お嬢様は家出中(後編)
セオの両親の馴れ初め:後編です
「ねえねえベリンダ。アルヴィン様とつきあってるの?」
同僚からの質問に、私は飲んでいるお茶を噴出しそうになる。
「・・・・なにそれ?」
「だって、ベリンダが帰る時間になると必ずアルヴィン様が現れて一緒に帰ってるじゃない。なんか二人お似合いだし」
「誰と誰がお似合いだって?」
「だーかーら。ベリンダとアルヴィン様よお。ほんとのところはどうなの?」
同僚だけじゃなくて、今一緒に休憩をとってる人たちも興味津々らしくて、私が何を言うか待っているみたいだ。
勘弁してくれよう・・・やっぱりあの日見つけられたことがよくなかった。私はなんだかがっくりとしてしまった。
「ベリンダ?どうしたの?」
「アルヴィンとは何でもないわよ。・・・・身分の違う幼なじみなの」
「なんだー。でも“銀の貴公子”の恋愛沙汰にがっかりしてた子には嬉しい話だね」
「“銀の貴公子”ってなに?」
その芝居がかった名前はなんですか。私の微妙な表情をみた同僚は「もしかして知らなかった?じゃあ教えてあげるね」と目をキラキラさせた。
「アルヴィン様は王太子様の護衛兼秘書で次の宰相と言われてるのよ。おまけにキンケイド公爵家の跡取り息子であの容姿よ?ちょっと近寄りがたいところがまたいいということで“銀の貴公子”って呼ばれて人気があるの。」
「へえ・・・・」
それにしてもアルヴィンが近寄りがたいなんて。説教好きで心配性、冗談も言えば子供みたいなところもある人なんだけどなあ。確かにあの容姿からは想像もつかないか。
勤務時間が終わり、図書館を出るとアルヴィンではなくて二度と見たくない人間が待っていた。
「ベリンダ!」
つい先日、家族に図書館で働いていることとアルヴィンに見つかったことを知らせたばかりなのに。いったどこからもれたんだろう。
「・・・・王都に観光で来ていた知り合いから、きみが図書館から出てくるのを見たって聞いたから。ここで待ってれば会えるだろうと思ったんだ」
「ベリンダ。悪い、待たせた」そこにアルヴィンの声が割り込んできた。
「アルヴィン」
「ベリンダ。もしかしてこの男がきみを裏切って違う女と結婚するっていう元婚約者?」
「そうよ。」
「ベリンダ。その人は?」
「この人は・・・」幼なじみだといおうとしたとき、アルヴィンの声がさえぎった。
「私はベリンダの恋人だよ」
「ちょっと、アルヴィン!!何言ってるのよ、この・・・」うそつきって言おうとした私をアルヴィンは制して、元婚約者のほうを見た。
「・・・嘘だろ?」
元婚約者は呆然として私たちを見ている。
「もっとも、つい最近ようやくいい返事をもらったばかりだけどね。きみももうすぐ結婚するとベリンダの家族から聞いたのだが。」
「・・・彼女と両親の間がぎくしゃくしていて、準備どころじゃないんだ」
「そうか。だが、それはベリンダに関係ないだろう?」
「ねえ」私は二人の間に割って入って元婚約者に話しかけた。
「彼女は、あなたのことが本当に好きだから諦めきれなくて、ああいうことをしたんだと思う。あなたも、彼女の気持ちに応えたんでしょう?ご両親を説得しなさいよ。」
「ベリンダ・・・もう元には戻れないのかな」
「戻らない。私はもうあなたを好きじゃない」
「そうか・・・相変わらずはっきりした物言いをするんだね。きみを傷つけてすまなかった、ベリンダ。これだけはどうしても伝えたかったんだ。」
そう言うと、元婚約者は去っていった。
「さあ、帰ろうか。ベリンダ」アルヴィンに手をつかまれて私も彼とは反対方向に歩き出す。
「アルヴィン、さっきのあれは何よ!!」
「あれってなんだ?」
「わ、私の・・・こ、恋人なんて嘘ついてっ!!信じられない!!」
「・・・この際だから、本当にしないか?」
「はあ??何言ってるの」
「ベリンダ。私はいくら知り合いが王都に来てるのを知ってても、時間を割いてまで探したりしないよ?だけど、きみのことはご家族から連絡が来てすぐに探すことを決めた。どうしてだか分かる?」
「家族ぐるみのお付き合いだからでしょ?幼なじみだし。」
私がそういうと、アルヴィンはなぜか深いため息をついた。
「それよりベリンダ、当分王都にいるんだろ?図書館の仕事も楽しそうだし」
「ええ!当分いるわ。新しい出会いもあるかもしれないじゃない。」
「新しい出会いはベリンダには必要ない」
「えーっ!!なんでよ!! ねえアルヴィン、いい加減手を離してったら」
アルヴィンは、私の抗議を無視し手を離さない。私は抗議するのをあきらめた・・・。
それからしばらくして、私は半ば強引にキンケイド家に引っ越すはめになり、気がついたらアルヴィンの花嫁候補・・・・3年後にはキンケイド公爵夫人になっていた。
読了ありがとうございました。
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セオの両親の馴れ初めでした。
後編のUPが遅くなり、申し訳ありません。




