12.王宮でのひととき
侯爵騒動のあと。の巻
ゲイリーとバトラーを伴って王宮に到着すると、陛下とトビーが待っていた。二人が無傷なのを見て安心する。
「セオ。ご苦労だったな。侯爵はトビーの魔方陣で連れてきてある。・・・ゲイリー・バルフォアとバトラーだね?」
ハルが声をかけると、二人は黙ってうなずいた。
「それでは、こちらが事情を聞くまで部屋で待っているように。・・・連れて行ってくれ」
ハルが後ろに控えさせていた警護騎士に声をかけて、二人を連れて行くように命じた。
ゲイリーとバトラーの姿が遠ざかっていくのを見て、俺はようやく肩の荷が下りた気がした。
これで、ようやくエマが自分の手元に戻ってくる。
「トビー。エマの魔法を解いてくれ」
「お前さあ・・・気が早すぎ。どちらにしろ今はだめだ」
「どうしてだ」
「王太后様とお茶を飲んでいる。王太后様の邪魔をするなんて恐ろしいことは俺にはできん」
「はあ?それはダニエラたちに害が及ばないようにって建前じゃなかったのか?」
俺とトビーの会話に「すまん。セオ」とハルが頭を下げた。
「ダニエラは別室にいるし、アイリーンとネリーはそれぞれ親戚の家と実家に帰した。それで、エマもとりあえずアリンガム家に帰そうと思っていたのだが、母上が“エマの無事をこの目で確認したい”と言い張ってなー・・・。」
「お前・・・断れよ」
「・・・・すまん。今回は母上に協力してもらっただろ?断れなかったんだ・・・・」
確かに、王太后様がダニエラをお茶に呼んだことで侯爵が油断をした。だからって、それはエマに関係ないだろうが。
「セオ。なにも丸一日離れているわけじゃないんだからさ。」
俺の心を読んだのか、トビーが肩をたたいてきた。
*********
「まあ。エマ、本当に黒髪で緑色の瞳なのねえ」
王太后様は、どうやら国王様から聞いてはいたものの私の髪と瞳の色を実際に見たかったんだろうなあ・・・・私は時計をちらちら見ながらお茶を飲んでいた。
差し向かいで王太后様とお茶を飲むというのは、ゲイリーに誘拐されて救出されていらい2回目だ。
「エマったら、もうハルから押し付けられた仕事は終わったのよ。もっとリラックスしなくては」
「は、はあ・・・」
リラックス?それは無理です。王太后様の前で足をダラ~ンとか寝そべってお気に入りの小説読みながら、クッキーつまむとか・・・そんなの絶対無理ですから!!
「でも、エマにはやっぱりフェイス譲りの琥珀色が似合うわ。」
「ありがとうございます。私も鏡を見てもどうにも違和感があって」
「そうよねえ。でも、トビーに頼めば髪と瞳の色を変えてもらえるって分かったのはよかったわ」
「「は??」」
王太后様の発言に私とレリアさんが同時に返事をしてしまう。
「わたくしも、トビーに言って変えてもらおうかしら。そしたら気軽にフェイスのところに行けそうだもの。レリアもどう?」
「エリー様。私は賛成いたしかねます。」
「王太后様。私もレリアさんと同意見です・・・母も同じ意見をすると思います」
「そう?でも一度試しに・・・・」
「エリー様。なりません」
「もう、分かったわよ。レリアの“なりません”に逆らえないわ。」
レリアさんに二度目の否定をされて、王太后様はようやくあきらめたようだった。とはいえ、油断大敵な気がする・・・実家に帰ったら母にそれとなく言っておこうと私は決めた。
「・・・さて。そろそろセオドールがイライラしてるころかしらね」
王太后様が時計を見ながら楽しそうに言った。
「そうですね。セオドール様は意外と短気ですからね。昔からそうでした」
レリアさんと王太后様のやり取りの意味が分からないので、そのまま聞いていると「エマ」と王太后様から声をかけられた。
「はい」
「そろそろ、セオドールのもとにお戻りなさい。」
「はいっ!失礼します」
私はお辞儀をして部屋を出た。
王宮の廊下を走ってはいけないから早歩きで歩いた。
宰相室をノックすると、側で聞きたい声がした。
「セオ」と声をかけると、セオは書類を見ていた手を止めて顔を上げ立ち上がった。
「ただいま戻りました」
「エマ、おかえり。まだトビーに魔法を解除してもらってないのか?」
「まずはセオに会いたくて」
「・・・うん」
セオは私をぎゅっと抱きしめた。
読了ありがとうございました。
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国王様が下す処分の話のまえに
少し息抜き話をいれました。




