1.寂しくて誇らしい日
お父さんは複雑。の巻
エマの父・クリフ視点です
「アリンガム殿。エマとの結婚を許可していただきたい」
キンケイド様からその一言を聞いた日のことは私は一生忘れないだろう。
今日、エマはキンケイド公爵に嫁いでいく。
「準備があるから」とエマは朝早くに家を出て、今は妻フェイスや息子スコットともに身支度に追われている。
なんといっても、私にはエマをキンケイド様に引き渡すという重要な役目があって正直言ってそっちで緊張している。
「父さん、つまずいて転ぶなよ」などとスコットはからかうが、自分としては冗談に聞こえないのだ。
王族にだって一歩もひかない私だが、この役目をエマとキンケイド様から頼まれたときには心の底から「やめてくれええ」と叫びたくなってしまった。
何が嬉しくて、大事に育てた娘をよその男に引き渡さなきゃならんのだっ!と言いたいところだが、それを横で聞いていたフェイスが「今度はあなたが私の父の立場になったわね、クリフ」と言われて“そういえば・・・”とちょっと冷静になって、頼みを引き受けた。しかし、顔が若干ひきつっていたことは許してほしいものだ。
今になってフェイスの父上の気持ちが分かる。キンケイド様は宰相としても評価は高いし、本人もちょっと突発的なところはあるが人の話をきちんと聞く耳を持ち、誠実だし判断力に優れた方だ。そして何よりエマにぞっこんなのがいい。
つまり何の問題もない方なのだが、エマをさらっていくその点だけが自分の中で許しがたいだけなのだ。
そんなことをぼんやり考えていると、「クリフ」とフェイスから声をかけられた。
「なんだい?フェイス」
「今日はこの間みたいなひきつった笑顔はだめですよ。エマの結婚式なんですからね?」
・・・・・妻は何でもお見通しらしい。
式を執り行うのはキンケイド公爵家の特別室だ。ここは当主の結婚式だけに使用する部屋らしく、前公爵のアルヴィン様いわく「30数年ぶりだから、総出で掃除をした」そうだ。
アリンガム家側の招待客に挨拶をしてまわるなどして緊張感をまぎらわしていると、フェイスから声をかけられエマの元へ行く。
娘は白いウェディングドレスを着て輝いていた。「お父様」と呼びかけられて、早くも泣きそうになってしまう。
「キンケイド様は見に来たのかい?」
「セオには見せてないの。」
なんとキンケイド様はまだこの姿を見ていないらしく、自分が最初かと思うとちょっと嬉しい。
「そろそろ時間だね。行こうか」
「はい」
娘と腕を組むなんて、もう何年ぶりなんだろうか。小さい頃は「おとうさまー、だっこー」と言って飛びついてきていたのに・・・・。
特別室のドアを開けると、結婚証明書の前にキンケイド様が立って待っていた。
エマの姿を見て、目を見張って驚いている。
“そうかそうか。私の娘があまりにきれいで驚いたか。よしよし”などと内心ほくそ笑みながらキンケイド様にエマを引き渡し、私はフェイスの隣に移動した。
アルヴィン様が書類に書いてある結婚事項について確認をし、二人にサインをさせた。これで結婚は成立し、二人は夫婦になった。
その後の結婚パーティーはたいそう賑やかで、キンケイド様と仲のいい陛下も顔を出していた。
エマはキンケイド様とのダンスを無事に終えて、ほっとした顔をしながら二人で挨拶をしてまわっている。
私とフェイスはそんなエマの様子を見て、ちょっとさびしくもあったが誇らしい思いでいた。
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第8章は
エマ父の視点で結婚式の様子を書いてみました。




