2:お嬢様は家出中(前編)※文章追加あり
セオの両親の馴れ初めです
-ごめんなさいね、ベリンダ。彼と私は前から関係があったの。この人ね、あなたより私のほうが好きみたいよ?
親友だと思っていた人間は私を見て勝ち誇ったように笑った。それを見て慌てふためく婚約者。
今にも婚約者に殴りかかろうとする父親、それを止める兄と母。
真っ青な顔をして呆然としたままの婚約者の両親。
両家で顔を合わせて結婚式の準備を話し合う日に、突然落ちてきた爆弾だった・・・
-3ヵ月後-
「ベリンダ、悪いけど本がたまってるから戻しておいてくれる~?」
書庫で本の整理をしていた私は同僚に言われて「わかりました~」と返事をした。
受付に出てみると、確かに借りる人がたくさんいて返却本がたまっている。
私は受付の人に「返却してきます」と声をかけて、本をワゴンに載せた。
王立図書館は「王立」と名前につくだけあって、蔵書量も規模も国で一番だ。ここでは私は「ただのベリンダ」で、人がたくさんいるから埋没していられる。
私は自分でお金を稼いで、その稼ぎで暮らすという今の生活に心から満足していた。
明日は仕事が休みだから、部屋の掃除をしたら雑貨市を見に行こう。この間みたいに掘り出し物がみつかるかも・・・あ、乳母の家に顔を見せに行かなくちゃ。私は乳母の“ベリンダお嬢様。必ず顔を見せに来てくださいませ。約束ですよ”という言葉を思い出して、思わず顔がほころんでしまう。
児童書から始まって順当に本を棚に戻していき、政治学の本の棚に差し掛かったとき私は腕をぐいっと棚の奥に引っ張り込まれた。
「きゃ・・・」叫ぼうとしたときに口を押さえられ、何事かと振り向くとアルヴィン・キンケイドが私を睨んでいた。
「ベリンダ。探したよ」
よりによって、一番王都で顔を合わせたくないのに見つかるなんて・・・なんてこと。
「・・・今日は夕5の時に勤務が終わるの」
「わかった。迎えに行くから逃げるなよ。」
アルヴィンはそういうと、手を離して棚から離れていった。
裏口から逃げ出そうかと思ったけど、後々が面倒なので私は正門で待っていた。さほど待たずにアルヴィンはやってきた。
「・・・お久しぶり、アルヴィン。」こうやって顔を合わせるのは私が9歳のときいらいだから、10年ぶりか。相変わらずチョコレート色の髪とシルバーの瞳を持った美形だこと。少しは吹き出物が出てるとかないのかしら。彼は今26、7歳のはずだ。
「・・・ベリンダ。ご家族がきみのことを心配して、父に連絡をよこしたんだ。父も母もきみのことを心配してる。」
「ちゃんと手紙を残してきたわよ。」
「“王都に行って心の整理をしてくる。心配しないで”しか書いてないのを手紙と言うのか。あれは書置きというんだ」
「う・・・だって、他に書きようがなかったんですもの。ねえ、アルヴィン、どうして私が図書館で働いてるって分かったの?」
「王都できみが頼るのは誰だろうと考えたときに、真っ先に浮かんだのはきみの乳母だ。僕が姿を見せたら最初は渋っていたけど、説得したら教えてくれたよ。乳母を責めるなよ?ほんとうにきみのことを心配してる」
私に説教をしている、この男アルヴィン・キンケイドはキンケイド公爵家の跡取り息子で、私の「幼なじみ」だ。私の家は王国の南の地方領主だから身分が違うんだけど、父親同士が同じ学校の同級生で仲がよくて、家族ぐるみの付き合いをしていた。長い休みになると公爵家の皆さんでうちに遊びにきていた。兄と私は、すぐにアルヴィンと仲良くなって3人でよく遊んだものだ。
兄は私をすぐ疎ましがっていたけどアルヴィンのほうが私に優しくて、絶対本人には言わないけど私の初恋だった。
だけど、月日が流れると家に来るのは公爵夫妻だけになって私の初恋は自然消滅した。
「ベリンダ。事情はご家族から聞いてる。とにかく今住んでいる場所と図書館で働いていることだけは連絡しておくんだ。いいね?」
「わかったわよ。アルヴィン、私を連れ戻しに来たのではないのね?それならちゃんと手紙を書くわ。」
「本当は、一人暮らしなんかさせたくないんだ。どうしてキンケイド家にこない?」
「・・・そちらに行く理由なんかないもの。私、今の生活が楽しいの。自分でお金を稼ぐのって大変で苦しいときもあるけど、すごく楽しいわ。・・・働いているときはいろいろ考え込まなくていいし」
「わかったよ。送るから僕に住んでる場所を教えてくれないか。何かあったときにすぐ駆けつけられるように知っておきたい。」
「何かあったら乳母に連絡するから大丈夫よ。アルヴィンには迷惑かけないわよ」
「いいから教えるんだ、ベリンダ。教えないと今すぐきみをキンケイド家に連れて行くよ?」
私は渋々アルヴィンに送ってもらうことにした。私の住まいをみたアルヴィンは周囲の環境に満足したらしく「ちゃんと戸締りするんだよ。ベリンダ、また明日」そう言って帰って行った。
また明日・・・って。まさか明日も来るというの?まさかね・・・
「まあ、言葉のあやってやつか。もう会うこともないよね。」私はそう解釈した。
ところが、アルヴィンはそれから毎日私の勤め時間が終わることに現れるようになった。
「ちょっと。なんでいるのよ」
「僕は“また明日”と言っただろう?」
「なんで私の勤務時間を知ってるのよ?」
「ここの館長は私の友人の父親だ。事情を話したら快く教えてくれてね。彼もきみが一人で帰るのを心配していたみたいだよ。」
「う・・・」私は温厚な館長をちょっと恨んだ。
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セオの両親の馴れ初めです。
一話で終わらせるはずだったのに・・・・どうしてこうなったんだろう。
すみません、後編もなるべく早めにUPいたします。




