6.忙しい婚約期間のおわり
家族との時間。の巻
「じゃあ、セオ。私、行くわね」
「・・・・どうしても行くのか」
「式までの一週間は実家に戻ってのんびりしてくるといいよって言ったのは誰?」
「・・・・俺」
「わかってるじゃない。じゃあね、セオ」
私は実家に戻るため屋敷を出た。
実家に戻って私がまっさきにしたことは、部屋の片付けだった。
屋敷で働くまでは毎日過ごし、今も休暇になると過ごしてきたこの部屋は、これからは時々立ち寄るだけになる。
今までのお礼もこめて私は隅々まで掃除をし、整理をした。屋敷に持っていくものと置いていくものを分別していくと、思い出に浸って手を止めたくなる。
それにしても、よく出てくるなあ・・・・小さい頃にお気に入りだった童話全集や、おもちゃ。学生の頃に勢いで買ったものの2回くらいしか使ってない香水。教科書に成績表まである。
香水は香りが変わってしまっているし、成績表なんて見られた日にはたまらない。童話全集も図書室にあるのを見かけたし・・・結局、私がこの部屋から持っていくものは本棚の本を何冊かくらいかも・・・・。
部屋の片付けが一段落したころ、「姉さん、片付いてる?」と弟であるスコットが顔を出した。
「あら、スコット。店のほうにいなくていいの?」
「もうすぐ昼だから食事に来たんだ。」
「え?もうそんな時間?」時計をみると、確かに昼だ。
母が作った昼食を食べながら、自然と話は一週間後の結婚式の話になる。
「姉さん、ほんとにキンケイド様と結婚していいわけ?」
「スコットはセオが嫌い?」
「嫌いではないよ。彼は立派な宰相だし、人柄だって悪くない。でも、僕は姉さんを屋敷に連れて行ったやり口が気に入らないんだ。」
「あ~・・・確かにあれは強引だったよね」
「だろ?父さんだって最初は耳を疑ったって言ってたし、母さんだって驚いてた。ねえ、母さん」
ちょうど母も昼食の席についたので、スコットが母に話をふる。
「何の話かしら、スコット」
「キンケイド様が姉さんを連れて行った強引なやり口に家族みんなが驚いたって話。」
「ああ。あれは確かに驚いたわね。でも、キンケイド様はあのときにエマを見初めたのよね。」
見初める?・・・あれは出されたケーキが気に入って自分の屋敷で常に食べたかっただけなんじゃないのかと私はいまだに思っている。
セオは「あのときに一目ぼれした」と言うけど、私は自分が一目ぼれなんてものに縁がないことをよーく知っている。
「姉さんだって驚いただろ?」
「んー、まあね。だけど、今は別に不満とかないからさ。安心してよ、スコット」
「姉さんがそういうなら、仕方ないけどさ」
それでもスコットはまだ不満そうだったが、午後の仕事開始が迫っていたので渋々仕事に出かけていった。
「スコットはエマが心配なのね」と母が笑った。
夜になる頃には片付けも終わり、部屋はみょうにすっきりとした。これで残りの日数は少しはのんびりできるだろう。
一週間後には、私はキンケイド公爵夫人になる・・・・なぜか自然と背筋がしゃきっとするのだった。
読了ありがとうございました。
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結婚前に実家に戻った話です。
次回から第8章。最終章になります。




