、おかげさまで料理の腕はこうして人生に役立ってますけど、運命の人にはまだ出会えてないみたいですね。まあ、先は長いので気にしてませんが」
「やっだー、エマちゃん。もう会ってるわよお」神様は手をひらひらさせて笑う。
「え・・・」
「いっつも側にいるじゃない。初対面でプロポーズされたでしょ」
・・・・ま、まさか。私は思わず神様を呪いそうになる。
「か、神様?それは何かのお間違いかと」
「そうかしらあ・・・あらやだ。そろそろ戻らなくちゃ。じゃあ、エマちゃん。これからも頑張ってねえ~~」
「勘弁してくださいよ!もっと庶民がいいです!!」
私の叫びなど無視して、神様はうふふと笑って消えていった・・・・
目覚ましがなり、私はベッドから起きた。
それにしても、なんていう夢・・・・ていうか、あれは夢であってほしい。
あんな寝起きが悪くて、初対面でプロポーズするような男が運命の相手だなんて・・・絶対に思いたくない!!
「あれは夢よ。ということは現実じゃないんだわ・・・よし、忘れて仕事仕事!!」
私は自分に言い聞かせるように両手で顔をはたいて気合を入れた。
読了ありがとうございました。
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エマのセオに対する印象は・・・がんばれ、セオ。
次回から第2章です。